情報センサー

海外子会社管理におけるCSAの活用


情報センサー2018年5月号 EY Advisory


EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング(株)
豪州公認会計士 公認内部監査人 鈴木 章嗣

海外事業会社での経験を経て、当社にて海外子会社向けの内部監査、リスクマネジメント、内部統制に係る構築・高度化支援業務などの各種アドバイザリー業務に従事している。


Ⅰ はじめに


平成26年の会社法改正を受け、コーポレート・ガバナンスの強化および親子会社に関する規律等の整備が図られており、グループガバナンスや海外子会社マネジメントの在り方や実務に大きな影響を及ぼしています。内部統制システムに関連する会社法改正として「当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正」を確保するための体制の整備が規定され、その上で、「内部統制システムの運用状況の概要」を事業報告の内容として開示することが求められています。内部統制システムの運用状況を報告・評価するためには、親会社の取締役は海外子会社を含めたグループ内部統制システムが適切に整備・運用されているかなどを監督することを求められます。
本稿では、主に海外子会社の内部統制の整備や評価に携わる方向けに、海外子会社管理実務におけるコントロールセルフアセスメント(CSA)の活用について説明します。CSAとは、業務を最もよく知っている現場の担当者自身が自らの業務に係るリスクとコントロールの状況の評価と改善策について検討することにより、内部統制の改善・強化を図るとともに、業務のリスク・コントロールに関する理解を深めてもらう方法です。CSAの形式は、大きく「質問書形式」と「ワークショップ形式」に分類されますが、本稿におけるCSAは「質問書形式」を指しています。

Ⅱ 海外子会社管理ニーズの高まり


経営のグローバリゼーションが叫ばれる昨今、日本企業の海外進出や事業活動のグローバル化が進んでいます。経済産業省が公表している調査報告書「第46回海外事業活動基本調査(2015年度)」によれば、調査対象の企業※の製造業における海外生産比率(国内全法人ベース25.3%)は過去最高水準となり、現地法人の売上高は274兆円(前年度比+0.7%)に達しています。
一方で、親会社の目の届きにくい海外拠点では大小さまざまな不正が発生しており、17年1月~12月に公表された適時開示情報において不適切な会計処理などを開示したもののうち、約20%は海外拠点に起因しています。

Ⅲ 海外子会社管理の施策


1. 海外子会社管理の現状

海外子会社のグループ内部統制システムの整備に向けて、まずは次のような枠組みや組織体制の整備などのハード面から導入することが考えられます。


  • 主要人事ポストの確保

  • 組織設定の再編成(権限設定や組織体系の本社ミラー化等)

  • 規程・ルールの整備

  • 社員への教育・研修

しかし、グループ内部統制が適正に運用されているかは、後回しになっているケースが多くみられます。その運用を評価するためにはモニタリング機能の強化が求められ、また企業のモニタリング機能を担う内部監査部門の役割が重要となります。一方、海外拠点を多く抱える企業では内部監査部門が十分なリソースを保持しておらず、監査頻度が低下するなど質・量ともに十分な評価を実施する上での課題を抱えています。

2. CSAの活用

CSAは、網羅的にモニタリング機能を発揮するためだけでなく、本社が海外子会社に求める標準的な内部統制レベルを示す実践的なガイドラインとしても効果的な手法です。
CSA導入の一般的なフェーズおよびタスクは<図1>の通りです。


図1 CSAにおける一般的なフェーズとタスク

また、CSA導入により、次のような効果が挙げられます。


  • 内部統制上の問題の早期発見・改善
    CSAを実施することにより、会社全体における内部統制上の不備を適宜発見し、早期改善につなげることが期待される。

  • 社員のリスク管理意識・理解の向上
    リスク・コントロールに対する社員の意識・理解を高め、内部統制上の問題の発生を未然に防ぐことが期待される。

  • 内部監査の補完
    内部監査部門のリソース(人的資源)だけではカバーしきれない業務・組織について、CSAを実施することで、モニタリング機能を補完することができる。

  • 内部監査リソース(人的・財務的資源)の効率的活用
    CSAによりリスクが高いと評価された業務・組織について、内部監査の頻度を高め、かつ限られた内部監査リソース(人的・財務的資源)を重点的に投入することにより、効率的かつ効果的な内部監査を実現できる。

3. CSAにおける本社コーポレート機能の連携

多くの企業で海外子会社管理の効率性・有効性を見直す余地があると考えられます。
社内にはさまざまな管理活動が存在しています。それぞれコーポレート部門(セカンドラインディフェンス)が連携せずに別々の活動として行われると、次のような可能性があります。


  • 管理活動の重複によるコスト増

  • 現場の負担増大(監査・チェック・自己点検等)

各コーポレート部門の管理活動で求める標準的な内部統制を定義し、CSAに一元化することで管理プロセスが統合され、またCSA結果をコーポレート部門間で共有することで管理活動の効率化が進みます(<図2>参照)。


図2 CSA導入モデル(例)

このようにコーポレート部門の連携により、ばらつきや重複感があった海外子会社管理がグループ全体で統一的なものとなり、また各子会社の負担も軽減されます。
内部監査部門や各コーポレート部門などの部門間の調整、標準統制レベルの集約や海外子会社への展開など、旗振り役として主導するCSA推進部門の役割は重要となります。CSA実施ガイドラインなどの社内規程を整備し、CSAの目的や推進部門、各コーポレート部門および内部監査部門の役割や責任を明確にしておくことも重要です。

Ⅳ おわりに


海外拠点を含めたグループ内部統制システム構築により、従前の問題が発生した拠点への場当たり的な対応から、グループ企業全体で企業価値を向上させる実質を伴った管理を志向する企業が増えてくるものと思われます。また、地域や国でばらつきがあった海外子会社管理にCSAを用いて親会社の求める水準を標準化することにより、結果として、被管理拠点の負担軽減やグループ全体の内部統制の底上げにつながります。
本稿が海外子会社管理の構築に向けて、皆さまのお役に立つことができれば幸いです。


※ 2016(平成28)年3月末現在で、海外に現地法人を有するわが国企業(金融・保険業、不動産業を除く。以下「本社企業」という)。集計対象(操業中)企業数(本社企業 6,766社、現地法人 25,233社)・回収率(74.7%)


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