情報センサー

収益認識基準(表示・注記)の公開草案の解説


情報センサー2020年2月号 会計情報レポート


会計監理部 公認会計士 横井貴徳

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『連結手続における未実現利益・取引消去の実務』(中央経済社)がある。


Ⅰ  はじめに

本稿では、企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から2019年10月30日に公表された、以下の会計基準等の公開草案(以下、本公開草案)についての解説を行います。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

  • 企業会計基準公開草案第66号(企業会計基準第29号の改正案)「収益認識に関する会計基準(案)」(以下、本会計基準改正案)
  • 企業会計基準適用指針公開草案第66号(企業会計基準適用指針第30号の改正案)「収益認識に関する会計基準の適用指針(案)」(以下、本適用指針改正案)
  • 企業会計基準公開草案第67号(企業会計基準第12号の改正案)「四半期財務諸表に関する会計基準(案)」(以下、四半期会計基準案)
  • 企業会計基準適用指針公開草案第67号(企業会計基準適用指針第14号の改正案)「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針(案)」
  • 企業会計基準適用指針公開草案第68号(企業会計基準適用指針第19号の改正案)「金融商品の時価等の開示に関する適用指針(案)」

Ⅱ 本公開草案公表までの経緯

ASBJは、2018年3月30日に、わが国における収益認識に関する包括的な会計基準として、以下の企業会計基準及びその適用指針を公表しました。

  • 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下、2018年会計基準)
  • 企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」

2018年会計基準においては、注記について、2018年会計基準を早期適用する場合の必要最低限の注記(企業の主要な事業における主な履行義務の内容及び企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点))のみを定め、2018年会計基準が適用される時(2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首)までに、注記事項の定めを検討するとしていました。また、収益認識の表示に関する一部の事項についても同様に、2018年会計基準が適用される時までに検討するとしていました。
上記の経緯を踏まえ、ASBJにおいて審議が行われていましたが、今般、本公開草案を公表するに至ったものです。本公開草案に対しては、2020年1月10日までに寄せられたコメントを踏まえた検討を行った上で、最終的な会計基準等として公表される予定です。開示に関する判断に当たっては、最終化された収益認識会計基準及び今後改正されることが想定される財務諸表等規則や会社計算規則などの開示規則を参照する必要がある点にご留意ください。

 

Ⅲ 本公開草案の概要

1. 表示

(1) 顧客との契約から生じる収益の表示科目等(本会計基準改正案第78-2項及び本適用指針改正案第104-2項)

顧客との契約から生じる収益を、企業の実態に応じて、適切な科目をもって損益計算書に表示します。顧客との契約から生じる収益は、それ以外の収益と区分して損益計算書に表示するか、両者を区分して損益計算書に表示しない場合には、顧客との契約から生じる収益の額を注記します。また、顧客との契約から生じる収益は、例えば、売上高、売上収益、営業収益等として表示します。

(2) 貸借対照表上の表示科目等(本会計基準改正案第79項及び第158項並びに本適用指針改正案第104-3項)

契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権を、企業の実態に応じて、適切な科目をもって貸借対照表に表示します。契約資産、契約負債又は顧客との契約から生じた債権について、下記の例を挙げています。

① 契約資産...契約資産、工事未収入金等

② 契約負債...契約負債、前受金等

② 顧客との契約から生じた債権...売掛金、営業債権等

また、契約資産と顧客との契約から生じた債権を貸借対照表に区分して表示するか、両者を貸借対照表に区分して表示しない場合には、それぞれの残高を注記します。

(3) 顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合の取扱い(本会計基準改正案第78-3項)

顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息又は支払利息)は、損益計算書において区分して表示します。
なお、国際財務報告基準(IFRS)第15号「顧客との契約から生じる収益」(以下、IFRS第15号)において要求されている「顧客との契約から生じた債権又は契約資産について認識した減損損失の開示」に関しては、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下、金融商品会計基準)の見直しと合わせて検討するため、当該開示は求めないとされています(本会計基準改正案第157項)。

2. 注記事項

(1) 注記事項の開発に当たっての基本的な方針(本会計基準改正案第101-2項から第101-6項)

注記事項の検討を進めるに当たっての基本的な方針として、次の対応を行うこととしています。

① 包括的な定めとして、IFRS第15号と同様の開示目的及び重要性の定めを本会計基準改正案に含めている。また、原則として、IFRS第15号の注記事項の全ての項目を本会計基準改正案に含めている。

② 企業の実態に応じて個々の注記事項の開示の要否を判断することを明確にし、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる項目については注記しないことができることを明確にしている。

(2) 重要な会計方針の注記(本会計基準改正案第80-2項及び第80-3項並びに第162項)

顧客との契約から生じる収益に関して、次に定める項目を重要な会計方針として注記することとされており、2018年会計基準の早期適用時の注記事項である「企業の主要な事業における主な履行義務の内容」及び「企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)」については、収益認識の会計方針に含めて記載することになります。

① 企業の主要な事業における主な履行義務の内容

② 企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)

ただし、上記に定める項目以外にも、「収益を理解するための基礎となる情報」(下記(3)③参照)として記載するとした内容のうち、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記します。

(3) 収益認識に関する注記

① 開示目的(本会計基準改正案第80-4項及び第80-5項並びに第164項及び第165項)

「注記事項の開発に当たっての基本的な方針」(上記(1)参照)に記載した基本的な方針のもと、顧客との契約から生じる収益に関する情報を注記するに当たっての包括的な定めとして、開示目的「顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示すること」を設けています。また、開示目的を達成するための収益認識に関する注記として、次の項目が示されています。

  • 収益の分解情報(下記②参照)
  • 収益を理解するための基礎となる情報(下記③参照)
  • 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報(下記④参照)
② (注記事項)収益の分解情報(本会計基準改正案第80-10項及び第80-11項並びに本適用指針改正案第106-3項から第106-5項)

当期に認識した顧客との契約から生じる収益について、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解した情報の注記を求めています。また、企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」(以下、セグメント情報等会計基準)を適用している場合、収益の分解情報と、セグメント情報等会計基準に従って各報告セグメントについて開示する売上高との間の関係を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を注記します。収益の分解情報の注記例は<表1>のとおりです。

表1 収益の分解情報の注記例
③ (注記事項)収益を理解するための基礎となる情報(本会計基準改正案第80-12項から第80-19項及び本適用指針改正案第106-6項及び第106-7項)

顧客との契約が、財務諸表に表示している項目又は収益認識に関する注記における他の注記事項とどのように関連しているのかを示す基礎となる情報として、次の事項を注記します。

ⅰ契約及び履行義務に関する情報

ⅱ取引価格の算定に関する情報

ⅲ履行義務への配分額の算定に関する情報

ⅳ履行義務の充足時点に関する情報

ⅴ本会計基準改正案の適用における重要な判断

④ (注記事項)当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報

当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報として、「契約資産及び契約負債の残高等」及び「残存履行義務に配分した取引価格」を注記します。

ⅰ 契約資産及び契約負債の残高等(本会計基準改正案第80-20項及び第189項並びに本適用指針改正案第106-8項及び第191項)

当期中の契約資産及び契約負債の残高に重要な変動がある場合には、その内容について注記が要求されています。ここで、IFRS第15号においては、当該記載には、定性的情報と定量的情報を含めなければならないとされていますが、本公開草案では、当該記載には必ずしも定量的情報を含める必要はないとしています。

ⅱ 残存履行義務に配分した取引価格(本会計基準改正案第80-21項から第80-24項及び第190項から第202項)

当期末時点で未充足(または部分的に未充足)の履行義務に配分した取引価格の総額の注記とその金額がいつ収益として認識することを見込んでいるのかを定量的又は定性的に記載することが要求されています。また、履行義務が含まれる契約の当初の予想期間が1年以内である場合など、一定の条件に該当する場合は注記しないことができるとされています。残存履行義務に配分した取引価格の注記例は<表2>のとおりです。

表2 残存履行義務に配分した取引価格の注記例
⑤ (注記事項)工事契約等から損失が見込まれる場合(本適用指針改正案第106-9項及び第106-10項)

企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下、工事契約会計基準)に関する注記事項は、本会計基準改正案が適用される時に廃止されるため、本適用指針改正案において、工事契約会計基準における次の注記の定めを引き継ぐこととしています。

ⅰ当期の工事損失引当金繰入額

ⅱ同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上されることとなる場合、棚卸資産と工事損失引当金の相殺の有無と関連する影響額

(4) 連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における注記(本会計基準改正案第80-25項及び第80-26項)

連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表においては、収益認識に関する注記の定めにかかわらず、「収益の分解情報」(上記②参照)及び「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」(上記④参照)については、注記しないことができます。また、「収益を理解するための基礎となる情報」(上記③参照)の注記を記載するに当たり、連結財務諸表における記載を参照することができます。

(5) 四半期財務諸表における注記(四半期会計基準案第19項(7-2)、第25項(5-3)、第58-5項及び第58-6項)

既存の企業会計基準第12号「四半期財務諸表に関する会計基準」の注記事項の定め及び国際的な比較可能性を考慮した結果、全ての四半期の四半期連結財務諸表及び四半期個別財務諸表において、年度の期首から四半期会計期間の末日までの期間に認識した顧客との契約から生じる収益について、「収益の分解情報」(上記②参照)の注記が必要となります。

3. 会計処理

(1) 会計処理の見直しを行ったもの

① 契約資産の性質(本会計基準改正案第77項及び第150-3項)

2018年会計基準においては、契約資産を金銭債権として取り扱うとしていましたが、国際的な会計基準における取扱いを踏まえ、契約資産が金銭債権に該当するか否かについて言及せず、次のとおり取り扱うこととされています。これは、IFRS第15号が必ずしも言及していない契約資産の性質について、金銭債権として取り扱うことにより発生し得る意図しない帰結を回避するためです。

  • 契約資産に係る貸倒引当金の会計処理について、金融商品会計基準における債権の取扱いを適用する
  • 外貨建ての契約資産に係る外貨換算について、企業会計審議会「外貨建取引等会計処理基準」の外貨建金銭債権債務の換算の取扱いを適用する

4. 適用時期及び経過措置(本会計基準改正案第81項から第83-2項及び第89-3項から第89-5項)

本公開草案では、比較年度の表示及び注記についての一定の経過措置を設けた上で、基本的に、2018年会計基準の適用日を踏襲しています。

【適用時期】
(原則適用)

  • 2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用
    (早期適用)
  • 2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用
  • 2020年4月1日に終了する連結会計年度及び事業年度から2021年3月30日に終了する連結会計年度及び事業年度までにおける年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用
     

【経過措置(適用初年度の取扱い)】

  • 本会計基準改正案及び本適用指針改正案の適用により表示方法の変更が生じる場合、当該変更は、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬(ごびゅう)の訂正に関する会計基準」に定める会計基準又は法令等の改正による表示方法の変更として取り扱うことになる
  • 表示方法の変更が生じる場合、適用初年度の前連結会計年度の連結財務諸表(注記事項を含む)及び前事業年度の個別財務諸表(注記事項を含む)(以下、合わせて「適用初年度の比較情報」)について、新たな表示方法に従い組替えを行わないことができる。また、この場合、適用初年度において、影響を受ける連結財務諸表及び個別財務諸表の主な表示科目に対する影響額を記載する
  • 本会計基準改正案及び本適用指針改正案において定める注記事項を適用初年度の比較情報に注記しないことができる

5. 設例及び開示例

次の設例及び開示例が追加されています。

【設例】

  • [設例27]履行により認識される契約資産
  • [設例28]履行により認識される顧客との契約から生じた債権

【開示例】

  • [開示例1]収益の分解情報
  • [開示例2]残存履行義務に配分した取引価格の注記
  • [開示例3]残存履行義務に配分した取引価格の注記 -定性的情報

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2020年2月号
 

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