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税効果会計の実務ポイント解説シリーズ 第1回 繰延税金資産の回収可能性

2018年9月28日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2018年10月号 会計情報レポート

会計監理部 公認会計士 鈴木 真策

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに国内事業会社の監査業務に従事。主な著書(共著)に『何が変わる?-収益認識の実務-影響と対応-』『会社法決算書の読み方・作り方(第12版)』(いずれも中央経済社)がある。

Ⅰ はじめに

税効果会計を行うに当たっては、繰延税金資産の回収可能性、課税所得の見積り、連結税効果、組織再編に係る税効果、連結納税制度を適用する場合の税効果会計など、実務上の論点が多岐にわたっています。本連載では、実務で直面する諸問題の解決に資するよう、税効果会計に関する実務上の論点をシリーズで分かりやすく解説します。
第1回の本稿では、個別財務諸表における税効果会計に関する実務論点のうち、繰延税金資産の回収可能性に関する論点を取り上げます。
なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめお断りします。

Ⅱ 繰延税金資産の回収可能性

1. 繰延税金資産の回収可能性の判断

繰延税金資産の基礎となる将来減算一時差異及び繰越欠損金は、その解消及び相殺時に課税所得の計算上減額されるものです。従って、繰延税金資産の回収可能性は、繰延税金資産に将来の税金負担額を軽減する効果があるかどうかを判断することになります。将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産が、将来の税金負担額を軽減する効果を有するかどうかは以下の3項目に基づき判断するものとされています(繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針(以下、回収可能性適用指針)6項)。

  • 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得
  • タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得
  • 将来加算一時差異

2. 企業の分類と繰延税金資産の回収可能性に関する論点

回収可能性適用指針では、収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得等に基づいて繰延税金資産の回収可能性を判断する際には、一定の要件に基づき企業を分類し、当該分類に応じて、回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定することとしており、(分類1)から(分類3)までの企業に該当するか否かの判断基準として、過去(3年)及び当期の「課税所得」を用いるとともに、「近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない」こと等、<表1>のとおりの要件を定めています(回収可能性適用指針15項、17項(1)、19項(1)22項(1))。また、各分類における原則的な回収可能性の判断は<表2>のとおりとされています(回収可能性適用指針18項、20項、23項、27項、31項)。
これら企業の分類と繰延税金資産の回収可能性に関して以下の点が論点となると考えられます。

(1) 繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針における課税所得の概念

回収可能性適用指針における企業の分類の要件に用いられている「課税所得」は、繰越欠損金控除「前」か、繰越欠損金控除「後」のどちらで考えるのかが論点となります。
この点、回収可能性適用指針3項(7)において、課税所得の定義上、繰越欠損金には言及していません。また、同適用指針において、将来減算一時差異が解消した時に税金負担額を軽減したかどうかに関する実績を把握するために課税所得を使用することとしており(回収可能性適用指針58項)、繰越欠損金が税金負担額を軽減したかどうかには言及していません。このため、企業の分類に当たって用いる「課税所得」は、繰越欠損金控除「前」の概念を前提としていると考えられます。これは、企業の分類の判定における過去の「課税所得」が、将来において繰延税金資産の回収可能性を判断するための指標として用いられるものであるためです。

(2) 税務上の欠損金が発生した場合の(分類3)の要件への当てはめ

<表1>のとおり、(分類3)の要件の一つは、臨時的な原因により発生したものを除いた課税所得が大きく増減しているというものですが、「課税所得」とされていることから、税務上の欠損金が生じた場合には、(分類3)に該当しないのかが論点となります。

表1 (分類1)から(分類3)までの要件

この点、回収可能性適用指針第22項(2)なお書きでは、(分類3)の要件における「課税所得」は、負の値となる場合を含むとされています。従って、課税所得が大きく増減した結果として重要でない税務上の欠損金が生じたとしても、それをもって(分類3)の要件から外れるものではないと考えられます。

(3) (分類5)に該当する企業の税効果

<表2>のとおり、回収可能性適用指針では(分類5)に該当する企業は、原則として、繰延税金資産の回収可能性はないものとされていますが、(分類5)に該当する企業は、繰延税金資産を計上することはできないのかが論点となります。

表2 各分類における原則的な回収可能性の判断

この点、(分類5)に該当する企業においては、原則として、将来年度の会社の収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得により回収される繰延税金資産の回収可能性はないと考えられます。ただし、スケジューリングの結果、将来加算一時差異の解消見込額と相殺可能な将来減算一時差異の解消見込額に関して、回収可能と判断される場合には、(分類5)に該当する企業であっても、当該将来減算一時差異に係る繰延税金資産を計上するものと考えられます。なお、(分類4)に該当する企業においては、翌期の一時差異等加減算前課税所得の見積額に基づきスケジューリングを行い、繰延税金資産を見積ると定められていますが、翌期以降に解消見込の将来加算一時差異がある場合の取扱いは前記(分類5)に該当する企業と同様であると考えられます。

※ 各年度で相殺し切れなかった額について、税務上認められる繰越・繰戻期間内で相殺可能なケースを含む。

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