金融/非金融サービスの包括的デザインの重要性

金融/非金融サービスの包括的デザインの重要性

2021年8月2日 PDF
カテゴリー Trend watcher

情報センサー2021年8月・9月合併号 Trend watcher

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) ストラテジー・アンド・トランザクション(SaT) 綱田壮己

外資系コンサルティングファームを経て、2020年にEYパルテノンに参画。主に金融機関向けの経営・事業・サステイナビリティ戦略、事業ポートフォリオ管理、M&AやPMI、ガバナンス整備の業務を担当。非金融機関向け金融サービスの戦略立案、事業・アライアンス・買収戦略や実行プロジェクトにも従事。SaTの銀行証券セクターリーダー。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング(株) ストラテジー・アンド・トランザクション(SaT) 鈴木雄大

大手システムインテグレーター、大手コンサルティングファームを経て、2020年にEYパルテノンに参画。主に金融機関向けの経営・事業戦略、M&AやPMI業務を担当。非金融業者の金融業参入支援等実績多数。同社シニアマネージャー。

Ⅰ はじめに

日本国内における少子高齢化、地域過疎化といったマクロトレンドに加え、足許で発生した新型コロナウイルス(Covid-19)の蔓(まん)延は、多くの事業にとってビジネスモデル転換の必要性を突き付けています。

金融サービスは、規制緩和、IT技術の進化、消費者行動様式の変化を背景に、異業種からの参入が相次いでいましたが、本稿ではあらためて金融・非金融の垣根を越えた包括的なサービスデザインの必要性とその在り方について考察します。

Ⅱ 金融業参入障壁の低下と包括的サービスデザイン

1. 規制緩和とIT技術進化による参入障壁の低下

かつて金融業は、厳格な法要件と、堅牢なシステム構築・高度な専門性が求められる、極めて参入障壁の高い事業でした。依然、「お金」を扱う事業ゆえの厳格さは求められる一方で、規制緩和とIT技術の進化は金融業への参入障壁を低下させました。

まず規制緩和ですが、1996年より実施された金融ビッグバン以降、金融業に対する規制は着実に緩和を続けています。当初は、株式売買委託手数料の自由化や銀行における投資信託の窓口販売等、金融機関そのものの競争自由化・競争力強化に向けた規制緩和でしたが、昨今では銀行・証券・保険の各種サービスをOne Stopで仲介提供できる金融サービス仲介業※1の創設や、クレジットカードの極度額や送金額上限の少額類型化による順守要件の緩和※2 等、非金融業者やスタートアップによる参入を促す法改正が続いています。また、21年4月には厚生労働省より給与デジタル払いの制度設計案の骨子が示されており、時代の変遷とともに今後一層、金融サービス提供者は多様化していくものと推察します。

次にIT技術の進化では、Cloud SourcingやOpen Source等の普及は設備コストの低減を、AIやRPAの普及は人的コスト(専門性と労働力)の低減を可能としました。また、18年6月施行の銀行法改正によるAPI環境整備の努力義務化等、APIエコノミーの整備・拡充も進んできています。欧米での先行事例が多いですが、国内でも銀行によるBaaS(Banking as a Service)/Embedded Financeサービスの提供や、FinTech事業者による先進的機能のAPI提供等、金融業の展開に際しては堅牢なシステムを必ずしも自前で構築せずとも、他社サービスの利活用が可能となってきています。

2. 消費者行動の変容と求められる包括的サービスデザイン

1990年後半以降でのインターネット・スマートフォンの急速な普及とデジタル化は、消費者行動とサービス・コミュニケーションの在り方を大きく変容させ、今では非対面での行動完結は一般的となりました。

消費購買/サービス提供において、一般的に決済・融資といった金融サービスは「手段」であり、そのためにUI・UXが妨げられること(他社サイトへの画面遷移や各サービスでの認証等の利用者負荷)は、顧客離反に結び付きます。そのため、大手の非金融コングロマリット企業では、これまでのような画一的な外部金融サービスへのインターフェースを脱し、内製化による購買導線への組み込み(ビルドイン)を行うことで、シームレス化・UX高度化、顧客離反抑止に努めてきました。

また、金融サービスの内製化は、シームレスな導線構築に加え、自社ポイントプログラム等と連環したサービス設計の自由度を高め、消費購買/サービス利用のへ動機付け(アップセル・クロスセルの実現)や継続的な顧客データの蓄積の強化を可能としました。

このように、購買行動のデジタル化(非対面化)の進展や、技術進化による商品・サービスの急速なコモディティー化が進む昨今においては、購買導線に沿った金融/非金融サービスの包括的なデザインとシームレス化、また、認証やポイントサービスを含めた複合的サービスデザインを通じた体験価値の向上が極めて重要な選好要素となっています。

Ⅲ 包括的サービス構築に向けたアプローチ

これまでの整理の通り、規制緩和・IT技術の進展は金融業への参入障壁を低下させるとともに、購買行動のデジタル化は、金融/非金融サービスの垣根を越えた包括的サービスデザインを要求しています。

ここでは、金融業者/非金融業者それぞれの立場で、さらなる成長、持続可能なビジネス構築に向けたアプローチについて考察します(<図1>参照)。

図1 DXの失敗要因

1. 非金融業者

非金融業者においては、単一サービス提供の「点」から、金融サービス含めた購買導線上の「線」あるいは、複数サービス・ポイントプログラムを含めた「面」での包括的サービスデザインが必要となります。

なお、金融サービスのビルドインにおいては、大きくは①自社での金融ライセンス取得・サービス提供②金融業者とのアライアンス提供といった選択肢があります。実現手段の検討においては、費用対効果や実現難易度等、論点は多数ありますが、自社にて実現したい包括的サービスをどちらであれば実現できるかを基準に判断を行うことが肝要です。

アプローチの方向性

  • 本業に近接する金融サービス(決済・融資など)の組み込みによる導線のシームレス化(画面遷移削減・追加認証の排除等)、ならびにポイントサービス等の複数の商品/サービスを結び付けるブリッジサービスの拡充
  • 本業のライフサイクルと、マネーライフサイクルを掛け合わせたサービスデザイン(接点の多重化)
  • 本業保有の各種ライフログデータを活用した金融サービス開発・差別化(テーラーメイド型商品・AI活用によるインスタント提供等)
  • VR・Wearable Device・5G等の新技術と金融を組み合わせた新たな本業サービス開発
  • 仕入業者・テナントの店子等との共創関係強化(トランザクションレンディングやファクタリグ・決済ツール提供等)など

2. 金融業者・FinTech事業者

非金融業者の金融業進出・サービス提供が今後一層加速することを所与の条件に、従来のダイレクト型ビジネスに加え、B2B2C・B2B2B型のエコシステム構築が重要となります。非金融業者が新たな顧客となるため、非金融業者とエコシステムの機能として選定されるための機能/サービスの差別化が肝要となります。

アプローチの方向性

  • 非金融業者との強固なアライアンス構築のためのプラットフォーム構築(柔軟なAPIとカスタマイズ基盤構築、サービス開発の高スピード化・低コスト化に向けた分散型台帳やAI基盤などへの刷新)
  • アライアンス先への金融本業の差別化提供
  • 金融機関としての安全・強固を訴求したデジタルIDや本人確認・生体認証等の高度化・機能提供
  • 既存事業とのカニバリゼーションを恐れない、最新技術やスキームを活用した金融サービス開発(FinTech事業者買収や合弁会社設立等)
  • 金融以外でのユーザ接点構築のための他業進出など

Ⅳ おわりに

包括的サービスの実現においては、金融/非金融業者問わず、何よりも顧客を中心に据え、行動・モチベーションを阻害する根本課題を払拭(ふっしょく)し、体験価値を向上させることが重要です。

EYでは、これらの論点を踏まえ、金融/非金融を俯瞰(ふかん)したビジネスデザイン、事業戦略策定、機能具備に向けたM&Aやシステム・オペレーション構築などへのサポートを数多くの企業へ提供しています。

※1 金融サービスの提供に関する法律(21年12月迄に施行予定)
www.fsa.go.jp/common/diet/201/index.html

※2 登録少額包括信用購入あつせん業(21年3月施行)
 www.meti.go.jp/policy/economy/consumer/credit/R2kaiseinogaiyou2.pdf

第二種・第三種資金移動業(21年5月施行)
www.fsa.go.jp/news/r2/sonota/20201225-2/20201225-2.html

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