情報センサー

金融機関による「事業性評価」について


情報センサー2018年3月号 Trend watcher


EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株) 小林 寿人

国内コンサルティングファームにて不動産評価、債権評価、事業再生業務などに従事した後、2012年に当社入社。現在、主に業況の厳しい企業に対して、事業計画策定支援業務、事業デューデリジェンス業務などの事業再生・再構築サービスを提供している。医療機器製造販売業、自動車部品製造業、病院・老人介護施設など幅広い業界に関する実績を有する。


Ⅰ はじめに


「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律(以下、円滑化法)」終了後、政府・金融庁は中小企業の経営支援に向けた各種取り組みを行っています。本稿では、その中で重点施策として掲げられている金融機関による「事業性評価」について解説します。

Ⅱ 事業性評価推進の背景


「円滑化法」終了後も返済期限の延長などの貸付条件の変更に向けた取り組みは継続されており、条件変更件数は<図1>の通り800万件を超えています。


図1 貸付条件変更の実行件数(累計)

このような状況下、平成26事務年度以降、金融庁では「事業性評価」に基づく支援を重点施策として掲げており、取引先の事業性に応じた金融機関の対応に注目が高まっています。

Ⅲ 事業性評価の定義


「平成26事務年度金融モニタリング基本方針」には、「金融機関は、財務データや担保・保証に必要以上に依存することなく、借り手企業の事業の内容や成長可能性などを適切に評価し(「事業性評価」)、融資や助言を行い」との記載があります。事業性評価とは、金融機関の融資判断において、対象企業の現在から将来にわたる定性的情報を評価することであり、かつ広義ではそれを定量的情報と組み合わせて活用する(融資/支援など)ところまで含まれると考えられます。

Ⅳ 事業性評価の目的、流れ・手法


1. 目的

事業性評価は金融機関が顧客企業の事業を「知り」「整理し」「評価」することにより、従来の財務分析/担保評価では難しかった融資可能性を見いだし、「評価」までにとどまらず、金融機関内で情報共有するなどして本業支援などにその評価を「活用」することが必要であると考えられます。また、企業側から見ると、金融機関の事業性評価により融資を受ける蓋然(がいぜん)性が増大するため、積極的に協力する価値があると言えます。

2. 流れ・手法

事業性評価の流れ・手法を簡単にまとめたものが<図2>となります。「整理する」「評価する」段階においては、各種フレームワークを援用することで、より精緻かつ分かりやすい事業性評価になります。


図2 事業性評価の流れ・手法のイメージ

事業性評価のアウトプットとしては、「事業性評価シート」と称されるフォーマットを使用している金融機関が多く、主な記入項目は次の通りです。


  • 当該企業の製品・サービス・ビジネスモデルなどの特徴(強み・弱み)
  • 市場環境、競合環境
  • 今後の展開(新分野・技術への取り組み)
  • SWOT分析
  • SWOT分析を踏まえた金融機関による課題解決提案
  • 上記全てを踏まえた業績見込み(計画)

Ⅴ 事業性評価の活用


SWOT分析などの「評価」を通じて得られた「本業支援策」や「課題解決策」を、提案や融資判断の材料として活用することにより、事業性評価は完結すると解されます。

1. 本業支援策、課題解決策の提案

金融機関による提案として、主に以下のものが考えられます。


  • 販路拡大、ビジネスマッチング
  • 事業承継、M&A
  • 専門家派遣、外部機関活用
  • 海外展開支援 など

2. 融資判断

現状では、事業性評価を実際の融資判断につなげる仕組みにはさまざまな在り方が考えられ、組織を変更する金融機関も出てきています。以下は金融機関による実際の事業性評価の審査業務への取り入れ例となります。


  • 融資先の事業性評価を項目ごとに点数化して、一定以上の得点がある場合には融資決裁の権限を本部から営業店長に委譲
  • 信用格付における定性面の調整根拠として、事業性評価の結果を信用格付へ連動する仕組みを構築
  • 審査部を廃止し、「事業性評価部」を新設、融資審査のほかに、販路拡大や海外展開などの経営課題に対するアドバイスを提供
  • 審査部内に「事業性評価チーム」を立ち上げ、各支店の法人営業担当者をサポートしながら、資金需要を含めた取引先の要望にあった提案を実施

Ⅵ おわりに


冒頭に記した通り、円滑化法終了後も貸付条件変更件数は増加しており、中長期的な将来展望が不透明な企業は数多く存在すると考えられます。このような環境下、金融行政は事業性評価による融資および本業支援を求めており、各金融機関は対応に迫られています。
ただし、事業性評価への取り組みは始まったばかりであり、評価手法に定まったものはありません。事業性評価の目的はあくまでも融資や本業支援などによる顧客企業の課題解決であり、各金融機関には、評価モデルの構築に向けた不断の改善が求められます。
一方で企業側においては、評価を受けるだけではなく、場合によっては外部機関の支援を受けつつ、自ら事業計画を策定することなどによって金融機関に対してその事業性の訴求を行うことが、円滑な金融機関取引に結実すると同時に、中長期的な将来展望の一助になるものと思量します。


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