EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
会計監理部 公認会計士 加藤 圭介
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『連結手続における未実現利益・取引消去の実務』(中央経済社)、『業種別会計シリーズ 自動車産業』(第一法規)などがあるほか、雑誌への寄稿も行っている。
本稿では、平成30年3月期の有価証券報告書の作成に当たり、開示規則や会計基準等の主な改正による開示への影響、金融庁による有価証券報告書レビュー(以下、有報レビュー)の審査項目を踏まえた留意事項を解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
わが国では金融商品取引法と会社法による二つの法定開示制度が併存しています。平成26年に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2014」において企業と投資家の対話の促進が具体的施策として掲げられたことを受け、経済産業省が一体的・統合的な企業情報開示の実現に向けた方策等の提言を行いました。その後、関連省庁や公益財団法人 財務会計基準機構(FASF)、日本公認会計士協会等が個々に又は連携して、有価証券報告書と会社法による事業報告(以下、事業報告)等との一体的な開示に向けての検討が行われています。それらの検討により公表されたもののうち、平成30年3月期の有価証券報告書における開示内容に影響を及ぼすものについて、その背景を含め解説します。
平成30年1月26日に「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、開示府令)の改正が公布・施行されています。これは、平成28年4月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告における、事業報告等と有価証券報告書の開示内容の共通化・合理化や非財務情報の開示充実に向けた提言を踏まえ、有価証券報告書等の記載内容の改正を行うものであり、平成30年3月31日以後に終了する事業年度の有価証券報告書から適用されます。
有価証券報告書等の「大株主の状況」における株式所有割合の算定の基礎となる発行済株式について自己株式を控除することとし、事業報告の記載内容との共通化が図られます(開示府令 第二号様式、第三号様式等)。この改正に関する開示例は<図1>をご参照ください。
また、有価証券報告書における「大株主の状況」等の記載時点について、株主総会日程の柔軟化のために事業年度末から原則として議決権行使基準日に変更されますが(開示府令 第三号様式 記載上の注意(25))、これについても事業報告との共通化が図られることとなります。
新株予約権等の記載の合理化を図るために、以下の改正が行われました(開示府令 第二号様式 記載上の注意(39)(40)(41)、第三号様式 記載上の注意(19)(20)(21)等)。
①「新株予約権等の状況」「ライツプランの内容」及び「ストックオプション制度の内容」の項目の「新株予約権等の状況」への統合
②「新株予約権の状況」の現行様式の表の撤廃、ストックオプションについて財務諸表注記(日本基準の場合)の記載の参照を可能とすること
③「新株予約権等の状況」において有価証券報告書提出日の前月末現在の記載について、事業年度末の情報から変更がなければ、変更ない旨の記載のみでよいとすること
この改正の開示項目への影響の開示例は、<図2>をご参照ください。
「業績等の概要」及び「生産、受注及び販売の状況」を「財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に統合した上で、記載内容の整理が行われました(開示府令 第二号様式 記載上の注意(30)(31)(32)、第三号様式 記載上の注意(10)(11)(12)等)。また、経営成績等の状況の分析・検討の記載を充実させる観点から、以下の記載が求められます(開示府令 第二号様式 記載上の注意(32)、第三号様式 記載上の注意(12)等)。
平成30年3月30日にFASFにより「有価証券報告書の開示に関する事項-「一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について」を踏まえた取組-」(以下、本取組)が公表されました。本取組は、様式や内容を拘束するものではありませんが、金融商品取引法と会社法の両方の要請を満たす一つの書類を作成・開示するための参考とすることを目的として作成されたものであり、関係法令の解釈上、問題ない旨が金融庁及び法務省により示されています(「『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた取組について」)。
本取組では、「記載の共通化に向けた留意点」として、平成29年12月28日に公表された「一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について」(金融庁、法務省)において掲げられた項目を主な対象として、一体的な開示のための「作成にあたってのポイント」及び「記載事例」が示されています。この具体的な項目は<表1>のとおりです。
平成30年2月16日に企業会計基準第28号「『税効果会計に係る会計基準』の一部改正」(以下、税効果基準一部改正)が公表され、平成30年4月1日以後開始する年度の期首から原則適用されます。このうち表示及び注記に関する項目については、平成30年3月31日以後最初に終了する年度の年度末から早期適用できますが、表示又は注記の双方に早期適用する必要があります(「企業会計基準公開草案第60号『税効果会計に係る会計基準』の一部改正(案)等に対するコメント」35)コメントへの対応)。
従来の取扱いでは、関連した資産・負債の分類等に基づいて流動区分又は固定区分に表示していましたが、税効果基準一部改正適用後は、繰延税金資産は投資その他の資産の区分に、繰延税金負債は固定負債の区分に表示し、流動区分への表示はされません。なお、適用初年度においては表示方法の変更に該当するため、比較情報を新たな表示方法に従い財務諸表の組替えを行うこととなります。ただし、評価性引当額の合計額を除く注記事項については、比較情報に記載しないことができます。
以下の注記事項が追加されます。
1)数値情報(繰延税金資産の発生原因別の主な内訳として記載された税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、評価性引当額を税務上の繰越欠損金と将来減算一時差異等の合計に区分して記載)(<図4>参照)
2)定性的な情報(評価性引当額(合計)に重要な変動が生じている場合、当該変動の主な内容)
② 税務上の繰越欠損金に関する情報
1)数値情報(税務上の繰越欠損金の額が重要であるときは、繰越期限別に税務上の繰越欠損金の税効果額・評価性引当額・繰延税金資産の額)(<図5>参照)
2)定性的な情報(税務上の繰越欠損金に係る重要な繰延税金資産を回収可能と判断した主な理由)
なお、連結財務諸表作成会社の個別財務諸表においては、① 1)のみが、追加的に注記が要求される項目となります。
平成29年12月22日に米国の税制改革法案が成立し、平成30年1月1日から適用される連邦法人税率の引き下げなどの変更が行われました。
連結子会社において適用される税率の変更により、連結財務諸表上の当期末の繰延税金資産及び繰延税金負債の金額が修正されたときは、その旨及び修正額を注記する必要があります(連結財務諸表規則第15条の5第1項第3号、税効果会計基準第四3)。会計処理上、繰延税金資産及び繰延税金負債の金額の修正は、当期首の金額に対して行われますが(個別税効果実務指針第19項)、注記における影響額は、期末時点の一時差異等を基礎に算出することに留意が必要です。
平成30年1月12日に、実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(以下、有償ストック・オプション取扱い)等が公表され、平成30年4月1日以後開始する年度から原則適用されますが、公表日以後終了する年度からの早期適用も認められます。有償ストック・オプション取扱いを適用した場合には、企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」等に従った注記を行います(有償ストック・オプション取扱い第9項)。ただし、経過的な取扱いにより有償ストック・オプション取扱いの適用前に付与した取引について従来採用していた会計処理を継続する場合には、次の事項を注記します(有償ストック・オプション取扱い第10項(3))。
公表済みかつ未適用の会計基準がある場合には、重要性が乏しいものを除き会計基準の名称及びその概要、適用予定日、財務諸表に与える影響に関する事項を注記することとされています(財務諸表等規則第8条3の3、連結財務諸表規則第14条の4)。当期末においては、税効果基準一部改正、有償ストック・オプション取扱い、実務対応報告第38号「資金決済法における仮想通貨の会計処理等に関する当面の取扱い」及び企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等について、早期適用されたもの又は重要性が乏しいものを除き注記が必要となります。
有価証券報告書の記載内容の適正性を確保する目的の下、毎年、金融庁と財務局等との連携により有報レビューが行われています。平成30年度の有報レビューの概要は<表2>のとおりです。
過去の有報レビューの重点テーマ項目は<表3>のとおりです。
有報レビューのうち開示の側面からの審査では、主に注記事項の記載内容が不十分である点や会計基準や開示規則等の適用が誤っている点が指摘されています。平成29年度のレビュー結果においては、企業結合及び事業分離等について開示に関する指摘事項が公表されていますが、その内容を踏まえた留意事項は以下のとおりです。