情報センサー

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが影響する米国会計基準(USGAAP)上の主要論点(資産の減損等)


情報センサー2020年6月号 JBS


ニューヨーク駐在員 公認会計士 松本達紀

当法人入所後、大手総合商社の会計監査および内部統制監査を中心に、国内製造業、外資系企業の日本法人等の幅広い監査業務に従事。2018年6月よりEYニューヨーク事務所に駐在し、日系企業および現地企業の監査業務に従事している。

Ⅰ  はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)を受けて、世界経済が停滞し、米国においても州や地方自治体が多くの企業に操業の制限または一時停止を命じました。特に、旅行業、ホスピタリティ関連、小売業等を中心とした企業の多くは収益が著しく減少し、製造業においても生産活動の一時中断が発生しました。大きな事業環境の変化が経営成績に与える直接的な影響に加え、あらゆる企業においてサプライチェーンの見直し、事業移管や拠点の縮小・閉鎖、費用・人員削減を含めた構造改革の計画・実行が予想され、一時的な業績悪化だけでなく将来の事業計画が大きく見直される可能性もあります。これらの要因は、影響の重要性や期間の長さに応じて、資産評価の見直し、追加費用や損失の認識につながる可能性があります。
COVID-19パンデミックが会計に与える影響は、企業が置かれた状況に応じて広範囲に及びますが、本稿では特に資産の減損等に関連するUSGAAP上の論点について、米国子会社を有する企業に一般的に影響すると考えられるポイントを解説します。

 

Ⅱ USGAAP上の論点(資産の減損等)

1. 棚卸資産

(1) 正味実現可能性

棚卸資産の正味実現可能価額(Net Realizable Value:NRV)または効用の低下がある場合、ASC330「棚卸資産」は、その低下が発生した期間の損失として認識されることを要求しています。損失は、損傷、物理的劣化、陳腐化、価格の変化等に加え、過剰在庫からも生じる可能性があり、基本的には取得原価またはNRVのいずれか低い方により、LIFOまたは売価還元法で測定される棚卸資産は取得原価または時価のいずれか低い方で測定されます。
特に、サプライチェーンが混乱したり、現在の市場状況により売上が減少した企業は、棚卸資産の評価に留意する必要があります。季節性のある在庫、傷みやすく有効期間が短い等の製品は、損失のリスクに最もさらされます。なお、四半期決算においても、年度内に合理的に回復が見込まれる場合を除き、損失の計上が必要となります。

(2) 棚卸資産の将来購入に対する確約(firm commitment)

棚卸資産の将来購入に対する確定購入コミットメントは、手許在庫と同様に正味実現可能性分析に含める必要があります。確定購入される棚卸資産の処分により実現する金額が販売契約または取得価額以上で、継続して販売を合理的に保証できる他の状況がある場合を除き、確約、取消不能、またはヘッジされていない購入コミットメントの純損失は、棚卸資産と同じ方法で測定する必要があります。

(3) 操業度の変化と過剰設備能力

計画外の作業停止、労働力または資材の不足、または生産の障害の発生により、操業度が設備の通常の能力レベルを下回る場合、製品原価計算への影響を考慮する必要があります。各生産単位に配賦される固定費は、操業度が異常に低い場合には増加せず、稼働が低い設備に関連するコスト(Excess capacity costs)は、発生した期間に費用認識されます。企業は、稼働状況が通常の生産能力を下回るかどうかを事業や業種の要因等に基づき判断する必要があります。

2. のれんと耐用年数が確定できないその他の無形固定資産

のれんと耐用年数が確定できないその他の無形固定資産は、ASC350「無形資産―のれんとその他の無形固定資産」に基づき、少なくとも年に1回もしくは事象や状況の変化が50%以上の確率で減損を示している場合、減損テストが行われます。多くの企業の株価の大幅な下落、企業活動の混乱など、現在の経済環境は期中においても減損テストが必要であることを示している可能性があることから、公正価値測定に及ぼす潜在的な影響を適時に幅広く検討することが必要と考えられます。なお、公正価値の測定には、多くの見積りが介在し、専門家の利用含め、相当な時間を要する場合があります。

3. 長期性資産

COVID-19パンデミックにより現在または今後の活動に影響がある企業は、長期性資産に減損の兆候があるかどうかの判断が必要となる可能性があります。保有および使用される長期性資産(適用されている場合、ASC842「リース」に基づく使用権資産を含む)または資産グループの帳簿価額が回収できない可能性があることを示す要因が存在する場合、減損テストを行います。保有および使用される長期性資産の減損の評価は、①減損の兆候の識別②割引前将来見積キャッシュ・フローと帳簿価額の比較③減損金額の測定の三つのステップで構成されます。減損金額の測定において、帳簿価額が公正価値を超過する場合に当該超過する金額について減損を認識します。なお、ステップ3における公正価値の測定に外部専門家を利用することも多く、時間を要する場合があります。また、売却目的保有資産に分類される長期性資産については、売却費用控除後の公正価値で測定します。

4. その他

(1) 事業の撤退または処分(ASC420)

COVID-19パンデミックの影響により、ビジネスの停滞が長期化することで、資産の処分やリストラクチャリングが実施される可能性があります。これには事業の停止、売却、閉鎖、移動といった事業再構築が含まれ、一時退職金等、契約解除や変更に伴う費用が発生する可能性がありますが、これらは公正価値で認識される必要があります(なお、判断が伴いますが、一時的な工場等の閉鎖等は含まれません)。一時退職金等は、従業員が個別に通知された時点で測定され、通知日もしくは将来も継続して役務が提供される期間がある場合、その期間にわたり認識されます。なお、工場等の閉鎖やそれに伴う従業員の移動については、その費用の発生時に認識されます。

(2) 保険による回復(ASC450)

売上の減少等、ビジネスの停滞に関連して支払われる保険等に基づく補填は、その偶発性がなくなった時点、すなわち、通常は入金されるか保険会社からの金額の確定を受領した時点で認識されます。

 

Ⅲ おわりに

本稿では、資産の減損等(金融資産を除く)に関連するポイントに絞って紹介しましたが、COVID-19パンデミックが会計に直接的または間接的に与える影響は、その他にも債権の評価、収益認識、ヘッジ会計、税効果、従業員給付等、企業が置かれた状況に応じて広範囲に及ぶ可能性があります。そのため、資産の評価等に関する手続および会計処理ならびに開示等、財務報告に与える影響を早期に検討されることが重要であると考えられます。

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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。