貸倒損失の計上に関する留意点~法人税基本通達9-6-3に焦点を当てて~

貸倒損失の計上に関する留意点~法人税基本通達9-6-3に焦点を当てて~

情報センサー2021年8月・9月合併号 押さえておきたい会計・税務・法律

公認会計士 太田達也

当法人のフェローとして、法律・会計・税務などの幅広い分野で助言・指導を行っている。また、豊富な知識・経験および情報力を生かし、各種実務セミナー講師、講演等において活躍している。著書は多数あるが、代表的なものとして『会社法決算書作成ハンドブック』(商事法務)、『「純資産の部」完全解説』『「解散・清算の実務」完全解説』『「固定資産の税務・会計」完全解説』(以上、税務研究会出版局)、『例解 金融商品の会計・税務』(清文社)、『減損会計実務のすべて』(税務経理協会)などがある。

Ⅰ はじめに

経済状況が芳しくない中で、自社の取引先の中には業績等が悪化するところが生じている可能性も考えられます。税務上の貸倒損失の損金算入については、実務上、法人税基本通達9-6-1から9-6-3を参考にすることが多いと思われます。法人税基本通達9-6-1および9-6-2については、本誌vol.116(2016年12月号)に掲載していますので、本稿では法人税基本通達9-6-3(形式上の貸倒れ)について詳しく解説することとします。

なお、本稿の意見にわたる部分は、筆者の私見であることをお断りしておきます。

Ⅱ 売掛債権のみを対象とする取扱い

法人税基本通達9-6-3は、次のように、売掛債権のみを対象とし、貸付金その他これに準ずる債権は対象としません。

  • 一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ(法基通9-6-3)

債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。

(1)債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)

(2)法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき

(注)(1)の取引の停止は、継続的な取引を行っていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。

売掛債権、すなわち商品の販売、役務の提供などの営業活動によって発生した売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権は、貸付金などの金銭消費貸借契約に基づく債権とは異なり、履行が遅滞しても直ちに債権回収の手続をとることは困難であり、また、担保保全を行うことも少ない実情にあります。この取扱いは、このような実情に配慮して設けられた、売掛債権についてのみ認められる特例的な取扱いであると考えられます。

Ⅲ 一定期間取引停止後の売掛債権

1. 損金経理要件

先の通達の(1)は、債務者との取引を停止した時(最後の弁済期または最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合が、貸倒れの要件であるとされています。

民法の短期消滅時効を考慮した取扱いであると考えられています。17年5月に成立した改正民法において時効制度が見直されましたが、この通達の基本的な取扱いは今後においても改正されることはなく、継続することが見込まれます。

売掛債権については、その履行が遅滞しているからといって、債権回収手続をすぐにとれるとは限りません。営業保証金を受け入れている場合を除けば、担保や保証をとることもあまりありません。このような商取引の慣行に配慮し、法人税基本通達9-6-2(事実上の貸倒れ)のいわば特例として認められる取扱いが「形式上の貸倒れ」であると考えられます。形式要件を満たすことで基本的に認められますが、法人の意思を明らかにするために、「損金経理」を行うことが、貸倒処理が認められるための要件とされています。

なお、債務者の資産状態、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至った場合が前提であり、資産状態、支払能力等に問題がないにもかかわらず、請求漏れ等を原因としてたまたま取引が停止した時以後1年以上経過した場合には、この取扱いを適用することはできないと考えられます。

2. 継続的な取引を行っていた債務者

継続的な取引を行っていた債務者に対する売掛債権が対象であり、例えば不動産取引のように同一人に対し通常継続して行うことのない取引を行った債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権が1年以上回収できないにしても、この取扱いの適用は受けられません。

この点、例えば商品の通信販売のケースで、一度でも注文があった顧客について、継続・反復して販売することを期待してその顧客情報を管理している場合には、結果として実際の取引が1回限りであったとしても、その顧客を「継続的な取引を行っていた債務者」として、その1回の取引が行われた日から1年以上経過したときにこの取扱いを適用することができると考えられます※1

なお、同一の債務者に対して売掛債権と貸付債権の両方を有しているときに、売掛債権についてこの通達 の要件を満たしているときは、売掛債権の部分についてのみ貸倒処理を行うことは認められます。

3. 備忘価額を付すこと

備忘価額を付すことを要件としているため、貸倒処理を行う場合であっても、必ず1円の帳簿価額を残しておかなければなりません。

備忘価額を付すことを要件としているのは、その貸倒処理をした債務者に係る補助簿(得意先元帳)を閉鎖しないで、残しておく必要があるためであると考えられます。この取扱いは特例であるため、貸倒処理をしたとしても実際には後日に回収ができる可能性もなくはありません。そこで、備忘価額での記帳を義務づけ、後日回収がなされたときに、適正な処理(益金算入する処理)を行うようにそのような取扱いを課しているものと考えられます。備忘価額を付して貸倒れの処理をした売掛債権について、その後に弁済を受けたときは、例えば「(借方)現預金/(貸方)償却債権取立益」のように仕訳を起こし、その弁済を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入することが必要です。

なお、備忘価額を付している債権について、全額の回収が見込まれないと判断された時点で、その備忘価額を落として、当該債務者に係る得意先元帳を閉鎖しても問題ないと考えられます。

4. 取引停止後1年以上経過

「債務者との取引を停止した時(最後の弁済期または最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合」と定められているように、1年以上経過しているかどうかをみるときの起算点に留意することが必要です。

<図1>のように、取引を停止した時、最後の弁済期および最後の弁済の時、以上の三つのうち最も遅い時から1年以上経過することが必要です。

図1 「1年以上経過」の起算点
設例 「最後の弁済期」と「最後の弁済の時」の相違

前提条件

当社(決算期3月)の取引先A社とは、従来継続的に商取引を行ってきましたが、X1年2月10日を最後に取引がなくなっています。A社に対しては、売掛金300万円と受取手形500万円を有しています。

売掛金については、再三支払いを督促しましたが、支払ってもらえないでいます。受取手形については、X1年5月20日に一度支払期日が到来しましたが、そのときジャンプの要請に応じ、X1年8月20日まで期限を延ばしています。

X2年3月期決算にあたって、最後の取引から1年以上が経過しているため、法人税基本通達9-6-3を適用して貸倒処理をしようと考えていますが、認められますか。

解答

債務者との取引が停止した時以後1年以上経過した場合が要件とされていますが、括弧書きで、「最後の弁済期」または「最後の弁済の時」がその停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時以後1年以上経過していることが必要であるとされています。

売掛金については、特に支払期日が定められていない場合は、即時払いと考えられ、最後の納品日であるX1年2月10日が起算点になるものと解されます。一方、手形のように支払期日がある場合は、支払期日が「最後の弁済期」になります。本ケースでは、手形の支払期日を当初のX1年5月20日からX1年8月20日にジャンプしているため、「最後の弁済期」はX1年8月20日となります。

本件では、「最後の弁済期」がX1年8月20日ですから、取引停止後からで
はなく「最後の弁済期」から1年以上経過していないことになります。したがって、X2年3月期において、法人税基本通達9-6-3に基づいて売掛金および受取手形の貸倒処理を行うことは認められません。

なお、「一定期間取引停止後の売掛債権」の取扱いは、たとえ個別評価金銭債権に対する貸倒引当金を計上している場合であっても、法人税基本通達9-6-3に定められた要件を充足した段階において、(備忘価額を残して)貸倒処理ができます(その場合は、もちろん貸倒引当金の戻入れを行います)。

5. 法的整理手続との関係

会社更生法や民事再生法の手続が開始されている債務者に対する金銭債権である場合、本来であれば法人税基本通達9-6-1(法律上の貸倒れ)の適用対象となるものであっても、法人税基本通達9-6-3に定められた要件を充足した段階において、貸倒処理ができます。次の設例を参考としてください。

設例 会社更生法の適用先との間で一定期間取引停止の場合

前提条件

当社(決算期3月)の取引先A社は、ここ数年業績が大幅に悪化しており、当社はX1年10月1日から取引を打ち切っています。当社は、A社に対する売掛金を5,000万円有しています。その後A社は、予想どおり会社更生法の開始申立てを行い、法的整理手続に入りました。

X3年3月期決算にあたって、取引停止後1年以上経過しているため法人税基本通達9-6-3の適用により貸倒処理するつもりでいました。しかし、会社更生法の手続はまだ終了しておらず、更生債権として届け出ていることから、少額ながら回収される可能性も残っています。

X3年3月期決算において、法人税基本通達9-6-3を適用して貸倒処理を行うことは、認められますか。

解答

取引先A社との間で、取引を停止する前は継続的取引を行っていて、取引停止後回収努力をしたにもかかわらず1年以上を経過しているものとします。その場合、法人税基本通達9-6-3の適用要件は充足されていますが、法的整理手続の進行との関係をどのように考えるかが問題となります。

法人税基本通達9-6-3は、継続的な取引を行っていた債務者に対する売掛債権について特例的に認められた取扱いであり、法的整理手続が行われたこととは関係なく、要件の充足によって適用が可能です。会社更生法の適用が行われたことや更生手続が終了しているかどうかに関係なく、法人税基本通達9-6-3の適用により貸倒処理を行うことが認められます。

Ⅳ 取立費用に満たない同一地域の債務者に対する売掛債権

同一地域の債務者に対して有する売掛債権の総額が、その取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合には、貸倒損失の損金算入が認められます。同一地域に複数の債務者が存在している場合には、当然にそれらの債務者に対する売掛債権の額を合計して判定します。

また、取立てのために要する旅費その他の費用とは、通常は主として交通費ですが、遠隔地で宿泊を要する出張になるとすれば、宿泊代を加味して見積もることになります。

備忘価額を付すことが要件とされている点については、「Ⅲ 一定期間取引停止後の売掛債権」の場合と同様です。

なお、「IV 取立費用に満たない同一地域の債務者に対する売掛債権」の取扱いについては、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないことが要件ですが、債務者の資産状況、支払能力等の悪化は直接の要件ではありません。取立てに要する費用が、同一地域の債務者に対して有する売掛債権の総額を上回る場合に、経済的に取立てを行う意味がないという趣旨である点においては、債権者側の事情から認められた取扱いであるとみることができます。

※1 国税庁・質疑応答事例「通信販売により生じた売掛債権の貸倒れ」

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