ヘッジ会計の中止と終了

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情報センサー2022年6月号 企業会計ナビダイジェスト


企業会計ナビチーム 公認会計士 加藤大輔

監査部門にて会計監査業務に従事したのち、アドバイザリーサービスを行うFAAS事業部へ異動。現在は、主にIFRSや収益認識基準などの導入支援業務などに従事している。また、書籍の執筆や雑誌への寄稿、法人ウェブサイト(企業会計ナビ)に掲載する会計情報コンテンツの企画・執筆に携わっている。


当法人ウェブサイト内の「企業会計ナビ」が発信しているナレッジのうち、アクセス数の多いトピックスを取り上げ、紹介します。今回は「わかりやすい解説シリーズ『ヘッジ会計』第5回:ヘッジ会計の中止と終了」の一部を編集し、紹介します。

Ⅰ はじめに

次のような事態が発生し、ヘッジ会計の要件を充たさなくなった場合、ヘッジ会計の適用を「中止」することになります(企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」(以下、基準)33項、会計制度委員会報告第14号「金融商品会計に関する実務指針」(以下、指針)180項)(<図1>参照)。

図1 ヘッジ会計の中止と終了の関係

① ヘッジ関係が企業のヘッジ有効性の評価基準を満たさなくなった
② ヘッジ手段が満期、売却、終了又は行使のいずれかの事由により消滅した

一方、ヘッジ対象が消滅したとき、又は、ヘッジ対象である予定取引が実行されないことが明らかになったときは、ヘッジ会計の適用を「終了」することとなります(基準34項、指針181項)(<図1>参照)。
 

Ⅱ ヘッジ会計の中止の会計処理

ヘッジ会計を中止するときは、その時点までのヘッジ手段に係る損益又は評価差額をヘッジ対象に係る損益が純損益として認識されるまで、繰り延べることとなります。これにより、ヘッジ会計が有効であった期間のヘッジ手段の損益をヘッジ対象の損益に対応させることができます。また、前述Ⅰ①の場合、ヘッジ会計の中止以降のヘッジ手段に係る損益又は評価差額は発生した会計期間の純損益に計上する必要があります(基準33項、指針180項)(<図2>参照)。

図2 Ⅰ①の場合のヘッジ会計の中止の処理のイメージ

なお、ヘッジ手段が債券、借入金等の利付金融商品の金利リスクをヘッジするものであった場合において、ヘッジ会計を中止する場合は、その時点まで繰り延べていたヘッジ手段に係る損益又は評価差額は、ヘッジ対象の満期までの期間にわたり、金利の調整として純損益に配分します(指針180項なお書き)。

設例

Ⅲ ヘッジ会計の終了の会計処理

ヘッジ会計の適用を終了するときは、その時点まで繰り延べられていたヘッジ手段に係る損益を当期の純損益として処理します(基準34項、指針181項)。なお、ヘッジ会計の適用の終了後、ヘッジ手段であった取引に係る損益は、対応するヘッジ対象が存在しないため、原則どおり、発生した会計期間の純損益として処理することとなります(<図3>参照)。

図3 ヘッジ会計の終了の処理のイメージ

Ⅳ ヘッジ会計終了時点における損失の見積り

ヘッジ会計の要件を満たさなくなったことにより、ヘッジ会計の適用を中止した場合、ヘッジ対象に係る含み益が減少することにより、ヘッジ会計の終了時点で重要な損失が生じるおそれがあるときは、当該損失部分を見積もり、当期の損失として処理する必要があります(基準33項ただし書き、指針182項)。これは、ヘッジ会計の適用を中止した場合、ヘッジ対象に係る含み益はその後も増減するため、ヘッジ手段に係る繰延ヘッジ損失と対応しなくなり、仮にヘッジ対象に係る含み益が大きく減少した場合には、繰延ヘッジ損失の回収可能性が高いとはいえなくなることによるものです(指針349項)。


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2022年6月号
 

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