ニュースリリース
2024年7月29日  | Tokyo, JP

EY Japan、日本のツーリズム産業成長に向けオーバーツーリズムを考察

プレス窓口

  • 多くの住民は、観光客の増加は豊かな生活を送る上で必要だとポジティブに捉えている傾向
  • オーバーツーリズムとして住民がネガティブに捉えるきっかけは、「日常生活」へのサービス低下
  • ツーリズムによる経済成長は、観光地のマネジメントがきちんとなされない限りもろ刃の剣であり、地域のステークホルダーが「自分ごと」として問題を捉え、向き合うことが重要

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社(東京都千代田区、代表取締役社長:近藤 聡、以下EYSC)は本日、海外でのオーバーツーリズム対策事例、および、オーバーツーリズムが生じていると思われる日本の10都市1,860名の住民を対象としたアンケート調査結果などをまとめたレポート「日本経済をけん引するツーリズム産業への成長に向けて」を発行しました。本レポートでは、今後日本がオーバーツーリズムを解消しツーリズム産業を成長させる上で、経済成長と地域住民との共生を両立させる観光マネジメントの重要性を唱えています。

本レポートでは、海外で行われているオーバーツーリズム対策の3つの方向性である ①入場料等への料金の上乗せ、②宿泊施設数やクルーズの寄港の制限、③事前予約制度についてまとめています。

また、2019年と比較して宿泊者数の増加率が高い地域を10都市選び、各都市約200名の住民にオンラインによるアンケートを実施しました。その結果、居住地域に観光客が訪れている現状に対して「もっと多くの観光客が来てもよい」「観光客が来ている現状をよいことだと思っている」と回答した人は全体の41%、「観光客の数に関心がない、特に気にならない」という回答も合わせると72%となりました。「観光客の多い現状をあまりよくないことだと思っている」「観光客はもっと少ない方がいい」「観光客は来ないほうがいい」と回答した人の合計28%と比較して、現在の状況を肯定的に捉える人が非常に多いことがわかりました。

観光客の多い現状がもたらす良い影響については、「明確な理由はないが、なんとなくうれしい」「地域全体の景気が良くなった、お金が流れるようになった」「新しいお店が増え、選択肢が広がった」が上位となりました。一方で、悪い影響については「観光客のマナー違反(ポイ捨て、食べ歩き、道路の危険な横断等)」「バスや電車などの公共交通や道路が混雑して使いづらくなった」「観光地・施設やその周辺が混雑しており、住民が使いづらい」が上位でした。

特に、観光客が多く地域に来ることで、オーバーツーリズムと感じるかという問いに対し、「とても強く感じる」、「一部の地域で強く感じる」、「やや感じる」、「一部の地域でやや感じる」と回答された“オーバーツーリズムを感じている人”の回答に限定すると、良い影響の1位が「地域全体の景気が良くなった、お金が流れるようになった」、悪い影響の1位が「バスや電車などの公共交通や道路が混雑して使いづらくなった」となりました。「観光客のマナー違反(ポイ捨て、食べ歩き、道路の危険な横断等)」(2位)に次いで、悪い影響の3位は「市民向けのサービスが後回しになるなど、公共サービスが劣化した」であり、交通サービスや公共サービスなど日常生活へのサービス低下が観光客増加を否定的に捉えるきっかけと考えられます。

さらに今後、日本でのオーバーツーリズムを解消し、ツーリズム産業の成長と地域やコミュニティの健全な発展を両立させるため、DMO(Destination Management Organization:観光地域づくり法人)などを中心とした観光マネジメントの在り方を考察しています。

本分析を担当したEYSC ストラテジック インパクト パートナー 平林 知高のコメント:
「訪日外国人が4カ月連続で単月300万人を超える等、ツーリズム市場は活況を呈しています。訪日外国人消費額も2024年は8兆円に上るともいわれ、文字通り、重要な産業となりつつあります。一方で、訪日外国人の増加は、地域住民の生活を脅かす存在にもなり、いわゆるオーバーツーリズムの問題にもつながります。今回の調査で、ツーリズムを通じた経済的な恩恵がきちんと住民に伝わること、「日常生活」に支障が出ないような施策を実施することが、ツーリズムを通じた経済成長には重要であることが明らかになりました。ツーリズムを通じて地域全体が豊かになるために、各ステークホルダー間で議論の上、合意形成を図る観光地マネジメントが今後より一層重要度が増していきます」


以下は、本レポートの概要です。

世界のオーバーツーリズム対策の現状

オーバーツーリズムの対策としては「数をコントロール」するために、大きく3つの方向性が試行されています。1つ目は、ベネチアでの入場料の徴収や日本での二重価格の設定のように金銭的な上乗せを設定することで、観光客の行動を抑止しようとする動きが挙げられます。2つ目は、アムステルダムやバルセロナ等での宿泊施設数の上限設定や廃止、港への寄港を制限する等、物理的に滞在することを制限するための措置です。3つ目が、スペインのバルセロナにおけるサグラダ・ファミリアや米国の国立公園における事前予約制度導入による入場者制限を設けることで、過密状態を避ける措置になります。

オーバーツーリズム対策

事前予約システムは、地元事業者の機会損失をもたらし廃止となり、ホテルの新規建設制限やShort Term Rentals(民泊)の廃止や制限は、需給バランスが崩れることによる宿泊価格の高騰などにつながり、結果的に意図しない数の観光客の減少を招く可能性も否定できません。
施策に当たっては、地域事業者と地域、住民が対話し、しっかりと合意形成を図るコミュニケーションの場を設けることが重要であり、それなしではいくら施策を実行しても、対立を抱えた状態が続いてしまいます。

住民の理解を得るための現状調査

本レポートでは、オーバーツーリズムが起きていそうな地域を特定するために、コロナ禍前の2019年と比べて、
① 観光客の増加という観点で、宿泊者数の増加率
② より観光客が住民の生活に影響を及ぼす可能性を考慮して、人口1人当たりに占める宿泊者数の増加率
③ 働き手の逼迫(ひっぱく)状況という観点で、宿泊・飲食サービス業従事者1人当たりに占める宿泊者数の増加率
の3つの観点で、国内上位20の地域を抽出。
この上位20地域のうち、3つのカテゴリーすべてに該当する地域を優先としつつ、調査会社が各地域で200人以上のサンプルを回収できる都市、東京の一部都市を除く等の条件により、以下の10地域を抽出(黄色のハイライト地域)し、ランダムにアンケート調査を実施しました。

住民の理解を得るための現状調査
オンラインサーベイ概要

実施期間: 2024年6月下旬
方法: 調査会社によるWebアンケート
対象: 以下10都市在住の男女 各都市200名
(ただし、岐阜県郡上市、島根県浜田市は200名を下回る)    
北海道旭川市、栃木県那須塩原市、東京都台東区、静岡県静岡市、岐阜県郡上市、
京都府京都市、奈良県奈良市、島根県浜田市、島根県出雲市、広島県廿日市市

1) オーバーツーリズムに対する住民の意識
アンケート結果では、自分の居住する地域に多くの観光客が来ることについて、ポジティブに捉えている人が約4割、特に気にならないという意見を含めると約7割が特にネガティブに捉えているわけではないという状況になっています。また、観光・ツーリズムが自分の住んでいる地域の住民が豊かな生活を送るために重要な役割を果たしているかを聞いてみると、6割弱がポジティブな意見を持っており、ネガティブな意見は15%程度と低い状況が確認できました。

観光客が多く地域に来ることで、オーバーツーリズムと感じるかという問いに関しては、オーバーツーリズムと「とても強く感じる」と「一部の地域で強く感じる」が約2割、「やや感じる」と「一部の地域でやや感じる」が約3割という結果になりました。また、オーバーツーリズムを感じている5割の住民の地域別の割合は、京都市が最も高く、次いで浅草が代表的な台東区、奈良市、宮島のある広島県廿日市市の順となっており、一定程度観光客が急激に増加している地域の中でもこれら地域は、より多くの住民がオーバーツーリズムを感じていることがわかります。

オーバーツーリズムを感じる理由としては、外国人観光客の増加が一番の理由で全体の6割弱、日本人・外国人の双方の増加によると回答した割合は2割超24%となっており、外国人の増加がオーバーツーリズムを感じる大きなきっかけとなっていることが確認できます。

2) ツーリズムが住民に与えるプラスとマイナスの影響とは何か

  • プラスの影響
    アンケート調査により、オーバーツーリズムと感じていても、豊かな生活を送るために観光・ツーリズムが重要な役割を担っているとポジティブに感じている住民が約6割いることが確認されました。また、観光・ツーリズムの成長により、「景気が良くなったという経済的実感」のほか、「自分の地域の魅力を新たに再発見」するような影響を感じていて、現時点では、観光・ツーリズムは住民にとっては豊かな生活を送る上で、まだポジティブに捉えていると言えます。

  • マイナスの影響
    1番の影響は「マナー違反」となっています。次いで、「バスや電車などの公共交通や、道路が混雑して使いづらくなった」という交通の問題、「観光地・施設やその周辺が混雑しており、住民が使いづらい」等アクセス環境の悪化が大きな要因として挙げられています。
    オーバーツーリズムと感じている人が「マナー違反」よりも、自らの日常生活に影響する「公共交通へのアクセスの悪化」を1番の課題に挙げていること、そして観光客への対応に注力するあまり、「市民向けのサービスが後回しになるなど、公共サービスが劣化した」という問題を強く感じていることが確認されました。オーバーツーリズムとして、観光・ツーリズムをネガティブに捉え始めるきっかけは、こうした「日常生活」へのサービス低下が影響していると考えられます。

ツーリズムを日本の経済成長のエンジンとするための考察

ツーリズムによる経済成長は、観光地のマネジメントがきちんとなされない限り、もろ刃の剣となります。単に一部の事業者が利益を得るような構造では、住民が経済的恩恵を実感することはないでしょう。地域に経済的恩恵が還元されるような仕組みづくりが、必要不可欠です。そして、この観光地のマネジメントこそ、DMO(Destination Management Organization:観光地域づくり法人)に求められている役割であり、世界の観光地でもDMOが主導的な役割を果たしています。オーバーツーリズム解消に向けては、DMOを中心としつつ、観光客を含めたあらゆるステークホルダーが「自分ごと」として課題を捉え、取り組んでいく観光地マネジメントが重要です。

オーバーツーリズム解消に向けて必要なアプローチ

EYについて

EY  |  Building a better working world
EYは、「Building a better working world~より良い社会の構築を目指して」をパーパス(存在意義)としています。クライアント、人々、そして社会のために長期的価値を創出し、資本市場における信頼の構築に貢献します。
150カ国以上に展開するEYのチームは、データとテクノロジーの実現により信頼を提供し、クライアントの成長、変革および事業を支援します。
アシュアランス、コンサルティング、法務、ストラテジー、税務およびトランザクションの全サービスを通して、世界が直面する複雑な問題に対し優れた課題提起(better question)をすることで、新たな解決策を導きます。
EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。EYによる個人情報の取得・利用の方法や、データ保護に関する法令により個人情報の主体が有する権利については、
ey.com/privacy をご確認ください。EYのメンバーファームは、現地の法令により禁止されている場合、法務サービスを提供することはありません。EYについて詳しくは、ey.com をご覧ください。

EYストラテジー・アンド・トランザクションについて

EYストラテジー・アンド・トランザクションは、クライアントと共に、そのエコシステムの再認識、事業ポートフォリオの再構築、より良い未来に向けた変革の実施を支援し、この複雑な時代を乗り切る舵取りを支えます。グローバルレベルのネットワークと規模を有するEYストラテジー・アンド・トランザクションは、クライアントの企業戦略、キャピタル戦略、トランザクション戦略、ターンアラウンド戦略の推進から実行までサポートし、あらゆるマーケット環境における迅速な価値創出、クロスボーダーのキャピタルフローを支え、マーケットに新たな商品とイノベーションをもたらす活動を支援します。EYストラテジー・アンド・トランザクションは、クライアントが長期的価値をはぐくみ、より良い社会を構築することに貢献します。詳しくは、ey.com/ja_jp/strategy-transactionsをご覧ください。

EYのコンサルティングサービスについて

EYのコンサルティングサービスは、人、テクノロジー、イノベーションの力でビジネスを変革し、より良い社会を構築していきます。私たちは、変革、すなわちトランスフォーメーションの領域で世界トップクラスのコンサルタントになることを目指しています。7万人を超えるEYのコンサルタントは、その多様性とスキルを生かして、人を中心に据え(humans@center)、迅速にテクノロジーを実用化し(technology@speed)、大規模にイノベーションを推進し(innovation@scale)、クライアントのトランスフォーメーションを支援します。これらの変革を推進することにより、人、クライアント、社会にとっての長期的価値を創造していきます。詳しくはey.com/ja_jp/consultingをご覧ください。
 

本件に関するお問い合わせ

EY Japan BMC (Brand, Marketing and Communications)