情報センサー

100%子会社間の会社分割に係る会計と税務 -平成29年度税制改正による影響、均等割への影響等-


情報センサー2017年12月号 押さえておきたい会計・税務・法律


公認会計士 太田達也

当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。


Ⅰ  はじめに

会社分割により、子会社間で事業を移転することがあります。事業の整理・統合を進める上で避けて通れない面もあります。この子会社間の会社分割については、平成29年度税制改正における適格分割となるための要件の一つである支配関係継続要件の見直しの影響も考慮に入れる必要があります。また、平成27年度地方税法の改正による法人住民税均等割に係る改正が影響する場面もあります。
本稿では、具体的な設例に基づき、そのような税制改正の影響も併せて説明します。なお、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておきます。
 

Ⅱ   100%子会社間の会社分割の会計処理・税務処理

以下、100%子会社間の会社分割の会計処理、税務処理および申告調整について、具体的な設例に基づき説明し、法人住民税均等割への影響についても、確認します。

設例 100%子会社間の会社分割の会計と税務

<前提条件>
同一の者(P社)との間に完全支配関係がある法人相互の関係である甲社と乙社との間で、会社分割を行うことになりました。無対価による会社分割を行っています※1。分割後における完全支配関係の継続が見込まれており、税務上の適格要件を満たしており、適格分割型分割に該当します。
甲社と乙社のそれぞれの会計処理、税務処理および地方税の法人住民税均等割への影響を示してください。

分割による移転

分割により移転する事業の簿価純資産額は、3,000万円(諸資産4,500万円、諸負債1,500万円)であったものとします。
なお、会計上の資本金の額と法人税法上の資本金等の額は一致しているものとします。また、剰余金は全額利益剰余金であり、償却超過額や有税の引当金等はなく、税務上の利益積立金額と一致しているものとします。
 

1. 甲社の処理

(1) 会計処理

分割法人である甲社は、企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」(以下、適用指針)の255項に準じて会計処理を行い、株主資本の額を変動させます(適用指針203-2項(2)②)。共通支配下の取引であるため、移転した事業の簿価純資産額について変動させます。変動させる株主資本の内訳は、取締役会等の会社の意思決定機関において定められた額とします(適用指針233項、446項)。仮に利益剰余金を変動させると決定したものとします。


会計処理

(2) 税務処理(法人税)

100%子会社同士の無対価分割の場合は、分割前に当該分割に係る分割法人と分割承継法人との間に同一の者(本設例の場合はP社)による完全支配関係がある場合で、かつ、同一の者が分割法人および分割承継法人の発行済株式等の全部を保有する関係である無対価の分割型分割であるときは、同一の者と分割承継法人との間にその同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれているときは※2、適格分割に該当することになります(法令4条の3第6項2号ロ)。
適格分割に該当する場合は、分割事業に係る資産および負債は分割法人における分割直前の帳簿価額により分割承継法人に引き継がれます。
また、本分割は適格分割型分割に該当します。分割法人の分割直前の資本金等の額に分割移転割合を乗じた額について分割法人において資本金等の額を減算し、分割承継法人において同額の資本金等の額を増加させます(法令8条1項6号、15号)。また、移転事業に係る諸資産の帳簿価額から①諸負債の帳簿価額および②資本金等の額の減算額の合計額を減算した額について計算される利益積立金額を分割法人において減少(または増加)させ、分割承継法人において同額の利益積立金額を増加(または減少)させます(法令9条1項3号、10号)。
分割法人における税務処理ですが、具体的には、まず資本金等の額の減少額(分割法人の資本金等の額×分割移転割合)を捉えてから、利益積立金額の減少または増加額(移転を受けた簿価純資産価額-減少資本金等の額)を捉えます。

分割法人における資本金等の額の減少額

本件の場合、次のように計算されます。

税務処理1
税務処理2

なお、甲社において会計上の利益剰余金を3,000万円減少させる旨を取締役会等で決議している場合は、次のように別表5(1)における振替調整が必要になると考えられます(<資料1>参照)。

資料1 別表5(1) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

「利益積立金額の計算に関する明細書」上の繰越損益金の欄において、分割による利益剰余金の3,000万円の減少を反映させます。ただし、税務上、利益積立金額が2,100万円減少し、資本金等の額が900万円減少するため、「利益積立金額の計算に関する明細書」と「資本金等の額の計算に関する明細書」との間でプラス・マイナス900万円の振替調整を入れます。これによって、利益積立金額は2,100万円減少し、資本金等の額は900万円減少することが正しく表されます。

(3) 地方税(均等割)の取扱い

法人税法上の資本金等の額が900万円減少し、資本金等の額が300万円(1,200万円-900万円)になりましたが、次の取扱いを考慮しなければなりません。
法人住民税均等割の税率区分の基準である資本金等の額が、資本金に資本準備金を加えた額を下回る場合、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額は資本金に資本準備金を加えた額とされます(地法52条4項)。本件の場合は、次のようになります。

地方税(均等割)の取扱い

法人住民税均等割の税率区分の基準となる額は、右辺の1,200万円になり、分割前と変わらないということになります。平成27年度税制改正前の取扱いでは均等割の税率区分が下がりましたが、この改正の影響により変わらない結果になります。

2. 乙社の処理

(1) 会計処理

共通支配下の取引に該当しますので、分割承継法人である乙社は、分割法人である甲社における分割直前の帳簿価額により諸資産および諸負債を引き継ぐとともに、甲社で変動させた株主資本の額を引き継ぎます(適用指針203-2項、256項)。原則として、分割法人で変動させた資本金および資本準備金をその他資本剰余金として引き継ぎ、分割法人で変動させた利益準備金をその他利益剰余金として引き継ぎます(適用指針437-2項、437-3項)。このように資本金および準備金として引き継がないのは、無対価であって、分割承継法人は新株を発行していないためです。

会計処理 乙社

(2) 税務処理

適格分割であるため、分割により移転する諸資産および諸負債を甲社における分割直前の帳簿価額で引き継ぎます。また、適格分割型分割であるため、甲社における資本金等の額900万円の減少と利益積立金額2,100万円の減少は、乙社においてそれぞれ増加になります。

税務処理 乙社

なお、甲社において会計上の利益剰余金を3,000万円減少させる旨を取締役会等で決議し、乙社においてそれを引き継ぐ会計処理を行った場合は、次のように別表5(1)における振替調整が必要になると考えられます(<資料2>参照)。

資料2 別表5(1) 利益積立金額および資本金等の額の計算に関する明細書

「利益積立金額の計算に関する明細書」上の繰越損益金の欄において、分割による利益剰余金の3,000万円の増加を反映します。ただし、税務上、利益積立金額が2,100万円増加し、資本金等の額が900万円増加するため、「利益積立金額の計算に関する明細書」と「資本金等の額の計算に関する明細書」との間でプラス・マイナス900万円の振替調整を入れます。これによって、利益積立金額は2,100万円増加し、資本金等の額は900万円増加することが正しく表されます。

(3) 地方税の取扱い

乙社の分割前の資本金等の額は1,000万円でしたが、分割により900万円増加し、1,900万円になりました。
法人住民税均等割の税率区分の基準である資本金等の額が、資本金に資本準備金を加えた額を下回る場合、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額を資本金に資本準備金を加えた額となりますが(地法52条4項)、本件の場合は、次のようになります。

地方税(均等割)の取扱い

左辺が右辺を下回ることはありませんので、法人住民税均等割の税率区分の基準となる額は、左辺の1,900万円ということになり、均等割の負担が上がる結果になります。
分割法人甲社においては均等割の負担が下がらないことになり、分割承継法人乙社においては均等割の負担が上がることになることについては一見違和感が生じますが、平成27年度地方税法の改正の影響によるものであり、このとおりになります※5。
 

Ⅲ 平成29年度税制改正における支配関係継続要件の見直し

平成29年度税制改正前は、分割前において分割法人および分割承継法人が同一の者との間に支配関係がある法人相互の関係にあるときの分割型分割が適格分割となるための支配関係継続要件については、分割後に分割法人と分割承継法人との間にその同一の者による支配関係が継続することが見込まれることが要件になっていました(旧法令4条の3第7項2号)。

分割後に分割法人を解散・清算により整理

平成29年度税制改正により、分割型分割については、先の要件が分割後に同一の者と分割承継法人との間の支配関係が継続することが見込まれることに改められました(法令4条の3第7項2号)。すなわち、同一の者と分割法人との間の支配関係の継続が見込まれていることが要件から除外されたことを意味します。本改正は、平成29年10月1日以後に行われる分割から適用されています。
継続を図る事業を分割により分割承継法人または新設法人(以下、分割承継法人等)に移転し、分割法人に整理事業を残した上で、分割後に分割法人を解散・清算することにより一定の事業を整理する手法が用いられることがあります。すなわち、子会社の事業の整理・統合を行う上で、継続を図る事業のみを会社分割により移転し、整理事業のみが残った分割法人を解散・清算する方法です。
この場合、分割当初において分割後における分割法人の解散・清算が計画されている場合には、親会社と分割法人との間の支配関係の継続が見込まれていないことになり、平成29年度税制改正前は、非適格分割とされました。
改正後は、親会社と分割承継法人等との間の支配関係の継続が見込まれていればよい取扱いに改められましたので、他の要件さえ満たしていれば、適格分割に該当することになります。適格分割に該当する場合、課税関係を生じさせないで実行できるため、この手法を使いやすくなったといえます。
 

(注)文中、法令条文等は、以下のとおり略して記載しています。
   法令:法人税法施行令
   地法:地方税法
 

※1 100%子会社間の分割の場合、分割承継法人である子会社から分割法人である子会社の株主である親会社に新株を発行しても、親会社の持つ子会社株式の数が増加するだけであり、発行してもしなくても100%の持分には何ら変わりはないため、発行する意味が特にない。無対価で行うのが通常であると考えられる。

※2 平成29年度税制改正前は、分割後に分割法人と分割承継法人との間にその同一の者による完全支配関係が継続することが見込まれることが要件であった。分割後における同一の者による分割法人との間の完全支配関係の継続が見込まれることは要件上必要なくなった。本改正は、平成29年10月1日以後に行われる分割について適用される。

※3 当該金額は、分割承継法人における資本金等の額の増加額となる。

※4 計算結果がマイナスであるときは、絶対値を増加させることになる。

※5 甲社において資本金の減少を行い、資本金の額を1,000万円以下に減少させた場合には、甲社において均等割の負担が下がることになる。


「情報センサー2017年12月号 押さえておきたい会計・税務・法律」をダウンロード



情報センサー
2017年12月号
 

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。