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EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 前田 和哉
品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事している。
2022年6月に公表された金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(以下、DWG報告)において、四半期開示は、コスト削減や開示の効率化の観点から、金融商品取引法の四半期報告書(第1・第3四半期)と取引所規則に基づく四半期決算短信を「一本化」する方向性が示されていました。22年12月に公表されたDWG報告では、「一本化」の具体化に向けた論点を検討し、その方向性について提言が行われています。
本稿では、四半期開示の見直しに関する論点とその方向性に関する提言の内容について解説します。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。
四半期開示は、中長期の経営戦略の進捗状況を確認する上で有用と考えられているものの、欧州での四半期開示義務の廃止や企業の事務負担を踏まえると、取引所の規則に基づく積極的な適時開示によって、期中に充実した情報が適時に提供される環境が確立できれば、必ずしも一律に四半期開示を求める必要はないという考え方があります。しかし、適時開示が期待通りに行われていないといった指摘等が聞かれるような日本企業の開示の現状を踏まえると、四半期決算短信の任意化は開示の後退と受け取られ、日本市場全体の評価が低下する懸念等があります。そこで、当面は、四半期決算短信を一律義務付けることが提言されています。
なお、今後の適時開示の充実や企業の開示姿勢の変化、適時開示と定期開示の性質上の相違に関する意見を踏まえ、幅広い観点から将来的な四半期開示の任意化を継続的に検討していくことも提言されています。
前記の通り、四半期開示の任意化を検討する前提として、適時開示の充実が重要な考慮要素とされています。企業の積極的な適時開示を促すためには、取引所における好事例の公表やエンフォースメント※1の強化、適時開示ルールの細則主義から原則主義への見直し、包括条項における軽微基準の見直しを継続的に検討することが提言されています。
将来的に、重要な適時開示事項を臨時報告書の提出事由とすることも考えられるとしつつ、対象が過度に広がり企業の負担増加となる懸念があることから、具体化する際には、重要な適時開示事項の範囲や、将来情報が含まれる場合の取扱いについて検討していく必要があることも提言されています。
現行の四半期決算短信は、四半期報告書が開示されることを前提に、速報性の確保と企業負担への配慮から経営成績等の定性的な情報の開示要請を取りやめる等、開示内容が簡素化されてきた経緯があります。
「一本化」後の四半期決算短信について、現行の開示内容のままでは投資判断に必要な情報が十分に提供されない恐れがあります。情報が追加されることによって四半期決算短信の開示が遅れる懸念があるものの、現状の四半期報告書と同じタイミングであれば許容可能という意見も聞かれています。
今回の見直しが情報開示の後退と受け取られないようにするため、速報性を確保しつつ、投資家の要望が特に強いセグメント情報、キャッシュ・フローの情報等の事項について、従来の四半期決算短信の開示内容に追加する方向で、取引所において具体的に検討を進めることが提言されています。
なお、四半期報告書において、直近の有価証券報告書の記載内容から重要な変更があった場合に開示が求められてきた事項については、有価証券報告書の記載事項であることを踏まえると、同じ金融商品取引法上の報告書である臨時報告書の提出事由とすることが考えられるといった提言が行われています。
「一本化」後の四半期決算短信も、財務情報の信頼性の確保、虚偽記載の早期発見、虚偽記載の動機抑止等の観点から、監査人によるレビューの義務付けを求めるべきという意見があります。しかし、半期報告書※2と年度の有価証券報告書に対して監査人によるレビューや監査を行うことで財務情報の信頼性を確保していくことや、取引所規則でプライム市場上場企業に四半期開示を求めているドイツにおいても監査人によるレビューは義務付けられていないことを踏まえ、四半期決算短信については監査人によるレビューを一律には義務付けないことが考えられると提言されています。
ただし、監査人によるレビューを任意で受けることは妨げないとされ、また投資家への情報開示の観点からレビューの有無を四半期決算短信に開示することが提言されています。
加えて、会計不正が起こった場合や内部統制の不備が判明した場合、取引所規則により一定期間、監査人によるレビューを義務付けることが考えられ、その要件や期間については、取引所において具体的に検討を進めることが期待されると提言されています。
第1・第3四半期報告書廃止後、半期報告書及び有価証券報告書において法令上のエンフォースメント※3が維持されることから、現時点では「一本化」後の四半期決算短信の虚偽記載に対するエンフォースメントは不要と提言されています。なお、四半期決算短信を含む、取引所の適時開示について、意図的で悪質な虚偽記載が行われた場合には、現行でも金融商品取引法上の罰則の対象になると考えられます。
上場企業の半期報告書については、現行と同様、第2四半期報告書と同程度の記載内容と監査人のレビューを求め、提出期限を決算後45日以内とすることが提言されています。なお、上場企業である銀行や保険会社等の半期報告書については、破綻処理制度等との関連も踏まえ、金融監督上の観点から、引き続き検討とされており、現行と同様の開示と中間監査が求められることになります。(<図1>参照)
「一本化」後の四半期決算短信や半期報告書に適用する会計基準や監査基準については、金融庁、企業会計基準委員会、日本公認会計士協会などの関係者において、今回の見直しに伴う必要な対応を行うことが提言されています。
また、四半期報告書の廃止に伴い、半期報告書及び臨時報告書の法定開示上の重要性が高まることに加え、特に臨時報告書は、今後、適時開示情報の信頼性の確保の役割をよりいっそう担っていくことが期待されます。これらを踏まえ、半期報告書及び臨時報告書の公衆縦覧期間については、金融商品取引法を改正し、有価証券報告書の公衆縦覧期間及び課徴金の除斥期間である5年へ延長することが提言されています。
今回のDWG報告では、四半期開示制度の見直しについて、方向性が示されたにすぎず、新たな制度の具体的な内容や制度移行時期については、金融庁、企業会計基準委員会、日本公認会計士協会などの関係者の議論を注視する必要があります。
※1 取引所の上場制度における「実効性確保措置」をいう。
※2 金融商品取引法において、第1・第3四半期報告書を廃止した後、上場企業では開示義務が残る第2四半期報告書を半期報告書として提出することになる。
※3 金融商品取引法197条の2第6号等で定めに基づき、虚偽記載について民刑事の責任や課徴金などを課すことをいう。
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