外国人役員・従業員を抱える企業に求められる管理体制

外国人役員・従業員を抱える企業に求められる管理体制

2021年11月1日 PDF
カテゴリー EY Consulting

情報センサー2021年11月号 People Advisory

EY行政書士法人 行政書士 木島祥登

行政書士として17年以上にわたってイミグレーションサービスを提供。特に、グローバル企業やスタートアップ企業に対してインバウンド・アウトバウンドイミグレーションをカバーしている。また、昨今は、富裕層向けのイミグレーションサービス(Citizenship by Investment)など幅広いイミグレーションサービスを提供しており、2021年よりEY行政書士法人People Advisory Services所属。主な著書(共著)に『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規出版)などがある。

Ⅰ はじめに

ビジネスのグローバル化、コロナ禍で特に注目され始めたリモートワーク、特定技能制度の導入など、日本企業の外国人雇用をめぐる状況は多様化しています。他方、外国人の在留に関しては、2012年7月から新たな在留管理制度が導入され、「点と点の管理」から「点と線の管理」への転換が図られました。19年4月、それまでの「入国管理局」は、「出入国在留管理庁」(以下、入管庁)となったことによって、入管庁は「全ての人の出入国の公正な管理」に加えて、「本邦に在留する全ての外国人の在留の管理」を目的とすることが明確になりました(出入国管理及び難民認定法(以下、入管法)1条)。その結果、外国人を雇用する日本企業は、外国人役員、従業員等の「在留管理」をきめ細やかに正しく行うことが求められています。また、昨今、外国人の労働者管理が正しくできず、結果として、法人のみならず、法人代表や人事担当者が不法就労助長罪等で立件される事態が発生しており、企業の在留管理に対する早急な取り組みが求められています※1

Ⅱ 在留管理制度

在留管理制度とは、日本に滞在している外国人の中でも中長期在留者※2(入管法19条の3柱書)の在留状況を入管庁長官が管理する制度をいいます。在留管理制度は、入管庁長官による以下の事項を柱としています。

① 情報の継続的な把握、事実の調査

② 在留資格等の取消制度

③ 企業(所属機関)の中長期在留者の受入れの開始及び終了その他受入れの状況に関する情報の提供(努力義務)

④ 外国人に対して課されている義務、すなわち在留カード記載事項の変更があった場合や、所属機関等の変更等に関する届出義務(入管法19条の7ないし17関係)

企業として重要なことは、④にいう届出が、在籍している外国人役員や外国人従業員によって適時に履行されることです。

Ⅲ 外国人役員や従業員の届出義務について

外国人役員や従業員の届出義務は、外国人本人に課せられており、所属機関に課せられたものではありません。しかし、当該届出義務の不履行は、在留資格の取消しの対象となり(入管法22条の4I⑧⑨参照)、20万円以下の罰金に処せられる可能性があります(入管法71条の5)。そのため企業としては、所属する外国人役員や外国人従業員、アルバイト等が、どのような届出義務の対象となっているかを確実に把握し、適時に届け出ているかを把握する必要があります。

例えば、所属機関が本店を移転した場合、在留資格「技術・人文知識・国際業務」「企業内転勤」「経営・管理」「高度専門職」等を有している外国人は、本店移転から14日以内に入管庁長官に届け出る必要があります(入管法19条の16柱書)。他方、在留資格「日本人の配偶者等」を持った者については、当該届出は不要です。このように、企業としては、届出義務を負う対象となる外国人を特定し、その外国人が確実に届け出を行うよう社内の体制を構築する必要があります。

在留管理を確実に行うためには、所属している「外国人のリスト※3」を作成しておくことが重要です。

Ⅳ 外国人雇用企業の留意すべきこと

在留管理とは、入管庁長官による中長期在留者の継続的な管理制度であることは前述の通りです。他方、外国人を雇用している企業が管理しなければならない入管法上の主要なポイントは次の2点です。

① 在留期限の管理

② 資格外活動許可をもって勤務している者(留学生アルバイト等)の時間管理

すなわち、外国人は、各在留資格に定められた在留期間を超えて在留することはできません。これに違反すると、退去強制の対象となり(入管法24条4号ロ)、罰則の対象(入管法71条Ⅰ⑤)となります※4。また、在留資格「留学」「家族滞在」等を持つ外国人が、資格外活動許可をもって就労している場合(アルバイト)に、資格外活動許可で認められた時間を超えて就労したときも罰則の対象となります(入管法73条※5)。

他方、在留期限を超えて在留する外国人を雇用し、資格外活動許可で認められた時間を超えて就労した外国人を雇用した企業は、不法就労活動を助長させたとして、罰則の対象となります(入管法73条の2)。さらに、不法就労助長罪は、両罰規定があり、法人の代表者や使用人その他の従業者等も処罰の対象となります(入管法76条の2)。

特に、資格外活動許可をもってアルバイトをしている外国人の時間管理は非常に難しく、違反が生じやすい場面です。たとえば、「1週について28時間以内」という条件が付されている場合(規則19条5項1号)、どの7日間をとっても活動時間が28時間以内に収まっている必要があります。そのため、月曜日から日曜日までの勤務時間を集計し28時間以内に収まっていることを確認する方式を採用している場合には、いずれかの7日間の活動時間が28時間を超えることが発生しているケースが多くみられ、経営陣も含めて不法就労助長罪に該当する可能性があります。

上で述べた外国人労働者の管理は、非常に難しいことが挙げられます。例えば、赴任者は、人事が把握しているものの、出張者については人事ではなく、ビジネスで情報管理するなど管理する部署が別々になっている場合や、アルバイトも人事ではなく各店舗が管理している場合もあります。データを一元的に管理する体制を構築することが企業に求められているといえます。また、このような外国人雇用管理については、例えば、派遣会社はもとより、外国人労働者の派遣を受けている派遣先企業においても適切になされる必要があります。

Ⅴ おわりに

在留管理や外国人労働者の管理は、入管法上からのみ求められるものではありません。外国人雇用の適切な管理と運営は、人事としてESGに貢献するものです。また昨今、サプライチェーン管理の観点から子会社や関連会社、取引先にも外国人の適切な雇用関係や雇用管理ができていることを求める企業が増えています。在留管理や外国人の雇用管理の違反は、「雇用」に直結する問題でもあり、企業を取り巻くレピュテーションリスクは非常に高いといえます。

※1 法定時間を超えて留学生を働かせたとして法人代表者、労務担当者らが不法就労助長罪の疑いで書類送検された事例等。

※2 (1)「3月」以下の在留期間が決定された者(入管法19条の3①)、(2)「短期滞在」の在留資格が決定された者(入管法19条の3②)、(3)「外交」または「公用」の在留資格が決定された者(入管法19条の3③)、(4)これらの外国人に準じるものとして法務省令で定める者(入管法19条の3④、規19の5)、(5)入管特例法に基づく特別永住者、(6)在留資格を有しないもののいずれにも該当しない者をいう(入管法19条の3柱書)。

※3 この点、オンライン申請において提出する「所属している外国人リスト」に求められる粒度をご参照ください。
www.moj.go.jp/isa/content/001351606.pdf

※4 3年以下の懲役若しくは禁錮若しくは300万円以下の罰金に処し、又はその懲役若しくは禁錮及び罰金を併科する(入管法70条Ⅰ⑤)。

※5 1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは200万円以下の罰金に処し、又はその懲役若しくは禁錮及び罰金を併科する(入管法73条)。

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