固定資産の減損会計におけるグルーピングの重要性

固定資産の減損会計におけるグルーピングの重要性


情報センサー2022年11月号 Topics


EY 新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 山岸 聡

第4事業部(品質管理本部 会計監理部 兼務)に所属し監査業務に従事する中、品質管理本部 会計監理部において会計処理の相談業務も兼務している。企業会計基準委員会(ASBJ) 固定資産減損会計専門委員会 元専門委員。書籍の執筆、研修会の講師多数。最近ではYouTubeのEY Japanチャンネルで減損会計、税効果会計における間違いやすい論点を分かりやすく解説している。週刊経営財務「Q&A監査の現場から」監修。


Ⅰ はじめに ~グルーピングの重要性を取り上げる理由

大手監査法人に勤務する仕事柄、M&Aに関する新聞報道等に関心を持って接しています。企業の合併・買収(M&A)の件数は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による経済環境の悪化によって多少の落ち込みはあったかもしれませんが、監査の現場では、M&Aの結果として発生したのれんの減損を検討する時間は減っていないという実感を持っています。

M&Aで正ののれんが発生すれば当該のれんの減損リスクを抱えることになるため、のれんの減損が当然にして監査の現場で検討されるわけですが、同時にM&Aによってこれまでの固定資産の減損会計におけるグルーピングの見直しも検討することも忘れてはいけないと思います。

グルーピングは、実務的には管理会計上の区分等を考慮して定める旨が規定されています(企業会計基準適用指針第6号「固定資産の減損に係る会計基準の適用指針」(以下、適用指針))が、M&Aによって管理会計上の区分が見直されるべきであるにもかかわらず従来のグルーピングを前提に減損の兆候を検討してしまうことがないようにしなくてはいけません。本稿では、M&Aがグルーピングを見直すトリガーになるかもしれない点を念頭において、減損会計におけるグルーピングの重要性を確認したいと思います。

Ⅱ グルーピングは減損会計の土台

私は平成15年(2003年)10月に公表された適用指針を作成した専門委員会のメンバーでしたが、当該専門委員会で最も多くの時間をかけて検討したのがグルーピングの議論であったと記憶しています。将来キャッシュ・フローの見積りや割引率なども重要な検討項目でしたが、最も多くの時間をかけたのはグルーピングの議論でした。グルーピングは減損会計の土台であるという認識でこの考え方は今も変わりありません。

資産のグルーピングとは固定資産の収益性の低下を判断する単位で「減損損失を認識するかどうかの判定と減損損失の測定において行われる資産のグルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行う」と定義されています。実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む)を行う際の単位等を考慮してグルーピングの方法を定めるとされています(適用指針第7項)。また、その単位の大きさはどんなに大きくとも、事業の種類別セグメント情報における開示対象セグメントの基礎となる事業区分よりも大きくなることはないと考えられています(適用指針第73項)。

また、一度決めたグルーピングは継続性が求められますが、事実関係が変化した場合は変更することになります。具体的には、事業の再編成による管理会計上の区分の変更、主要な資産の処分、事業の種類別セグメント情報におけるセグメンテーションの方法等の変更などがあればグルーピングは見直されることになります(適用指針第74項)。

Ⅲ M&Aとグルーピングの関係

先ほどのM&Aとグルーピングの関係は<図1>のような関係があります。企業は事業A、事業B、事業Cを営んでおり、これが業績の評価を行うセグメントの単位で、各セグメントの単位の中に固定資産のグループが複数あるものとします。



ここで、会社は事業Aの拡大を図るためM&Aで事業A’を取得したとします。経営者は業績の評価を行うセグメントの単位を事業AとA’を合算した単位とするか、あるいは事業Aと事業A’をそれぞれ単独のセグメントとするか(=セグメンテーションの見直し)、さらに、固定資産の減損会計のグルーピングにおける管理会計上の区分も合わせて見直すか(=グルーピングの見直し)を決定しなくてはいけません。

1. セグメンテーションの見直し

セグメント情報において、取得したA’事業を事業Aに含めて開示するのか、それとも、事業A’を独立して開示するかの決定は、毎期開示している有価証券報告書(あるいは四半期報告書)の作成過程までに行われることになると思われます。場合によっては、事業Bや事業Cの区分も見直しが必要であればセグメンテーションの方法の変更の有無を課題として検討することもあるかと思われます。

2. グルーピングの見直し

セグメント情報は毎期作成していることから1.の検討を忘れることはありませんが、固定資産の減損会計におけるグルーピングは有価証券報告書でグルーピングの方法が毎期開示されるものではなく、減損損失が毎期計上される性格でもないことからグルーピングの見直しの検討が行われないリスクがあります。

事業の再編成による管理会計上の区分の変更やセグメンテーションの変更が、減損会計におけるグルーピングを見直すトリガーになっているのですが、M&Aの際には、固定資産のグルーピングも見直しの必要性を検討することを忘れてはいけません。
 

Ⅳ おわりに

事業の譲受を前提に検討してきましたが、事業の譲渡側においても事業の再編成による管理会計上の区分の変更があればグルーピングを見直すことが必要です。また、事業の譲受や譲渡を繰り返すうちに開示対象セグメントの単位よりも固定資産の資産グループの方が大きくなっていたなどのことはあってはいけません。理由は先にも述べましたが、グルーピングの単位はどんなに大きくとも事業の種類別セグメント情報における開示対象セグメントの基礎となる事業区分よりも大きくなることはないと考えられているからです。特に業績が好調で過去から減損の兆候がなく、かつM&Aで事業を単位として譲受・譲渡を繰り返してきた企業は、現在のグルーピングがM&Aの都度見直してきた結果であることをあらためて確認していただくことも有意義だと思います。


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※ 情報センサーはEY新日本有限責任監査法人が毎月発行している社外報です。


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