情報センサー

IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の表示・開示

2018年7月2日 PDF
カテゴリー IFRS実務講座

情報センサー2018年7月号 IFRS実務講座

IFRSデスク 公認会計士 下村 祐太

当法人入所後、主に総合電機メーカー、IT関連企業等の会計監査などに従事。2013年より英国EYに駐在し、IFRSを適用している複数の現地企業の監査に従事。15年に帰任後、IFRSデスクにて、IFRS導入支援、IFRS関連の研修講師に携わる。

Ⅰ はじめに

新しい収益認識基準であるIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(以下、IFRS第15号)が、当年度より強制適用(2018年1月1日以後開始する事業年度より強制適用)されます。
IFRS第15号では、従来の開示の実務及び財務報告の有用性を改善するために、開示規定が増大しています。本稿では、IFRS第15号の表示・開示の規定の概要と移行初年度の開示について紹介します。なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りします。

Ⅱ 財務諸表本表における表示(契約資産・契約負債)

IFRS第15号では、契約当事者のいずれかが義務を履行した場合に、契約資産又は契約負債を財政状態計算書に表示することが求められています(契約資産・契約負債の概念は<図1>参照)。なお、企業の財又はサービスを提供する義務の履行と対価の受領との関係を契約資産・契約負債のいずれとして表示すべきかの判断は、履行義務単位ではなく、契約単位で行われます。そのため、一つの契約に対して、契約資産と契約負債の両方が認識されることはなく、純額で契約資産又は契約負債のいずれかが認識されることとなります。

図1 契約資産及び契約負債

また、契約負債と類似する概念として返金負債があります。返金負債は、顧客から対価を受け取っているものの、その対価の一部又は全部を顧客に返金すると見込んでいる場合に認識されるもので、返品権付販売や将来支払うことが見込まれるリベート等から生じるものです。そのため、通常は、財又はサービスを顧客に提供する義務を表すものではないため、契約負債に該当しないと考えられます。

Ⅲ 開示の目的と開示規定

IFRS第15号の開示の目的は、顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することにあります。この目的を達成するために、全般的な開示規定に加え具体的な開示規定も設けられています(<表1>参照)。当該開示規定のうち、収益の分解及び残存履行義務における論点を以下にて紹介します。

表1 IFRS第15号の開示規定

1. 収益の分解

顧客との契約から認識した収益は、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性がどのように経済的要因による影響を受けるかを表すような区分に分解することが求められています。IFRS第15号には、どのように収益を分解すべきかの明示規定はありませんが、適用指針では、(a)財務諸表外で行われている開示(例:売上報告、年次報告書、投資家向け説明等)、(b)最高経営意思決定者が事業セグメントの財務業績の評価のために定期的にレビューしている情報、及び、(c)企業又は企業の財務諸表利用者が、企業の財務業績の評価又は資源配分の決定に利用する情報の全てを含めて考慮の上、分解することが求められています。
また、収益の分解は、一つの区分に従って開示すれば十分であるとは限らず、製品別、地域別及び収益認識の時期のように、複数の区分の組合せで開示することが有用な場合も想定されます。従って、どのような区分での開示が適切かの判断が求められます。

2. 残存履行義務

IFRS第15号では、未充足(又は部分的に未充足)の履行義務に配分した取引価格の総額の開示が求められます。当該開示は、有価証券報告書内の「事業の状況、生産、受注及び販売の状況」における受注残に関する情報に相当するように一見すると思われます。しかし、受注残に関する情報として、工事契約や受注製造に係る金額のみを集計し、サービス提供契約に係る未充足の履行義務については集計していないケースや、単体ベースの金額のみを開示しているケースなども考えられるため、IFRS第15号の開示要求を満たす金額を集計できる体制が整っているか確認することが望まれます。

Ⅳ 移行初年度における開示

1. 年次財務諸表

IFRS第15号の適用は会計方針の変更に該当するため、移行初年度においては、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬(びゅう)」に従って、会計方針の変更による開示が求められます。また、移行措置として完全遡及アプローチと修正遡及アプローチが認められていますが、それぞれについて移行初年度の開示要求が規定されています(<表1>参照)。

2. 期中財務諸表

IAS第34号「期中財務報告」において、直近の年次財務諸表から会計方針の変更があった場合には、変更の内容及び影響の説明が求められています。そのため、移行初年度の期中財務諸表では、IAS第34号における開示要求でもある収益の分解に加え、履行義務の内容や充足時点等の会計方針についても、一定のレベルでの開示が必要になります。

Ⅴ おわりに

IFRS第15号では、従来の収益基準であるIAS第18号「収益」及びIAS第11号「工事契約」に比べ開示要求が増大しています。これらの開示要求に対応するためには、追加的な情報収集を要することが想定されます。そのため、開示に必要な情報が収集できる体制が適切に整備されているか確認することが望まれます。

関連資料を表示

  • 「情報センサー2018年7月号 IFRS実務講座」をダウンロード

情報センサー2018年7月号

情報センサー

2018年7月号

※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。

 

詳しく見る