EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
ソウル駐在員 公認会計士 守屋 貴浩
当法人パートナー。東京事務所にて監査業務、IPO支援業務および各種アドバイザリー業務に従事後、2018年9月より韓国EYソウル事務所に日本事業本部パートナーとして駐在。韓国における日系企業事業展開サポートに従事している。
韓国における会計の透明性・信頼性の向上を目的とした「株式会社の外部監査に関する法律」等の全面改正案が2017年10月31日に公表され、18年11月1日に施行されました。改正内容は多岐にわたりますが、このような大きな制度改正が行われた背景として、以下が挙げられます。
本稿では、今回の法律改正に至る経緯、改正内容について簡潔にまとめます。
Ⅰで述べた背景を受け、「会計の透明性および信頼性の向上のための総合対策」(17年1月20日(最終確定17年4月17日)、金融委員会・金融監督院)が取りまとめられ、企業、監査人および監督当局のそれぞれの問題点が以下のように明示されました。
→ 粉飾決算の誘因が常に存在
→ 監査の失敗を引き起こす監査環境
→ 会計不正に対する警戒心が低い
Ⅱで述べた総合対策をもとにした「株式会社の外部監査に関する法律」等の改正が18年11月施行されました。以下に主な改正内容を企業、監査人および監督当局に分けて示します。
① 株式会社に限られている外部監査対象が有限会社まで拡大
② 監査人選任権限が経営陣から内部監査機構(監査役又は監査委員会)に移管
③ 財務諸表作成に対する会社の責任の強化
④ 会計処理関連の内部統制の実効性の向上
⑤ 会計不正の摘発、措置に対する内部監査機構の役割の強化
⑥ 大手非上場会社および金融会社の会計規律の強化(個人会計士ではない監査人は会計法人に制限、連続する3事業年度の同一監査人選任義務等)
⑦ 会社の会計担当役職員を上場会社協議会・コスダック協議会に登録・管理することによる会計関連教育等を通じた責任および能力の向上、中小規模会社の会計処理に関する支援の強化
① 監査人指定制を監督補完手段として積極的に活用
② 監査対象会社に対する非監査サービスの制限強化
③「上場会社監査人登録制」の導入
④ 会計法人の監査品質管理責任の強化
⑤ 適正水準の監査品質確保を目的とした「標準監査時間制」の導入※3
⑥ 監査人選任期限の短縮
⑦「監査上の主要な検討事項」(KAM)の全上場会社への導入
① 外部監査法上の課徴金制度の新設(絶対金額の上限なし)
② 会計法人の代表理事および品質管理担当役員に対する制裁規定の設定
③ 会計不正、監査の失敗に関与した会社、監査人に対する制裁水準の強化
④ 会計法人に対する常時監督の強化
⑤ 会計不正の内部告発者の保護強化
⑥ 金融監督院の監理能力の強化(証券先物委員会および金融監督院の業務プロセスの改善)
※1 「世界競争力年鑑」(スイス国際経営開発研究所):調査対象61カ国中、会計の透明性において最下位
※2 A社(建設会社):主に工事損失引当金の過少計上によるもの(粉飾規模3,896億ウォン)、B社(家電メーカー):売上高の過大計上(融資詐欺、金融機関の損失額6,768億ウォン)、C社(造船会社):工事進行基準における進捗ちょく率の操作等(粉飾規模5兆ウォン以上)
※3 標準監査時間未達会社および会計法人には監査人指定制の適用等のペナルティが賦課される。