EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
マーケッツ 島田 英海
グローバル金融機関の統合・再編・M&Aに関わるプロジェクトを支援。フィンテック投資を推進し、テクノロジーセクターのイノベーション創出に注力している。
ブロックチェーンは金融やさまざまな分野に応用が期待されるイノベーションとして注目を集めています。
本稿では、ブロックチェーンの技術要素は何か、ブロックチェーンによるイノベーションの課題は何か、また、ブロックチェーン市場はどのような発展段階をたどっていくのかを検討します。
ブロックチェーンは、P2Pネットワークを使った分散型のプラットフォームです。言い換えれば、ノード(ネットワーク参加者)のブロック取引を分散して管理するシステムです。ブロックチェーンは暗号化技術で改ざんを防止し、電子署名とハッシュ関数を用いて高いセキュリティを実現しています。コンセンサス・アルゴリズム(合意形成)の仕組みにより、プルーフ・オブ・ワーク(計算による証明)と呼ばれる方式で情報の正確性を検証しています。ブロックチェーンの契約はプログラム化され、スマート・コントラクト(契約の自動化)では契約条件が満たされれば自立的に実行する仕組みとなります。(<図1>参照)
ブロックチェーンを活用する企業にとっては、管理体制やITシステムのサイバー対策の強化などの情報セキュリティが喫緊の課題となります。暗号通貨で資金決済を取り扱うためには、利用者保護の観点から顧客の身元確認やマネーロンダリングの対応は必要不可欠と言えます。また、取引規模が大きくなるに従って、技術者の確保や経営陣の充実も重要となり、不正取引の防止やガバナンス強化の対策が必要です。
ベンチャー企業は、ブロックチェーンの実用性を見いだして、仮想通貨の開発からさまざまなサービスを生み出してきました。ICO※やスポンサーからの資金調達を得て、小規模で事業を始めるスタートアップ段階には、斬新なアイデアで顧客のニーズをつかんできました。
大企業が有望なベンチャー企業に出資・提携することにより、ブロックチェーン市場を拡大しています。コーポレート・ベンチャー・キャピタルやオープンイノベーションを通じて、大企業とベンチャー企業が連携する動きが活発となっています。
日本においては、改正資金決済法により仮想通貨の法律上の定義がなされ、仮想通貨交換業者が登録制となるなど規制の強化が進んでいます。また、グローバルにおいてもG20で仮想資産の規制導入が議論されています。ブロックチェーン市場への参入者が増えるにつれ、企業間の競争が激化し、業界の再編と淘汰(とうた)が進むものと想定されます。
ブロックチェーンを活用したビジネスは高度化し、M&Aによる企業成長と市場の寡占化が進んでいくものと想定されます。その周辺事業であるサイバーセキュリティ、クラウド、決済認証などのテクノロジーが発展し、安定成長の段階に入るものとみています。(<図2>参照)
ブロックチェーンは、金融・リテール・輸送などの領域において、情報通信やIT企業のビジネス機会をもたらすことが想定されます。ブロックチェーン市場の参入を検討する企業経営者としては、海外のナレッジを取り入れて、市場動向や法規制、リスク管理・セキュリティおよび財務・会計の課題に取り組むことが重要になります。
※ Initial Coin Offering:コイン(デジタルトークン・暗号通貨)の発行による資金調達ファンディング