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金融商品 -金融商品の評価

2022年9月30日 PDF

情報センサー2022年10月号 企業会計ナビダイジェスト

EY新日本有限責任監査法人 企業会計ナビチーム 公認会計士 森田 寛之

複数のIFRS適用会社の監査業務に関与しており、過去には香港証券取引所メインボードへのIPOプロジェクトやIFRS導入プロジェクトに参画。フィンテックやスタートアップ投資などを中心としたインターネット関連事業への知見があり、現在、当法人のテクノロジーセクターに所属。当法人 シニアマネージャー。

当法人ウェブサイト内の「企業会計ナビ」が発信しているナレッジのうち、アクセス数の多いトピックスを取り上げ、紹介します。今回は「解説シリーズ『金融商品』第3回:金融商品の評価」を紹介します。

Ⅰ はじめに

今回は金融商品の評価に関する論点のうち、「有価証券の減損処理」を取り扱います。

Ⅱ 市場価額又は合理的に算定された価額のある有価証券の減損処理

1. 会計処理

満期保有目的の債券、子会社株式及び関連会社株式並びにその他有価証券のうち、市場価格のない株式等以外のものについて時価が著しく下落したときは、回復する見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額とし、評価差額を当期の損失として処理します(金融商品会計基準第20項)。

2021年4月1日以降開始する連結会計年度及び事業年度の期首から時価算定会計基準が適用となり、その他有価証券の決算時の時価について、期末前1カ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができるとする定めについては削除されました。しかし、減損を行うか否かの判断基準は時価の算定方法とは異なるため、減損処理における時価の下落率の判断にあたっては、期末前1カ月の市場価格の平均に基づいて算定された価額を用いることができる取扱いが引き続き認められます(金融商品実務指針第284項)。

その他有価証券については、減損処理の基礎となった時価により帳簿価額を付け替えて取得原価を修正し、以後、当該修正後の取得原価と毎期末の時価とを比較して評価差額を算定します(金融商品実務指針第91項)。

時価の下落程度に応じて、減損処理の判断基準を整理すると<表1>のとおりになります。

表1 減損処理の判断基準

<表1>※1の「回復する見込みがある」と認められるときとは、株式と債券で異なりますので次で解説します。

2. 株式の回復可能性

時価の下落が一時的なものであり、期末日後おおむね1年以内に時価が取得原価にほぼ近い水準にまで回復する見込みのあることを合理的な根拠を持って予測できる場合をいいます。この場合の合理的な根拠は、個別銘柄ごとに、株式の取得時点、期末日、期末日後における市場価格の推移及び市場環境の動向、最高値・最安値と購入価格との乖離(かいり)状況、発行会社の業況等の推移等、時価下落の内的・外的要因を総合的に勘案して検討することが必要です。

ただし、株式の時価が過去2年間にわたり著しく下落した状態にある場合や、株式の発行会社が債務超過の状態にある場合又は2期連続で損失を計上しており、翌期もそのように予想される場合には、通常は回復する見込みがあるとは認められません。

3. 債券の回復可能性

単に一般市場金利の大幅な上昇によって時価が著しく下落した場合であっても、いずれ時価の下落が解消すると見込まれるときは、回復する可能性があるものと認められますが、格付けの著しい低下があった場合や、債券の発行会社が債務超過や連続して赤字決算の状態にある場合など、信用リスクの増大に起因して時価が著しく下落した場合には、通常は回復する見込みがあるとは認められません。

Ⅲ 市場価格のない株式等の減損処理

1. 会計処理

市場価格のない株式等は取得原価をもって貸借対照表価額とするとされています(金融商品会計基準第19項)が、当該株式の発行会社の財政状態の悪化により実質価額が著しく低下したときは、相当の減額を行い、評価差額は当期の損失として減損処理しなければなりません(金融商品会計基準第21項)。

2. 財政状態の悪化

財政状態とは、一般に公正妥当と認められる会計基準に準拠して作成した財務諸表を基礎に、原則として資産等の時価評価に基づく評価差額等を加味して算定した1株当たりの純資産額をいい、財政状態の悪化とは、この1株当たりの純資産額が、当該株式を取得したときのそれと比較して相当程度下回っている場合をいいます。

この際に基礎とする財務諸表は、決算日まで入手し得る直近のものを使用し、その後の状況で財政状態に重要な影響を及ぼす事項が判明していれば、その事項も加味します。通常は、1株当たりの純資産額に所有株式数を乗じた金額が当該株式の実質価額ですが、会社の超過収益力や経営権等を反映して、1株当たりの純資産額を基礎とした金額に比べて相当高い価額が実質価額として評価される場合もあります。

3. 著しい低下

「著しい低下」とは、少なくとも株式等の実質価額が取得原価に比べて50%程度以上低下した場合をいいます(金融商品実務指針第92項)。

なお、市場価格のない株式等であっても、子会社や関連会社等の株式については、実質価額が著しく低下したとしても、事業計画等を入手して回復可能性を判定できることがあるため、回復可能性が十分な証拠によって裏付けられる場合には、期末において相当の減損をしないことも認められます。

4. 事業計画の合理性

事業計画等は実行可能で合理的なものでなければならず、回復可能性の判定は、特定のプロジェクトのために設立された会社で、当初の事業計画等において、開業当初の累積損失が5年を超えた期間経過後に解消されることが合理的に見込まれる場合を除き、おおむね5年以内に回復すると見込まれる金額を上限として行います。

また、回復可能性は毎期見直すことが必要であり、その後の実績が事業計画等を下回った場合など、事業計画等に基づく業績回復が予定通り進まないことが判明したときは、その期末において減損処理の要否を判定しなければなりません(金融商品実務指針第285項)

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