アフター・コロナにおける業績管理高度化プロジェクトの進め方

アフター・コロナにおける業績管理高度化プロジェクトの進め方


情報センサー2021年2月号 EY Consulting


EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) Consulting
ビジネスコンサルティング・ファイナンス 上野 真

CFOおよびファイナンス組織の役割・機能・オペレーティングモデルの強化・課題解決のコンサルティング業務に従事。専門領域は管理会計。予実評価・KPI分析・グローバルプラットフォーム構築といった同領域のプロジェクトを構想策定からシステム構築まで多数実施している。EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) アソシエイトパートナー。


Ⅰ はじめに

経済産業省の「DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~」ではデジタルトランスフォーメーションへの取り組みの重要性に言及し、それに応じるように国内の主要企業から順次、業務プロセスとシステムのグローバル統一刷新に向けて多大な労力をかけてプロジェクトを推進してきました。業績管理領域においても、これに併せてグローバル統一データを活用した取り組みが行われています。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行は、企業活動の仕組みや財務数値に大きな影響を与え、その結果、これらのプロジェクトは予算・スコープ・スケジュールの全てにおいて大きく軌道を修正する必要に迫られました。
業績管理領域においては、より不確実性の高まった状況においても、財務視点から能動的に各事業部に分析情報やアドバイスを提供し続けられるように今まで以上に柔軟、かつ素早い対応が求められています。
 

Ⅱ 業務課題の解決に沿った目標を設定する

素早く対応していくためには、なんでも幅広く対応しようとするのではなく、目的にピンポイントに対応していくことが必要です。昨今のテクノロジーの進化により、購買伝票の1明細からグループ全体の損益管理表までシームレスにグローバルレベルで統合・管理することが可能になってきました。そのためか、「企業活動の主要となる情報を統合データ基盤上で明細管理し、その時々の必要性に沿った実績把握・分析ができること」を業績管理の目標と掲げるプロジェクトが散見されます。しかし、これを達成するには非常に多くの検討項目に対応しなければならなく、スピードと予算削減が求められている現在の状況下で成功するのはとても難しいでしょう。また、「その時々の必要性に沿った実績把握・分析の達成」のような内容を目標に掲げると、目標が明確でなく、達成できたかどうかの判断が難しく、プロジェクトの完了が業務課題の解決とイコールにならない可能性があります。さらに言えば、そもそも業績管理領域のニーズは外部環境の変化による部分が大きく、そのため内容も多岐にわたるため、いくら幅広に対応していたとしても、例えば今回の新型コロナウイルス感染症の影響を製品/ブランドカテゴリー別に分析するといった対応は、そのままの仕組みでは難しく、結局はある程度の業務・システムの改修が必要となるでしょう。
そのため、業績管理プロジェクトの目標は、幅広に設定するのではなく、業務課題の解決に沿った具体的な内容にする必要があります。
具体的な目標の一例をアフター・コロナ後の予算編成に関するプロジェクトで考えてみます。繰り返しになりますが、新型コロナウイルス感染症は経済に大きな影響を与え、企業における費用の最適化は喫緊の課題となっています。また、コロナは働き方にも大きな影響を与えたため、前年度一律削減といった方法では機能しません。そのため、過去実績を考慮せず、目的と活動内容を費目ごとに明確にして積み上げて予算を作成し、事業への効果を比較検討しながら定量的に全体管理するゼロベース予算に再び脚光が当たっています。このゼロベース予算をまずは販管費から実行し全体予算の効率化を図ることを目的とした場合、達成すべき目標は「販管費の費目定義の統一」「費目ごとの目的と活動内容の計画・実績を月次で比較できる業務プロセスとシステム」「費目ごとの使途ポリシーと効率化オーナーの設置」となります。こういった目標であればプロジェクトとして対応すべき内容も具体的になります。外部環境の変化に合わせ、このように具体的な目標を立てて取り組むことが重要です。
 

Ⅲ 早く・小さく段階的に高度化を図る

前述の例で、「販管費から実行」と記したように、導入効果が高いと見込まれる箇所に絞って、小さな範囲から順次、早く結果を出していくことが今まで以上に必要となってきます。一方で、業務プロセスとシステムのグローバル統一化プロジェクトの開始理由の一つとして、「業務プロセスの属人化」と「既存システムのスパゲティ化」と「マスターデータの不整合」の解決が掲げられることが多いため、段階導入の場合は、後工程の影響・全体の整合性の懸念がどうしても付きまといます。この点については、利用ベースおよびサブスクリプションベースの新たな業績管理ツールを活用し、ある程度対応することができます。これらは段階的に高度化することを前提に作られているため、後から変更できないツール固有の一部の設定を抑えておけば、かつてのカスタム開発とは異なり、ユーザーサイドでも後から要件追加の拡張開発をすることができます。また、利用ベースであるため、業務範囲・対象ユーザーの拡張とともに処理能力を増強することもできます。そのため、ある程度の割り切りをもって進めるほうが早く効果も得られ、実際に将来大きなやり直しが発生することも過去のプロジェクトと比較して少なくなるはずです。
導入対象とする組織についても、業務範囲の絞り込みと同様に高い効果が見込めそうな事業部からパイロット的に実施することが重要です。特にグローバル企業の場合、一つの事業だとしても関係者は多岐にわたり、見たい項目の内容・粒度も担当ごとに異なります。また、制度連結とは異なり正解のない世界であるため、管理連結ルールについても検討に時間を要します。さらには、予算編成の検討では予算の性質上、どうしても事業部と本社予算部でコンフリクトが発生しがちです。そのため、議論を素早く前に進めるためにはできる限り関係者と議題の双方を絞る必要があり、よってパイロット事業部から順次実施することを推奨します。
 

Ⅳ 役割とコミュニケーションパスをしっかり定義する

対象となる業務範囲と事業部を決定後、実際にプロジェクトを進めていくときに、今までと大きく異なるのがコミュニケーションの取り方です。新型コロナウイルス感染症が収まったとしても、今後はオンラインが主流になっていくかと思います。これにより、例えばかつては時間調整が難しかったマネジメント層や海外法人とのコミュニケーションも、オンラインではスケジュール共有機能を活用することにより隙間時間で調整しやすくなるといったメリットが発生します。一方で、偶然、職場で会話することにより情報共有されるということはまず起こらなくなるため、今まで以上に検討メンバー・情報共有メンバーを注意して決めていく必要があります。そのためには、プロジェクト体制と役割をしっかりと定義していく必要があります。しっかりと定義するというのは、プロジェクト目標達成に沿って責務を個別に定義するということです。何か問題が発生した場合、定義がしっかりしていれば担当者は自動的に決まるはずです。しかし、日本のプロジェクトでは責務を曖昧にしたまま主要なプロジェクトメンバーで合議しながら進めるといったケースが見受けられます。この状態では検討メンバー・情報共有メンバーとして誰が必要か常に考えなければなりません。また、ほとんどの場合において必要よりも多くのメンバーを招集することになり、人数が多すぎることにより議論が発散し、進捗(ちょく)に悪影響を及ぼすことに加え、全体工数も無駄に消費することになります。そのような非効率な進め方では、柔軟に素早く対応していくことはできません。
 

Ⅴ おわりに

これまで述べたとおり、アフター・コロナのさらなる外部環境の急激な変化に対応するには、業績管理の仕組みもその時々のニーズに合わせて素早く柔軟に組み替えていくことが必要となります。そのためには、達成が図れる具体的な目標を定め、新たなテクノロジーを活用して段階的に素早く対応するサイクルを繰り返すと共に、働き方の変化に合わせた体制や役割をしっかりと定義することがいっそう重要となります。


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情報センサー
2021年2月号
 

※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。

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