情報センサー

2019年6月第1四半期 決算上の留意事項


情報センサー2019年7月号 会計情報レポート


会計監理部 公認会計士 加藤 圭介
      公認会計士 鈴木 真策
      公認会計士 村田 貴広

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『何が変わる? 収益認識の実務-影響と対応-』『連結手続における未実現利益・取引消去の実務』『ここが変わった!税効果会計―繰延税金資産の回収可能性へのインパクト』(いずれも中央経済社)などがある。


Ⅰ はじめに

2019年6月第1四半期より、2018年に改正された実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」及び実務対応報告第24号「持分法適用関連会社の会計処理に関する当面の取扱い」(以下、改正実務対応報告18号等)が原則適用されます。また、2019年3月に実務対応報告公開草案第57号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い(案)」(以下、実務対応報告18号改正案)が公表されていますが、近日中に最終化されたものが公表され、同日に適用される予定とされています。
このほかにも、改正企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下、改正企業結合会計基準)も原則適用されるほか、「企業内容等の開示に関する内閣府令」(以下、開示府令)が改正され、四半期報告書の記載事項が拡充されています。
さらに、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、収益認識会計基準)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」の早期適用が可能となっています。
本稿では、これらを中心に2019年6月第1四半期決算に当たっての留意事項を解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者らの私見であることをあらかじめお断りします。

 

Ⅱ 改正企業結合会計基準

2019年1月16日に、企業会計基準委員会(ASBJ)より改正企業結合会計基準が公表され、2019年4月1日以後開始する事業年度の期首以後実施される組織再編から適用されています。今回の改正により、対価が返還される条件付取得対価の会計処理が明確化されました。

1. 対価が返還される条件付取得対価の会計処理

対価が返還される条件付取得対価の会計処理は、対価の交付を行う場合と基本的に同様の会計処理とされています。すなわち、条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合において、対価の一部が返還されるときには、条件付取得対価の返還が確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、返還される対価の金額を取得原価から減額するとともに、のれんを減額する又は負ののれんを追加的に認識することとされています(改正企業結合会計基準27項(1))。また、追加的に認識する又は減額するのれん又は負ののれんは、企業結合日時点で認識又は減額されたものと仮定して計算し、追加認識又は減額する事業年度以前に対応する償却額及び減損損失額は損益として処理することとされています(改正企業結合会計基準(注4))。

2. 適用初年度の取扱い

改正企業結合会計基準及び改正結合分離適用指針(以下、本改正)の適用初年度において、これまでの会計処理と異なることとなる場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うこととされています。
なお、本改正の適用前に行われた企業結合及び事業分離等の会計処理の従前の取扱いについては、本改正の適用後においても継続することとし、会計処理の見直し及び遡及(そきゅう)的な処理は行わないこととされています。

 

Ⅲ 実務対応報告18号等の改正

1. IFRS第9号「金融商品」の取扱い

2018年9月14日に改正された実務対応報告18号等(以下、2018年改正実務対応報告18号等)は、2019年4月1日以後開始する連結会計年度の期首から原則適用となっています。

(1) 改正の内容

在外子会社等においてIFRS第9号「金融商品」(以下、IFRS第9号)を適用し、資本性金融商品の公正価値の事後的な変動をその他の包括利益に表示する選択(いわゆるOCIオプション)をしている場合、売却損益及び減損損失の累計額は、その他の包括利益に表示され、純損益への組替調整は行われません。このため、今回の改正において、これらの組替調整を改正実務対応報告18号等における修正項目として追加することとされています(<表1>参照)。

(2) 適用初年度の取扱い

2018年改正実務対応報告18号等の適用初年度においては、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われることになります。ただし、以下の経過措置が認められています。


  • 会計方針の変更による累積的影響額を当該適用初年度の期首時点の利益剰余金に計上することができる
  • 上記の場合、在外子会社等においてIFRS第9号を早期適用しているときには、遡及適用した場合の累積的影響額を算定する上で、2018年改正実務対応報告等の適用初年度の期首時点で減損の判定ができる

2. IFRS及び米国会計基準における新しいリース基準の取扱い

(1) 当該改正の概要

2019年3月25日に実務対応報告18号改正案が公表され、IFRS及び米国会計基準における新しいリース基準であるIFRS第16号「リース」(以下、IFRS16)及び米国会計基準会計基準更新書第2016-2号「リース」(以下、ASC842)を実務対応報告18号等の当面の取扱いにおける新たな修正項目としないことが提案されています。当該内容のとおり最終化した場合には、連結子会社等においてIFRS16及びASC842に基づいて行われたリース取引の会計処理については、それを修正することなく(四半期)連結財務諸表を作成することとなります。当該改正については、最終化されたものの公表日から適用されることになりますので、今後の公表情報にご留意ください。

(2) 当四半期の連結財務諸表からIFRS16又はASC842を適用した在外子会社の財務
諸表を使用する場合の取扱い

① 会計方針の変更の注記

IFRS16は2019年1月1日以後開始事業年度から、ASC842は公開企業においては2018年12月15日より後に開始する事業年度、非公開企業においては2019年12月15日より後に開始する事業年度から原則適用されます。連結子会社等が適用しているIFRSや米国会計基準の改訂により会計処理基準の変更が行われる場合には、日本基準の連結財務諸表上は日本基準の改正(過年度遡及基準10項)に準じた注記を検討することになります。このため、連結子会社等におけるIFRS16又はASC842の適用による影響が連結財務諸表上も重要性がある場合には、四半期連結財務諸表において会計方針の変更の注記が必要となります。IFRS16及びASC842は、これまでのIFRSや米国会計基準の改訂と比べ、連結財務諸表、とりわけ連結貸借対照表への影響が大きいケースが想定されるため留意が必要です。

② 四半期連結財務諸表上の表示

IFRS16及びASC842では、借手のリース取引において「使用権資産」や「リース負債」などの新たな表示科目が使われます。実務対応報告18号は会計処理を定めるものであり、連結財務諸表の表示、注記は原則として連結財務諸表に関する会計基準や連結財務諸表規則等に従うとされていますが(実務対応報告公開草案第44号「連結財務諸表作成における在外子会社の会計処理に関する当面の取扱い(案)」に対するコメント コメント対応(2))、わが国における会計基準や開示規則上、連結子会社等がIFRS16又はASC842を適用したときの表示に関する明文の規定はありません。従って、基本的には各企業において、従来の表示方法との整合性や重要性等を踏まえ、適切な表示方法を検討する必要があると考えられます。なお、連結貸借対照表における「使用権資産」の表示については、以下の方法が考えられます。


  • 有形固定資産の「使用権資産」として表示(重要性がない場合には「その他」に含めて表示)
  • 有形固定資産のそれぞれの科目に含めて表示(従前からそれぞれの科目に含めていた場合)
  • 有形固定資産の「リース資産」に含めて表示(従前からそれぞれの科目に含めず、「リース資産」として表示していた場合)
  • 無形固定資産に「使用権資産」として表示(重要性がない場合には「その他」に含めて表示)

Ⅳ 開示府令の改正

2019年1月31日に、開示府令の改正が公布、施行されています。2018年6月に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」報告における「財務情報及び記述情報の充実」等に関する提言を踏まえ、四半期報告書の記載内容についての改正が行われています。

1. 適用時期

開示府令の主な改正内容は2020年4月1日以後開始年度の四半期報告書から原則適用されますが、2019年4月1日以後開始年度の四半期報告書から早期適用することができます。
なお、開示府令上、2019年6月第1四半期の四半期報告書からの早期適用について、前期の有価証券報告書において早期適用をしているか否かを要件とする旨の規定はありませんが、前期の有価証券報告書で改正後の開示府令を早期適用している項目については、2019年6月第1四半期の四半期報告書においても早期適用するものと考えられます。適用時期については、項目ごとに選択することができるものと考えられますが、経営方針、経営環境及び対処すべき課題等と財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針の規定は、同時に適用しなければならないと考えられます。また、重要事象等(提出会社が将来にわたって事業活動を継続するとの前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況その他提出会社の経営に重要な影響を及ぼす事象)と経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析の規定は、同時に適用しなければならないと考えられます(財務会計基準機構(FASF)「有価証券報告書作成要領」)。

2. 主な改正内容

(1) 事業等のリスク(開示府令第四号の三様式(記載上の注意)(7))

① 主要なリスク

改正前の規定では、経営成績等の状況の異常な変動等の投資者の判断に「重要な影響を及ぼす可能性のある事項」が発生した場合にその内容の記載が求められましたが、改正後の規定では、経営者が経営成績等の状況に「重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスク」が発生した場合にその内容等の記載が求められることになります。

② 重要事象等

重要事象等が存在する場合にはその旨及びその具体的な内容の記載に加え、当該重要事象等についての分析・検討内容及び当該重要事象等を解消し、又は改善するための対応策の記載が求められることになります。

(2) 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(開示府令第四号の三様式(記載上の注意)(8))

① 会計上の見積り

前期の有価証券報告書に記載した「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」中の会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定の記載について、当四半期累計期間に重要な変更があった場合にはその旨及び具体的な内容の記載が求められることになります。

② 財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針

改正前の規定では、当四半期累計期間に財務及び事業の方針の決定を支配する者の在り方に関する基本方針を定めている会社については、会社法施行規則118項3号に掲げる事項の記載が求められていましたが、改正後の規定では基本方針を新たに定めた場合にのみ当該記載が要求され、前期から基本方針を定めている会社については重要な変更があった場合にその内容の記載が求められることになります。

 

Ⅴ 収益認識会計基準の早期適用

収益認識会計基準の原則適用は2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からですが、早期適用も認められており、2019年6月第1四半期から早期適用するケースも考えられます。
本稿では収益認識会計基準を当四半期から早期適用する場合における適用初年度の取扱いと表示及び注記について解説します。

1. 適用初年度の取扱い

収益認識会計基準の適用初年度においては、新たな会計方針を過去の期間の全てに遡及適用するのが原則的な方法です。ただし、適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとする経過措置が定められています(収益認識会計基準84項)。これらの取扱いについては<図1>をご参照ください。

図1 収益認識会計基準の適用初年度の取扱い(2019年6月第1四半期から適用する場合)

なお、経過措置による場合、適用初年度の期首より前までに、従前の取扱いに従ってほとんど全ての収益の額を認識した契約については、新たな会計方針を遡及適用しないことも認められています(収益認識会計基準86項)。また、原則的な取扱いによる場合においても、適用初年度の前期以前に行われた契約変更や変動対価の取扱い等に関する例外的な定めが設けられています(収益認識会計基準85項)。

2. 当四半期における表示及び注記事項

(1) 表示

収益認識会計基準を早期適用する場合には、年度での取扱いと同様に、四半期(連結)貸借対照表上、契約資産と債権を区分表示せず、かつ、それぞれの残高を注記しないことができるとともに(収益認識会計基準88項)、四半期(連結)損益計算書上、わが国の実務において現在用いられている売上高、売上収益、営業収益等の科目を継続して用いることができます(収益認識会計基準155項)。

(2) 注記事項(会計方針の変更)

収益認識会計基準の適用は会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に該当するため、過年度遡及基準10項に従い<表2>のような注記が必要となります。

表2 会計方針の変更の注記例(当四半期から収益認識会計基準を早期適用した場合)


「情報センサー2019年7月号 会計情報レポート」をダウンロード


情報センサー
2019年7月号

※ 情報センサーはEY Japanが毎月発行している社外報です。