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米国での買収候補企業の選定と初期コンタクト(M&A初期ステージ)の留意点

2021年4月1日 PDF
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情報センサー2021年4月号 JBS

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) ニューヨーク駐在員 米国公認会計士 江口 良

1988年以来、銀行や国際金融機関などで投融資の実行、評価に携わる。2003年から17年間、ニューヨークの4大会計事務所にてデューデリジェンス、その他M&A関連業務を日本企業に対して提供。2020年に、EYジャパン(SaT)に移籍すると同時にEYニューヨーク事務所に日米コリドーリーダーとして駐在。引き続き日系企業の米国でのM&A活動を支援している。

Ⅰ はじめに

日系企業が米国で企業買収を行うに当たり、まずは自社の戦略に合致した買収対象企業を特定することが重要です。本稿では対象企業の特定、初期のコンタクト方法、および最近の米国M&A市場への対応について論じます。

米国で買収対象企業を特定する際、次のような課題が挙げられます。

① 銀行・証券会社・会計事務所等(以下、アドバイザー)から案件が持ち込まれるが、自社の戦略に合致するものがそれほど多くない。
② 非公開企業の財務情報は当該会社に直接コンタクトし、守秘義務契約を結ばない限り入手が困難。
③ 自社に適切な人材がいない場合、自ら候補企業にコンタクトを行うのはハードルが高い。

一方、対象となる米国企業にとって、M&Aは特別なものではなく、的確なアプローチを行えば面会できるケースも多く、効果的にM&Aを始めることも可能です※1

Ⅱ 候補企業の特定方法

通常対象企業の選定方法としては、次の方法が挙げられます。

1.  受動的方法-アドバイザーの持ち込み案件

買収したい企業の要件をアドバイザーに伝えておくと、案件が出てきた際、情報を自然と入手できるためよく採られる方法になります。対象企業のティーザー((匿名の)企業概要書)なども入手でき、最低限の事業、財務情報も閲読できます。一方、前述の通り、紹介される案件の多くが必ずしも自社の戦略と合致するとは限らない、案件の持ち込み頻度が低くなりがちである、案件が入札形式となる場合も多い、等から買収完了の可能性は低くなります。後述の他の方法と併用することが有効です。

2. 能動的方法-関係、取引のない企業

積極的にM&Aを行う方法として、業界調査の上、候補企業をリスト化し、絞り込まれた企業にコンタクトを行う方法があります。自社戦略に沿って作成した候補先のロングリスト(初期的なリスト)を絞り込む際、前述の通り非公開企業については詳細情報が公開されていないので、情報入手のためにこれら候補先に直接接触することが必要になります。(単体でない)カーブアウト事業を特定して候補に加えることや、候補企業にコンタクトする際、ある程度会社の内実を把握した上で適切な個人にコンタクトすることも重要です(最高経営責任者(CEO)でなく株主に話すべきであった、等)。プライベートエクイティファンド(PE)のポートフォリオ企業が対象の場合、候補企業が売却される時期、および自社が買い手候補になり得るのか等の情報を得るためにファンドと良好な関係を築く必要があります。通常PEは潜在的な買い手に会ってはくれるものの、日本企業の場合案件推進のスピードが遅いなど懸念されるケースも見られます。他に、トレードショー(業界の展示会)や、その他ネットワークを利用し目的とする企業に接触する場合もあります。米国企業の事業開発担当者などは精力的にコネクションを作っており、日本企業にとっても継続的に関係構築を行う価値はあります。コンタクト後、買収交渉がうまくいかなくとも業務提携など買収以外の関係を構築できることもあります。

3. 能動的方法-既知の企業(同業他社、その他関係)

既に関係のある候補企業については、内情もある程度把握できており、ディールの成功確率も高いといわれています。条件交渉がまとまらなかった場合でも、上述の場合と同様に、別の形でのアライアンスを組めることもあります。ただし、相手が同業他社の場合、反トラスト法の観点から候補企業の財務、顧客情報が入手しづらいケースや、業界でのうわさになってしまう可能性にも留意する必要があります。また、悪い形で交渉が決裂した場合、その後の関係に影響が出る可能性もあります※2

Ⅲ アドバイザー・仲介者の利用について

以上のケースでアドバイザーを利用する場合と利用しない場合があります。その効果をまとめますと<表1>のようになり、自社の状況に応じてアドバイザーをうまく使い分けることが望まれます。

表1 アドバイザー利用のメリット・デメリット

Ⅳ 直近の米国M&A市場への対応

米国M&A市場は業界により濃淡はありますが、2020年後半から全般的に活発になっており、今後も低金利・過剰流動性の継続、COVID-19の終息、ジョー・バイデン政権の課税強化前の駆け込みディールが予想され、引き続き過熱感を持って推移していくと考えられます。また、現在のCOVID-19下でもデューディリジェンスでは仮想的なサイト訪問が行われ、情報の共有・処理も迅速化されており、ディールのスピードが加速しています。そのような環境で他の競合Bidder(入札者)に負けずに米国企業の買収を行うためには、社内の承認制度やシナジー実現方法を整えた上で、対象会社の絞り込みや初期コンタクトを精度高くスピーディーに行うことが重要になります※3。必要であればアドバイザーを使い、能動的に候補企業にアプローチを行うことで相対取引を作り出し、自らディールプロセスをコントロールしていくことが有効な手段の一つになります。日本の人口が縮小する中、日本企業の海外投資はますます重要になります。先方がCOVID-19による出張制限でコンタクトを行いやすくなっている今こそが、仮想環境を利用して候補先へのコンタクト、ネットワークを構築する好機になっているといえます。

※1 例えば、非上場のオーナー企業へアプローチをする場合、適切なアプローチを前提に、オーナーと既存の関係がなくても、「自分の会社を日本の会社がどう評価するのか、将来のエグジット先の一つの候補としてまずは話を聞いてみたい。」とオーナーが対応するケースも見られる。

※2 一般的に関係のない先へのコンタクトも含め、最初は“買収”という理由でなく、“戦略的関係を模索したい”という理由で接触することが推薦される。

※3 買収の話を切り出したら自社と一緒になることのメリットをより具体的に伝え、スムーズに買収を完了できることを強調していくことが望まれる。

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