情報センサー

令和2年度税制改正大綱


情報センサー2020年2月号 Tax update


EY税理士法人 公認会計士 南波 洋

1993年から、太田昭和アーンスト アンド ヤング(現EY税理士法人)にて、日本企業・外資系多国籍企業に対する国内および国際税務アドバイザリー業務に従事。国際税務、税制改正、組織再編税制などに係る講演、寄稿、執筆多数。2004年から、日本公認会計士協会 租税調査会国際租税専門部会 専門委員。


Ⅰ  はじめに

令和元年12月12日に令和2年度与党税制改正大綱が公表されました。以下、大綱で明らかにされた主要な改正・見直し項目の概要を説明します。なお、今後の国会における改正法案審議の過程において、一部項目の修正・削除・追加などが行われる可能性があることにご留意下さい。

 

Ⅱ 法人課税

1. 連結納税制度の見直し(グループ通算制度への移行)

企業グループ全体を一つの納税単位とする現行の連結納税制度に代えて、企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行いつつ損益通算等の調整を行う「グループ通算制度」が導入されます。現行連結納税制度における損益通算等の基本的な枠組みが維持されるとともに、企業の事務負担の軽減に配慮した制度となっています。
開始・加入時の時価評価課税・欠損金の持込み等について組織再編税制と整合性がとれた制度にすることで、時価評価課税や繰越欠損金切り捨ての対象が縮小されます。また、研究開発税制、外国税額控除制度については、現行制度と同様、グループ全体で税額控除額が計算されます。
グループ通算制度は、令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用が開始されます。現行の連結納税制度からの移行に関する経過措置も講じられます。

2. オープンイノベーション促進税制の創設

事業会社等が、令和2年4月1日から令和4年3月31日までの間に、一定の要件を満たすベンチャー企業の株式を出資の払込みにより取得した場合、その取得価額の25%以下の金額を特別勘定として経理したときは当該金額の損金算入が認められます。払込金額は1億円以上(外国法人への払込みは5億円以上)であることが求められます(払込みに上限が設けられます)。この制度の適用を受けた事業会社等が当該株式を譲渡したような場合、その他一定の事由(配当を受けた場合など)に該当したような場合は、その事由に応じた金額を取り崩して益金算入しなければなりません。ただし、5年間保有した株式については、この限りではありません。

3. 5G(第5世代移動通信システム)導入促進税制の創設

新たに制定される特定高度情報通信等システム普及促進法(仮称)に基づく認定導入計画(仮称)に従って5Gシステム等の導入を行う一定の事業者に該当するものが、同法の施行の日から令和4年3月31日までの間に、認定設備の取得等をして国内にある事業の用に供した場合等には、その取得価額につき、30%の特別償却と15%の税額控除との選択適用ができることとされます。ただし、税額控除上限額は当期の法人税額の20%です。

4. 租税特別措置(研究開発税制等)の適用要件の見直し

大企業につき、研究開発税制その他生産性の向上に関連する一定の税額控除(特定税額控除)の規定を適用できないこととする措置について、「要件」の見直しがなされます。「その大企業の国内設備投資額が当期償却費総額の10%を超えること」の要件について「30%を超えること」に見直されます。

5. 交際費の損金不算入制度

交際費の損金不算入制度について、その適用期限が2年間延長されます。接待飲食費にかかる損金算入の特例の対象法人から「資本金の額等が100億円を超える法人」が除外されます。

 

Ⅲ 国際課税・納税環境整備・その他

1. 子会社配当と子会社株式譲渡を組み合わせたスキームへの対応

子会社株式の譲渡等により譲渡損失を創出させるスキームに対処するための制度見直しが行われます。
一定の支配関係にある子会社から一定の配当金を受け取った場合に、その配当額が当該子会社株式の帳簿価額の10%相当額を超える場合には、その対象配当額のうち益金不算入相当額を、子会社株式の帳簿価額から引き下げることとされます。帳簿価額が引き下げられることにより、子会社株式譲渡時に発生する譲渡損が簿価引下げ分だけ減少することになります。一定の支配関係とは、法人が株式の50%超を直接・間接に保有している関係です。
ただし、子会社が内国法人であり、かつ設立から支配関係発生までの間において株式の総数の90%以上を内国法人等が有する場合は、本措置の対象外となります。また、配当の合計額が支配関係発生後の子会社の利益剰余金の純増額に満たない場合の配当額や、支配関係発生日から10年経過後に受ける配当額は、本措置の対象外となります。2,000万円を超えない配当額も、対象外となります。

2. 電子帳簿保存法の見直し

電子的に受領した請求書等をデータのまま保存する場合の要件に、①発行者側がデータにタイムスタンプを付している場合②ユーザー(受領者)が自由にデータを改変できないシステム(サービス)を利用している場合、が加わります。

3. 消費税の申告期限の延長

法人税の申告期限の延長の特例を受ける法人について、消費税の申告期限を1月延長する特例が創設されます。この改正は、令和3年3月31日以後に終了する事業年度の末日の属する課税期間から適用されます。

4. その他

  • 国外財産調書制度において、納税者が指定された期限までに必要な資料を提示・提出しない場合には、申告漏れに対する加算税が加重されます。
  • 未婚のひとり親に「寡婦(夫)控除」が適用されるようになります。この際、適用する条件は死別・離別の場合と同様とされます。
  • 国外中古不動産にかかる不動産所得の課税の適正化が図られます。
  • 居住用賃貸建物の取得にかかる仕入税額控除制度の適正化が図られます。
  • 市中金利の実勢を踏まえ、利子税及び還付加算金の割合について引下げが行われます(1.6%→1.1%)。

「情報センサー2020年2月号 Tax update」をダウンロード


情報センサー
2020年2月号
 

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。