情報センサー

時価算定会計基準等の適用による開示上の改正点

2022年2月28日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2022年3月号 会計情報レポート

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 松川由紀子

品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示制度に関して相談を受ける業務、ならびに当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、情報・通信業等の監査業務に従事している。

Ⅰ はじめに

2019年7月4日に企業会計基準委員会(ASBJ)より企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」、企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」等(以下、時価算定会計基準等)が公表され、21年4月1日以後開始する事業年度から原則適用が開始されています。本稿では、時価算定会計基準等の適用による開示上の改正点について解説します。なお、文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

表1 本稿で用いる会計基準等の略称

Ⅱ 開示に関する改正の概要

時価算定会計基準等の公表と同時に金融商品会計基準及び時価開示適用指針も改正されています。金融商品に関する注記事項としては、これまで(1)金融商品の状況に関する事項、及び(2)金融商品の時価等に関する事項が求められていましたが、これに追加して、(3)金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記が求められることになりました(金融商品会計基準40-2項)。

【金融商品に関する注記事項】

(3)金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記内容については、時価開示適用指針5-2項に定められていますが、金融商品のレベルごと、また、時価をもって貸借対照表価額とするか否かによって、異なる開示が求められています。具体的な注記内容については、「Ⅲ 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」で解説します。

また、(2)金融商品の時価等に関する事項において、従来は、時価を把握することが極めて困難と認められるため時価を注記していない金融商品については、当該金融商品の概要、貸借対照表計上額及びその理由を注記するとされていましたが、改正後は、市場価格のない株式等については時価を注記しないこととし、この場合、当該金融商品の概要及び貸借対照表計上額を注記するとの定めに変更されています。これは、時価算定会計基準における時価の考え方のもとでは原則として時価を把握することが極めて困難な有価証券は想定されないことから、「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」の定めが削除された上で、「市場価格のない株式等」に関しては、たとえ何らかの方式により価額の算定が可能としてもそれを時価とはしないとする従来の考え方を踏襲し、引き続き取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いとなったことを、開示上も反映したものです。

Ⅲ 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項

1. 時価の算定におけるインプットのレベルの分類

時価の算定にあたっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法(例えば、マーケット・アプローチやインカム・アプローチなど)を用いることとされ、評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にすることが求められています。そして、算定した時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価、レベル3の時価に分類されます(<表2>参照)。なお、時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合は、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに分類します。

表2 インプットのレベルの分類

2. 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の開示項目

「Ⅱ 開示に関する改正の概要」で述べた通り、金融商品会計基準及び時価開示適用指針の改正により、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記が求められますが、金融商品のレベルごと、また、時価をもって貸借対照表価額とするか否かによって、求められる開示項目が異なっており、具体的には<表3>の開示項目の注記がそれぞれ求められています。

表3 金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の開示項目

ただし、必ずしもすべての開示項目について注記することが想定されているわけではなく、重要性が乏しいものは注記を省略することができます(時価開示適用指針5-2項柱書きただし書き)。注記の対象となる金融商品について、貸借対照表日現在の残高のほか、時価の見積りの不確実性の大きさを勘案した上で、当期純利益、総資産及び金融商品の残高等に照らして、注記の必要性を判断することになるものと考えられるとされています(時価開示適用指針39-4項)。

なお、連結財務諸表に注記している場合には、個別財務諸表では記載不要です(時価開示適用指針5-2項)。

また、時価算定会計基準の適用初年度においては、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記について、比較情報の開示は不要とされています(時価開示適用指針7-4項)。

3. 時価のレベルごとの合計額の開示例

金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項のうち、時価のレベルごとの合計額(時価開示適用指針5-2項(1)、(2)、及びレベル3で開示が求められる時価の算定に用いた重要な観察できないインプットに関する定量的情報及び期首残高から期末残高への調整表(時価開示適用指針5-2項(4)12)は、基本的に表形式で注記することが想定されています。

参考として、時価開示適用指針で示されている時価のレベルごとの合計額の開示例を<表4>に示します。

ただし、他の様式の方が適切な場合には、他の形式による注記を妨げるものではないとされています(時価開示適用指針39-6項)。

表4 時価のレベルごとの合計額の開示例

Ⅳ 適用初年度における会計方針の変更の注記

時価算定会計基準等の適用初年度においては、新たな会計方針を将来にわたって適用し、その変更の内容について注記します(時価算定会計基準19項)。

ただし、次に示す取扱いも認められており、この場合には、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更に関する注記を記載します(時価算定会計基準20項)。

  • 時価の算定にあたり観察可能なインプットを最大限利用しなければならない定めなどにより、時価を算定するために用いた方法を変更することとなった場合で、当該変更による影響額を分離することができるときは、会計方針の変更に該当するものとし、当該会計方針の変更を過去の期間のすべてに遡及適用することができる。
  • 適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を、適用初年度の期首の利益剰余金及びその他の包括利益累計額又は評価・換算差額等に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することもできる。

なお、時価をもって貸借対照表価額とする金融商品を保有している場合には、時価の算定の結果が時価算定会計基準の適用前と変わらなかったとしても、時価の算定方法は変わっていると考えられるため、この場合は会計方針の変更に該当すると考えられます。一方、時価をもって貸借対照表価額とする金融商品を有しておらず、時価の注記のみ求められる金融商品を保有している場合のように、時価算定会計基準を適用しても会計処理には影響がなく、表示及び注記事項の定めのみが影響する場合は、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更ではなく、表示方法の変更に該当すると考えられます。

V 会社法計算書類における注記事項

20年3月31日に公布された「会社計算規則の一部を改正する省令」(令和2年法務省令第27号)により、会社計算規則が改正され、会社法計算書類における金融商品に関する注記については、「金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項」が追加されています(会社計算規則109条)。

【会社計算規則における金融商品に関する注記事項】

ただし、有価証券報告書に加え、会社法計算書類においても「金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項」の注記が求められることによる実務上の負担等も考慮し、各株式会社の実情に応じて必要な限度での開示を可能とするため、時価開示適用指針における定めとは異なり、会社計算規則においては概括的な規定とされています。

したがって、時価開示適用指針において「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」として注記を求められる事項であったとしても、各会社の実情を踏まえ、計算書類においては当該事項の注記を要しないと合理的に判断される場合には、計算書類において当該事項について注記しないことも許容されるとされています。他方で、当該事項の注記の要否は、各会社において、その実情を踏まえ、個別に判断されるべきものであることから、そのような判断を要せずに画一的に、時価開示適用指針において「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」として注記を求められる事項の一部について、注記を要しないものとする規定は設けないこととされています(「会社計算規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の結果について」第3意見の概要及び意見に対する当省の考え方4(法務省20年3月31日)参照)。

このように、時価開示適用指針が定める一部の項目について会社法計算書類に注記が行われないことも許容されると考えられますが、そのような場合においては、各会社の実情を踏まえた、当該事項の注記を要しないとの合理的な判断が求められる点には留意が必要です。

なお、会社法444条3項に規定する大会社であって有価証券報告書を提出する会社以外の会社にあっては、「金融商品の時価の適切な区分ごとの内訳等に関する事項」は省略することができるとされています。

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