ヘッジ会計の適用要件

ヘッジ会計の適用要件


情報センサー2023年新年号 企業会計ナビダイジェスト


EY新日本有限責任監査法人 企業会計ナビチーム 公認会計士 水野 貴允

監査部門に所属し、情報通信業、製造業の会計監査に携わる傍ら、雑誌への寄稿やYouTubeへの出演を行っている。また、法人ウェブサイト(企業会計ナビ)の編集委員として、会計情報の外部発信業務にも従事。主な著書(共著)に、『3つの視点で会社がわかる「有報」の読み方(最新版)』(中央経済社)などがある。

 

今回は「わかりやすい解説シリーズ『ヘッジ会計』第4回:ヘッジ会計の適用要件」の一部を編集し、紹介します。
 

Ⅰ はじめに

企業はその活動の中で、価格変動リスクや為替変動リスクといったさまざまな相場変動リスクにさらされています。このような相場変動リスクを回避(ヘッジ)するために行われるのがヘッジ取引です。リスクにさらされている取引(ヘッジ対象)と逆の動きをする取引(ヘッジ手段)を行うことで、相場変動による影響を相殺することができます。

Ⅱ 適用要件の必要性

ヘッジ取引の効果を適切に会計に反映させることができるヘッジ会計ですが、ある取引がヘッジ取引に該当するか否かは、企業によって、ないし、個々の状況によって異なります。すなわち、同一の取引であっても、ある企業にとってはヘッジ取引に該当し、他の企業にとってはヘッジ取引に該当しないことがあります。また、同一の企業で行われる同一の取引であっても、ある場合にはヘッジ取引で、他の場合には非ヘッジ取引であることがあります。

そのため、事後的にヘッジ会計を選択、または非選択することで利益操作を行うことを防止するため、事前に一定の要件を満たした場合にのみ、ヘッジ会計の適用が認められています。また、ヘッジ会計の濫(らん)用(損益認識時点等を自由に操作すること)を防止するため、継続的にヘッジの高い有効性が保たれている場合にのみ、ヘッジ会計を継続して適用することが認められています。

Ⅲ ヘッジ取引開始時の適用要件(事前テスト)

ヘッジ取引開始時の適用要件として、ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが、次のいずれかによって客観的に認められることが求められています。

① 当該ヘッジ取引が企業のリスク管理方針に従ったものであることが文書により確認できる。

② 企業のリスク管理方針について明確な内部規定および内部統制組織が存在する。そして、当該ヘッジ取引が、内部規定・内部統制に従って処理されることが期待される。

①は、企業が比較的単純なヘッジ取引を行っている場合を想定しています。一方②は、企業が多数のヘッジ取引を行っており、個別のヘッジ取引とリスク管理方針との関係を具体的に文書化することが困難な場合を想定しています。

前記の要件を適用するにあたっては、次の事前テストを実施することになります。

A. ヘッジ手段とヘッジ対象の明確化

ヘッジ会計を適用するためには、ヘッジ対象のリスクを明確にし、そのリスクに対していかなるヘッジ手段を用いるかを明確にする必要があります。また、ヘッジ対象とヘッジ手段の対応関係を正式な文書によって明確にしなければなりません。さらに、ヘッジ手段は、その有効性を事前に予測しておく必要があります。

B. ヘッジ有効性の評価方法の明確化

ヘッジ有効性の評価が適切であるかどうかは、リスクの内容、ヘッジ対象およびヘッジ手段の性質に依存します。そのため、企業はヘッジ開始時点で相場変動またはキャッシュ・フロー変動が有効に相殺されていることを評価するための方法を明確にしなければなりません。また、ヘッジ期間を通して当初決めた有効性の評価方法を一貫して用い、ヘッジ関係が高い有効性をもって相殺されていることを確認しなければなりません。

ヘッジ対象の識別は、原則として、資産または負債等の取引単位で行いますが(個別ヘッジ)、一定の要件を満たした場合には、企業内の部門ごと、または、その企業において、リスクの共通する資産または負債等をグルーピングした上で、ヘッジ対象を識別する方法(包括ヘッジ)も認められます。企業は個別ヘッジによるか包括ヘッジによるかを事前に明示する必要があります。

  • 個別ヘッジ:1つのヘッジ対象に対し、1つのヘッジ手段を対応させる(1対1で対応させる)。
  • 包括ヘッジ:複数のヘッジ対象に対し、1つのヘッジ手段を対応させる。

Ⅳ ヘッジ取引開始時以降の適用要件(事後テスト)

1. ヘッジ有効性の継続的な評価

企業は指定したヘッジ対象とヘッジ手段の関係について、ヘッジ取引以後も継続して、高い有効性が保たれていることを確かめなければなりません。すなわち、ヘッジ対象の相場変動またはキャッシュ・フロー変動が、ヘッジ手段によって、高い水準で相殺されているかどうかをテストしなければなりません。ヘッジの有効性の評価は、決算日に加え、少なくとも6カ月に1回程度は行う必要があります。

2. ヘッジ有効性の判定基準

ヘッジ有効性の判定は、原則として、ヘッジ開始時からヘッジ有効性判定時点までの期間において、ヘッジ対象の相場変動額(またはキャッシュ・フロー変動額)の累計とヘッジ手段の相場変動額(またはキャッシュ・フロー変動)の累計とを比較し、両者の変動額の比率がおおむね80%から125%までの範囲内にあれば、ヘッジ対象とヘッジ手段の間に高い相関関係があると認められます(<図1>参照)。

図1 相場変動のヘッジ

※ 包括ヘッジの要件:ヘッジ対象となる資産または負債について、リスク要因(例:金利変動リスク、為替変動リスク)が共通しており、かつ、リスクに対する反応がほぼ同じである場合(満期日が同じ場合など)に、認められる。


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