EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
ソウル駐在員 公認会計士 福田 悟
1989年、当法人に入所。主に建設業、流通業、金融機関をはじめとする国内企業の監査業務、J-SOX導入支援、US-SOX構築などアドバイザリー業務、IPOに従事。15年よりEYソウル事務所に現地日系企業担当として駐在。韓国に既進出、進出予定の日系企業の会計、税務、M&A、その他アドバイザリー業務のサポートに従事。
国際会計士連盟は2015年1月に、ISA701「独立監査人の監査報告書における監査上の主要な事項のコミュニケーション」を公表しました。
ISA701は監査人に対し、上場会社の監査報告書において監査上の主要な事項(Key Audit Matters:KAM)を報告することを求めるものであり、16年12月15日以降に終了する事業年度に対する財務諸表の監査から適用されています。
KAMとは、当該事業年度の財務諸表監査において監査人の職業的専門家としての判断により最も重要であるとした事項であり、監査人が統治責任者とコミュニケーションを行った事項の中から選択されます。
具体的には、監査報告書の独立した区分に次の事項が記載されます。
韓国では、11年よりIFRSが導入されており、上場会社に対して強制適用されています。
韓国ではここ数年、受注産業を中心に大型の粉飾決算が相次ぎました。特に造船会社D社(上場会社)の粉飾決算は工事進行基準を操作したものであり、担当した会計監査人も監督官庁から処分を受けるなど大きな事件となりました。
これらの事件を背景に、韓国では企業および監査人に対する規制が強化されており、その一環としてKAMが導入されました。
適用対象は上場会社のうち工事進行基準を適用する受注産業の会社で、16年12月期決算から適用されています。
造船会社D社の16年12月期監査報告書では、監査意見の次に「強調事項」の区分を設け、その中で「受注産業核心監査項目に対する監査人の強調事項など」のタイトルでKAMを記載しています。
KAMとして挙げられているのは、「進行基準による収益認識」「総契約原価見積りの不確実性」「工事進行率算定」「未請求工事金額の回収可能性」「工事変更に対する会計処理」「遅延賠償金に対する会計処理」の6項目です。
このうち「工事進行率算定」と「工事変更に対する会計処理」の実際の記載例は次のとおりです。
▶「工事進行率算定」の実際の記載例
財務諸表に対する注記4(重要な会計上の見積りおよび仮定)で説明されているように、会社は進行段階を反映することができない契約原価を除き、遂行した工事に対して発生した累積契約原価を見積総契約原価で按分(あんぶん)した割合で測定しています。
財務諸表に対する注記36(建設契約)で説明されているように、当期末進行中の建設契約に関連して総契約原価は2,005,450百万ウォン増加し、累積契約原価は31,670,377百万ウォンとなりました。主に海洋プロジェクトの工程遅延により総予定原価に比べ工事原価が大きく増加し、総契約原価見積の不確実性が増加するため、重要なリスクとして識別しました。
工事進行率算定に影響を及ぼす総契約原価と累積契約原価に関連し、私たちが遂行した主要監査手続は次のとおりです。
▶「 工事変更に対する会計処理」の実際の記載例
財務諸表に対する注記(重要な会計上の見積りおよび仮定)で説明されているように、会社は顧客が工事変更などによる収益金額の変動を承認する可能性が高いか、会社が成果基準を満たす可能性が高く、金額の信頼性のある測定が可能な場合に契約収益に含めています。
総契約収益は最初に合意された契約金額に基づき測定しますが、契約を遂行する過程で工事変更、補償金、奨励金により増加、または減少する可能性があります。このように契約収益の測定は将来事象の結果と関連するさまざまな不確実性の影響を受けることから、重要なリスクとして識別しました。
会社の工事変更の会計処理に対して私たちが遂行した主要監査手続は次のとおりです。
KAMの導入により、監査報告書の情報提供機能は確実に向上しています。
現在、韓国ではKAMの導入は工事進行基準を適用する受注産業に限定されていますが、韓国金融委員会は「会計透明性および信頼性向上のための総合対策」を公表し、上場会社全体への導入拡大の方向性を打ち出しています。