情報センサー 2021年3月号

税効果会計

2021年3月1日 PDF

情報センサー2021年3月号 企業会計ナビ ダイジェスト

EY新日本有限責任監査法人 企業会計ナビチーム 公認会計士 井澤依子

監査事業部において一般事業会社の監査に関与するとともに、品質管理本部において日本の会計基準の解釈や適用の留意事項に関するアドバイスや情報提供を行っている。また企業会計ナビやクライアント向けセミナーの企画・運営など、ナレッジ発信にも携わっている。当法人 パートナー。

当法人ウェブサイト内の「企業会計ナビ」が発信しているナレッジのうち、アクセス数の多いトピックスを取り上げ、紹介します。今回は「解説シリーズ『税効果会計』第3回:繰延税金資産の回収可能性」を紹介します。

Ⅰ  繰延税金資産の回収可能性判断の3要素

繰延税金資産は、将来の課税所得を減少させることにより、将来の税負担を軽減することが認められることを条件に資産計上が認められる資産です。よって将来の課税所得を減少させ、税負担を軽減すると認められる範囲での計上が要求されており、繰延税金資産の計上は、将来減算一時差異のスケジューリングなど、慎重かつ十分な検討を行い決定することが必要です。繰延税金資産の回収可能性を判断するに当たっては、以下の3要素を考慮する必要があります。

1. 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得の十分性

繰延税金資産の回収可能性の判断において、まず収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得の十分性が問題とされます。一時差異等加減算前課税所得とは、将来の事業年度における課税所得の見積額から、当該事業年度において解消することが見込まれる当期末に存在する将来加算(減算)一時差異の金額を除いた額のことをいいます。

収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得の十分性は、将来減算一時差異の解消見込年度ないし税務上の繰越欠損金の繰越が認められる期間において一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと見込まれるか否かにより判断されることとなり、そのためには合理的な仮定に基づく業績予測によって、将来の一時差異等加減算前課税所得の額を見積る必要があります。

2. タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得

タックス・プランニングとは、将来減算一時差異の解消見込年度や税務上の繰越欠損金の繰越期間に、具体的な一時差異等加減算前課税所得を発生させることを計画することをいいます。例えば、含み益のある固定資産や有価証券を売却するという意思決定に基づき、タックス・プランニングが存在すると判断されれば、一時差異等加減算前課税所得に織り込むこととなります。

3. 将来加算一時差異

後述「3. 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順」で記載のとおり、手順2と手順3において、解消見込年度ごとに将来減算差異等と将来加算一時差異を相殺し、将来加算一時差異により相殺される将来減算一時差異等については、繰延税金資産の回収可能性があると判断されます。

① 将来減算一時差異に係る繰延税金資産の回収可能性
将来減算一時差異の解消見込年度及び繰戻・繰越期間において将来加算一時差異が解消されると見込まれるかどうか。

② 税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産の回収可能性繰越期間に税務上の繰越欠損金と相殺される将来加算一時差異が解消されると見込まれるかどうか。

Ⅱ 繰延税金資産の計上限度額と回収可能性の見直し

将来減算一時差異と税務上の繰越欠損金に係る繰延税金資産は、回収可能性の判断要件を考慮した結果、当該将来減算一時差異(複数の将来減算一時差異が存在する場合には、それらの合計)及び税務上の繰越欠損金が将来の課税所得を減少させ、税金負担額を軽減する効果を有さなくなったと判断される場合があります。当該部分については、評価性引当額として繰延税金資産を計上しないことになります。

また、繰延税金資産の計上額は毎期見直し、回収可能性がなくなった場合には、計上されていた繰延税金資産のうち回収可能性がない金額を取り崩さなければなりません。

Ⅲ 繰延税金資産の回収可能性の判断に関する手順

繰延税金資産の回収可能性を判断する場合の具体的な手順は、<図1>のとおりに行います。

表1 過大支払利子税制の見直し

期末に税務上の繰越欠損金を有する場合、その繰越期間にわたって将来の課税所得の見積額に基づき、税務上の繰越欠損金の控除見込年度及び控除見込額のスケジューリングを行い、回収が見込まれる金額を繰延税金資産として計上します。

なお、繰延税金資産の回収可能性判断の3要素のうち、「収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得の十分性」の検討に当たっては、企業の過去の課税所得の発生状況や将来の業績予測等の要件に基づき企業を五つに分類し、当該分類に応じて回収が見込まれる繰延税金資産の計上額を決定することとしています(企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」15項)。会社分類につきましては、本誌2020年2月号※1をご参照ください。

※1 情報センサー2020年2月号 企業会計ナビ ダイジェスト「「繰延税金資産の回収可能性」について(PDF)

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