ウェルビーイング経営支援サービス(Well-being as a Strategic Driver)

「ウェルビーイング」は、いまや個人の幸福を超え、組織の持続的な競争力を左右するテーマとして注目されています。多くの企業や自治体がその重要性を認識し、経営や事業に取り入れようとしていますが、抽象的な概念であるが故に、「どのように実践すればよいのか」「経営課題とどう結びつけるのか」といった声も少なくありません。EYは、ウェルビーイングを経営の言葉に変え、組織と事業の中に戦略的に実装する支援を提供します。


1. EYが考えるウェルビーイング経営とは

一般に「ウェルビーイング」は、人が心身ともに健やかに、社会の中でよりよく生きる状態を指す概念として認知されています。これまで主に個人の幸福や健康を中心に語られてきましたが、いまや組織や社会の持続的成長とどう結びつけるかが問われています。

EYは、この問いに対し、ウェルビーイングを単なる理念や人事施策にとどめず、経営における「戦略的な投資領域」として捉えます。

その上で、EYが定義するウェルビーイング経営とは、ウェルビーイングを経営の軸の一つとして扱い、「ウェルな状態」に向けた戦略的な投資と、そのマネジメントを行っていくことです。

ここで言う「経営の軸の一つとして扱う」とは、例えば次のようなことを指します。

レベル取り組みの方向性
パーパス・ビジョン・戦略「どんな人・組織・社会のウェルビーイングを大切にするのか」を明確にし、中長期の方向性や重点テーマに織り込む。
投資・制度設計働き方・マネジメント・事業/サービスへの投資判断に、あらかじめウェルビーイングの観点を組み込む。
マネジメント財務・事業指標とあわせて、ウェルビーイング指標やサーベイ結果を継続的にモニタリングし、組織・職場などの状態を改善するサイクルを回し続ける。

※人・組織・顧客・社会がそれぞれの目的に向かって、主観的にも健全で幸福な状態にあり、信頼・安全・自己決定といった基盤が保たれている状態。また、それが環境変化やプレッシャーにより一時的に損なわれても、自ら修復し再生できる力を備えている状態。
 

2. ウェルビーイング経営の投資領域とは

そもそも、企業や自治体が「ウェルビーイングに取り組む」――あるいは一歩進めて「投資する」とは、どういうことでしょうか。

それは、従業員・職員の働く環境を整えることかもしれませんし、事業や行政サービスを通じて社会課題の解決に挑むことかもしれません。

当然ながら、組織によって課題も、優先すべき施策も異なります。

だからこそ、まず「なぜウェルビーイングに注目するのか」を明確にすること。そして、「何を解決し、どこに投資するのか」を定めること。この2つが、ウェルビーイング経営の第一歩になります。

ウェルビーイングへの投資は、いくつかの軸で整理することができます。

ここでは、特に理解しやすい2つの観点を紹介します。

ウェルビーイング投資を整理する2つの軸

1つ目の軸は「ウェルビーイング投資の向け先」です。

投資が主に向けられている先が、従業員や組織といった内部なのか、それとも顧客や地域・社会といった外部なのか。

2つ目の軸は「ウェルビーイングの位置づけ」です。

健康や安全、信頼といった基盤的価値(Foundation)として位置づけるのか、あるいは価値創出や変革につながる差別化要素(Differentiator)として位置づけるのか。

こうした軸を掛け合わせることで、ウェルビーイング経営における投資領域を、4つの象限として捉えることができます。

図:ウェルビーイング経営の4象限整理

図:ウェルビーイング経営の4象限整理
出典元: EY作成

このフレームは、4象限すべてを満たすことを目的とするものではありません。

ウェルビーイング経営の多様な在り方を整理し、組織にとって本質的に重要な領域を見極めるための思考の枠組みとして活用することを意図しています。
 

3. ウェルビーイング経営の基本アプローチ

ウェルビーイング経営の実践には、意義・目的を定義し、投資を設計し、マネジメントを通じて定着させる一連のプロセスが欠かせません。

EYは、このプロセスを 「Define / Invest / Manage」 の3つのステップで支援します。

  1. Define:定義し、意味づける
    ワークショップや現状分析を通じて、組織文脈におけるウェルビーイングの意義と課題を明確化します。
    「Why Well-being?」を高い解像度で定義し、「なぜ今、ウェルビーイングなのか」「何を変えようとしているのか」というストーリーを描くことで、内的動機(共感・納得)と外的動機(事業・社会課題の克服)を結びつけます。
    その上で、事業価値との接点を明確にし、投資の方向性を定めます。

  2. Invest:投資する
    Defineで明らかにした目的と目指す姿に基づき、どの領域に、どのようなリソース(人・時間・資金・経営アテンション)を配分するのかという方針を設計します。
    投資効果は、短期的な経済収益(ROI=Return on Investment)だけでなく、長期的価値創出(VOI=Value on Investment)の観点でも可視化します。
    その上で、経営トップが投資の意義と優先順位を明確化し、経営判断としてコミットメントを示すことが求められます。

  3. Manage:推進する
    投資がアウトプットやアウトカムにつながるよう、効果測定の設計と推進体制を構築します。
    一例としては「ウェルビーイングチャンピオン制度」などの仕組みを通じて成果を最大化するとともに、従業員・組織・職場環境に定着させる施策をデザインします。
    また、「ウェルビーイング測定」や「ダッシュボード」などによる可視化、社会や顧客との共創プロジェクトなどを通じて、内外の循環を生み出します。

4. ウェルビーイングの経営リターンとは

ウェルビーイング経営を「戦略的投資」と捉えたとき、その具体的なリターンは何か? それは、「持続可能性(サステナビリティ)」と「価値創造(イノベーション)」という2つの言葉に集約されます。

リターン1)サステナビリティの基盤構築

現代は、BANI——すなわち、システムが「Brittle(脆弱<ぜいじゃく>性)」を露呈し、人々が「Anxious(不安)」を抱え、物事が「Non-linear(非線形)」に変化し、全体像が「Incomprehensible(理解不能)」となる時代です。このような環境下では、組織のサステナビリティが常に試され続けています。

外部環境の変化に対し、組織が健全性を維持・修復できる力(レジリエンス)の中核は「従業員・職員がウェルであること」です。もし組織が「ウェルではない状態」に陥ると、このレジリエンスの基盤が崩れ、急激な機能不全や事業継続性の喪失といった重大リスクが顕在化します。

  1. 心身の疲弊による、品質・安全の毀損(きそん):過剰なノルマや長時間労働で現場が疲弊しきっている状態は、重大な品質事故や安全トラブルの温床となります。
  2. 心理的安全性の欠如(声を上げにくい状態):「言っても変わらない」という諦めや、短期的な数字が優先される風土は、不正や隠ぺいを誘発します。
  3. 信頼の欠如による、組織の崩壊:従業員が組織の安全や判断を信頼できない状態は、組織全体のパフォーマンスを低下させ、内部から崩壊するリスクを高めます。

「ウェルな状態」への投資は、こうしたリスクを個人の「意識」や「モラル」の問題として片付けず、「構造」として起こりにくくするためのサステナビリティ投資だと言えます。

リターン2)イノベーションの土壌形成

サステナビリティが、組織の存続に関わる「守り」の経営リターンだとすれば、イノベーションは、未来の価値を創出する「攻め」の経営リターンです。

イノベーションは、指示と命令に基づくオペレーションの延長や「頑張れ」といった精神論からは生まれません。その創出には、ウェルビーイングと深く関連する3つの条件が必要です。

  1. アイデアの方向性:組織のパーパスが明確であると同時に、「その中で自分がどう強みを発揮すべきか」という個人の役割意識が明確であること。
  2. アイデアの種:従業員が日々のオペレーションに忙殺されるのではなく、意図的に確保された「余白」の中で「深い集中状態」(ゾーン)に入り、新たなアイデアの種を生み出せること。
  3. アイデアが育つ環境:生まれた種が個人にとどまらず、個と個の知見が深く「交わる」ことを通じて磨かれること。そのために、部門や立場を超えた対話を促し、失敗を許容する環境(心理的安全性や信頼)が存在すること。

「ウェルな状態」(健全に機能し、信頼・安全・自己決定といった基盤が保たれている状態)への投資は、従業員一人ひとりの創造性を解き放ち、こうしたイノベーションの土壌を形成する、「攻め」の経営リターンそのものであると言えます。
 

5 ウェルビーイングを経営で語るときに陥りがちな誤解

ウェルビーイング経営が注目を集める一方で、その本質を捉えきれず、表層的な施策や理念的メッセージにとどまってしまうケースも少なくありません。

典型的な誤解と、それを乗り越えるための視点をご紹介します。

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