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平成30年度税制改正大綱


情報センサー2018年3月号 Tax update


EY税理士法人 公認会計士 南波 洋

1993年から、太田昭和アーンスト アンド ヤング(現EY税理士法人)にて、日本企業・外資系多国籍企業に対する国内および国際税務アドバイザリー業務に従事。国際税務、税制改正、組織再編税制などに係る講演、寄稿、執筆多数。2004年から、日本公認会計士協会 租税調査会国際租税専門部会 専門委員。


Ⅰ はじめに


平成29年12月14日に、平成30年度与党税制改正大綱が公表されました。以下、大綱で明らかにされた主として法人に関連する改正・見直し項目の概要を説明します。なお、国会における法案審議の過程において、一部項目の修正・削除・追加などが行われる可能性があることにご留意ください。

Ⅱ 法人課税


1. 賃上げ及び生産性向上のための税制パッケージ

(1) 所得拡大促進税制の見直し・拡充

大企業が賃上げや設備投資を一定割合以上行った場合には、給与支給増加額の15%の税額控除ができる制度になります。さらに教育訓練費の増加要件を満たす場合には、20%の税額控除が認められます。平成30年4月から3年間の時限措置です。

(2) 情報連携投資等の促進にかかる税制(IoT投資税制)の創設

企業内外のデータを連携・高度利活用することにより、生産性の向上を図る一定の要件を満たす情報連携投資を行った場合、ソフトウエア・設備等の取得価額について特別償却(30%)又は税額控除(5%あるいは3%)ができる措置が講じられます(3年間の時限措置)。

(3) 租税特別措置の適用要件の見直し

所得が増加しているにもかかわらず、賃上げや設備投資をほとんど行っていない大企業について、生産性の向上に関連する税額控除(研究開発税制等)の適用を行わないこととします(3年間の時限措置)。

2. 株式を対価とする株式等の譲渡(株式対価M&A)にかかる所得計算の特例の創設

産業競争力強化法の特別事業再編(仮称)に基づき、保有する株式を譲渡し、対価としてその認定を受けた事業者の株式の交付を受けた場合には、その譲渡した株式の譲渡損益の計上を繰り延べることとされます(3年間の時限措置)。

3. その他


  • 組織再編税制の適格要件等が一部見直されます。
  • 交際費の損金不算入制度の適用期限が2年延長されます。
  • 欠損金繰戻還付の不適用措置の適用期限が2年延長されます。
  • 中小企業の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例の適用期限が2年延長されます。

Ⅲ 国際課税


1. 恒久的施設(PE)関連規定の見直し

わが国の国内法におけるPEの定義規定に、PE認定の人為的回避防止措置が導入されます。国際的スタンダード※1に合わせる見直しです。


  • いわゆる「代理人PE」について、その範囲に、外国法人等の資産の所有権の移転等に関する契約の締結に関する業務を行う者が追加されます。また、「独立代理人」の範囲から、専ら又は主として一又は二以上の自己と密接に関連する者(持分割合50%超の関係にある者等)に代わって行動する者が除外されます。
  • 保管、展示、引渡しなどの特定の活動を行う一定の場所等は、PEに含まれないものとされます。ただし、その活動が外国法人等の事業の遂行にとって準備的又は補助的な機能を有するものでない場合にはPEに該当することとされます。
  • いわゆる「建設PE」の期間要件について、PE認定回避を目的として契約期間を分割した場合には、分割された期間を合計して判定を行うこととされます。

前記の改正は、平成31年分以後の所得税及び平成31年1月1日以後に開始する事業年度分の法人税について適用されます。

2. 外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)の見直し

外国企業をターゲットにした国際的M&A実施後の再編・統合(PMI:ポスト・マージャー・インテグレーション)に伴う外国関係会社株式の移転に伴う譲渡益に係る取扱いが見直されます。一定の要件を満たした場合には、当該譲渡を行った外国関係会社が合算対象会社であったとしても、株式移転に伴う譲渡益は適用対象金額の計算上控除されることとなります※2。この改正は、外国関係会社の平成30年4月1日以後に開始する事業年度から適用されます。

Ⅳ 個人所得課税・事業承継課税・資産課税


1. 個人所得課税(所得控除)の見直し


  • 給与所得控除額が一律10万円引き下げられます。給与所得控除の上限額が適用される給与等の収入金額を850万円として、その上限額が195万円に引き下げられます。子育て世帯、介護世帯には負担増が生じないように配慮がなされます。
  • 基礎控除額が一律10万円引き上げられます。合計所得金額が2,500万円を超える個人については基礎控除の適用ができないことになります。
  • 高額の年金収入を得る高齢者について、公的年金等控除が引き下げられます。
  • これらの改正は平成32年分以後の所得税について適用されます。

2. 事業承継課税の見直し

事業承継税制について、10年間の特例措置として、各種要件の緩和を含む抜本的な拡充が行われます。

3. その他


  • 一般社団法人・一般財団法人に財産を移転することによる課税逃れや、小規模宅地等の特例の本来の趣旨を逸脱した悪用を防止する観点から、贈与税・相続税の課税の適正化が図られます。
  • 外国人が出国後に行った相続・贈与については、原則として、国外財産を相続税等の課税対象とはしないこととします。
  • 中小企業の一定の要件を満たす設備投資について、固定資産税を2分の1からゼロまで軽減することを可能とする3年間の時限的な特例措置が創設されます。

Ⅴ その他の改正・見直し


1. 収益認識基準の見直し


  • 法人税における収益の認識基準について見直しがなされます。
  • 返品調整引当金制度は廃止されます(経過措置が講じられます)。
  • 法人税・消費税における長期割賦販売等にかかる延払基準は廃止されます(経過措置が講じられます)。

2. 税務手続における電子化の促進

大法人(資本金の額が1億円を超える法人等)については、法人税等は平成32年4月1日以後に開始する事業年度から、消費税は同日以後に開始する課税期間から電子申告が義務化されます。


※1 BEPS報告書、新OECDモデル租税条約、BEPS防止措置実施条約(MLI)
※2 譲渡の日から2年以内に当該譲渡をした外国関係会社の解散が見込まれること、などが要件とされる。


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