分配可能額の算定

分配可能額の算定


情報センサー2023年11月 企業会計ナビダイジェスト

EY新日本有限責任監査法人 企業会計ナビチーム 公認会計士 佐藤 範和

海運業、医薬品等製造業、電気機器製造業の監査業務に携わったのち、国内大手不動産業や電気機械製造業の会計アドバイザリー業務(日本基準・IFRS)、日本基準における「リースに関する会計基準」(案)導入支援業務に従事。その傍ら、法人ウェブサイト(企業会計ナビ)のメンバーとして会計情報の発信の他、書籍の執筆活動も行っている。


今回は「解説シリーズ『会社法』第7回:分配可能額の算定」を紹介します。

Ⅰ はじめに

 

会社法では、株主に対する金銭等の分配および自己株式の有償取得を合わせて剰余金の配当等とし、統一的に財源規制をかけるものとされています(会社法461条)。これに伴い、剰余金の分配可能額の算定方法も明確にされています。

 

Ⅱ 分配可能額の算定方法

 

分配可能額の算定は、3ステップを踏むことになります。

分配可能額の算定の流れ

1. 決算日における剰余金の額の算定

2. 決算日以降分配時点までの剰余金の増減を反映させ、分配時点の剰余金の額を算定(分配時点における剰余金の算定)

3. 分配時点の剰余金の額から自己株式の帳簿価額等を差し引いて分配可能額を算定(分配可能額の算定)

イメージは<図1>のとおりとなります。

図1 分配可能額の算定の流れ

図1 分配可能額の算定の流れ

ステップ1.~3.について、それぞれ解説します。
 

1. 決算日における剰余金の額の算定

決算日における剰余金の額の算定については、会社法446条第1号において次のとおりとされています。

決算日における剰余金の額=(イ)資産の額+(ロ)自己株式の帳簿価額の合計額-(ハ)負債の額-(ニ)資本金・準備金-(ホ)法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額

決算日における剰余金の額は、資産の額に自己株式の帳簿価額を加え、負債の額と資本金および準備金の額、その他法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額を控除することにより算定されます。

その他法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額は会社計算規則(以下、計規)149条で規定されています。その内容は<図2>のコメントに記載のとおりです。

これらを計算すると結果的にその他資本剰余金の額およびその他利益剰余金の額の合計額が剰余金の額として残ることとなります。

図2 決算日における剰余金の額の算定

図2 決算日における剰余金の額の算定

2. 分配時点における剰余金の額の算定

次に、分配時点の剰余金の額を算定します(会社法446条2~7号)。算定式は次のとおりとなります。

分配時点における剰余金の額=①決算日における剰余金の額+②最終事業年度末日後の自己株式処分損益+③最終事業年度末日後の減資差益+④最終事業年度末日後の準備金減少差益-⑤最終事業年度末日後の自己株式消却額-⑥最終事業年度末日後の剰余金の配当額-⑦法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額

会社法では期中の剰余金の変動を随時反映させるために、期中の変動要因として、最終事業年度の末日後の自己株式の処分損益、資本金・準備金の減少、自己株式の消却額、剰余金の配当、その他法務省令で定める額が加減されます。

その他法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額は、計規150条で規定されています。その内容は<図3>の※に記載のとおりです。

図3 分配時点における剰余金の額の算定

図3 分配時点における剰余金の額の算定
※ 計規150条に定める事項

次の項目に該当があれば調整します。

(1) 最終事業年度末日後の剰余金から資本金の額又は準備金の額への振替額
(2) 最終事業年度末日後に剰余金の配当を実施した場合の準備金積立額
(3) 最終事業年度末日後に吸収型再編行為を実施した場合に処分する自己株式の処分差額
(4) 最終事業年度末日後に吸収分割又は新設分割を実施し剰余金の額を減少した場合の当該剰余金減少額
(5) 最終事業年度末日後に吸収型再編受入行為を実施した場合のその他資本剰余金およびその他利益剰余金の増減額


3. 分配可能額の算定

最後に分配可能額を計算します。算定式は次のとおりとなります(会社法461条第2項)。

分配可能額=①分配時点における剰余金の額-②分配時点の自己株式の帳簿価額-③事業年度末日後に自己株式を処分した場合の処分対価-④その他法務省令で定める額

分配時点での自己株式の保有状況等を反映させるため、分配時点の剰余金の額から分配時点における自己株式の帳簿価額と、最終事業年度末日後に自己株式を処分した場合の処分価額その他法務省令で定める額を減じて分配可能額を算定します。

その他法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額は、計規158条で規定されています。その内容は<図4>の※に記載のとおりです。

図4 分配可能額の算定

図4 分配可能額の算定
※ 計規158条に定める事項

次の項目に該当があれば調整します。

(1) 最終事業年度の末日におけるのれん等調整額
Ⅲ 1.を参照ください。
(2) 最終事業年度の末日における貸借対照表のその他有価証券評価差損
Ⅲ 2.を参照ください。
(3) 最終事業年度の末日における貸借対照表の土地再評価差損
Ⅲ 2.を参照ください。
(4) 株式会社が連結配当規制適用会社であるときの連結配当規制控除額
(5) 2回以上臨時計算書類(株主総会承認済)を作成した場合の直前臨時決算年度以外の臨時損益計算書の損益計算書に計上された純利益等
(6) 剰余金の配当後に純資産が3百万円を下回る場合の資本金および準備金等の調整額
(7) 臨時決算期間中の吸収型再編受入行為又は特定募集に際して処分する自己株式の対価の額
(8) 最終事業年度の末日後に不公正発行に伴う支払義務の履行により増加したその他資本剰余金の額および最終事業年度がない株式会社が成立の日後に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
(9) 最終事業年度末日後に株式会社が自己株式を取得対価として該株式会社の株式を取得した場合における、当該取得した株式の帳簿価額から当該取得した株式の株主に交付する自己株式以外の財産の帳簿価額を減じた額
(10) 最終事業年度の末日後の吸収型再編受入行為又は特定募集に際して処分する自己株式の処分対価の額

分配時点の剰余金の額の算定においては、いったん自己株式の処分差損益を反映させました(2.参照)が、分配可能額の算定においては、剰余金の額から自己株式の帳簿価額および自己株式の処分価額を差し引くことにより、分配可能額の算定には自己株式の処分差損益を反映させないことに留意が必要です。

また、分配時における剰余金には、最終事業年度の末日から分配時点までの期間損益は含まれません。しかし、臨時計算書類(会社法441条1項)を作成し、株主総会等で承認を受けた場合は、臨時決算日の属する事業年度の初日から臨時決算日までの期間における利益とその期間における自己株式の処分対価を分配可能額に加算することができます(会社法461条2項2号)。

 

Ⅲ その他の配当規制

1. のれん等調整額

資産の部にのれんが計上されている場合には、のれんに2分の1を乗じた額と繰延資産の合計額(以下、のれん等調整額)と、資本金、準備金およびその他資本剰余金との大小関係によりそれぞれのケースに応じて控除額が算定されます(計規158条1号)。

のれんを計上している会社は、毎期上記金額を算定し、配当規制への該当の有無に留意する必要があります。

【前提】

のれん等調整額=のれん(資産の部)×1/2+繰延資産

資本等金額=資本金の額+準備金の額

ケース

処理

のれん等調整額
≦資本等金額の場合(計規158条1号イ)

控除額はゼロ

資本等の金額
 <のれん等調整額
  ≦(資本等金額+その他資本剰余金)の場合
(計規158条1号ロ)

(のれん等調整額-資本等金額)を控除

(資本等金額+その他資本剰余金)<のれん等調整額の場合

(のれんの金額×1/2)
 ≦(資本等金額+その他資本剰余金)の場合
(計規158条1号ハ(1)

(のれん等調整額-資本等金額)を控除

(のれんの金額×1/2)
 >(資本等金額+その他資本剰余金)の場合
(計規158条1号ハ(2))

(その他資本剰余金+繰延資産)を控除

2. その他有価証券評価差額金および土地再評価差額金

その他有価証券評価差額金および土地再評価差額金は、プラス残高(評価差益)である場合には分配可能額に含まれませんが、マイナス残高(評価差損)である場合には分配可能額から控除します(計規158条2号、3号)。これらの評価差額金は損益に計上されておらず、剰余金を構成するものではありませんが、マイナス残高については会社の財産の減少を示すものであるため、分配可能額から控除すべきものと定められていると考えられます。


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