EYの事例

AIによる変革をてこに、あるヘルスケア検査企業はどのようにして結果を出したのか

大手ヘルスケア検査企業がAIと自動化で切り開いた、患者検査診断プロセスを高速化した手法とは



EY Japanの視点 

本事例では、パンデミックという想定外の外部要因が変革を生み出す「きっかけ」となり、変革の阻害要因が端的に示されています。

近年多くの日本企業では、「サービスの継続性の保証」と「効率化」を両立し、リスクフリーな状態を目指す傾向が顕著です。しかし、不確実性を避け、確実な成功に過度にこだわるだけでは、結果を出せない局面も増えています。AIエージェントなどの先端技術を組み合わせ、現状の前提にとらわれない「非連続」な変化をオペレーションに取り入れるには、テクノロジーをどう位置付け、全社的な変革につなげていくべきかという問いに答える構想策定が鍵となります。

EYは、デジタル活用施策の推進、AI活用を加速するデジタル投資戦略や運営モデルの構築など多岐にわたるサービスを提供します。業務効率化を超え、新たなオペレーションを構築し、組織全体の生産性や顧客への価値提供を飛躍的に高めるためにクライアントをご支援します。


EY Japanの窓口

金子 直弘
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 デジタル・エンジニアリング パートナー


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The better the question

結果が求められる世界で、どのようにAIが医療検査を迅速化できるのか?

EYチームは、大手ヘルスケア検査企業と協力し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミック禍において、AIを駆使して医師・患者向けサービスの迅速化を推進しました。

COVID-19によるパンデミックが発生し、困難を極めた最初の年のことは、誰もが鮮明に覚えていることでしょう。世界各地で突如行われたロックダウン、ワクチン接種開始への期待、そしてその間に生じる不確実性の中で、検査やソーシャルディスタンス(社会的距離)などの行動ルールが人々の安全確保を支えました。医療従事者や医療体制にはかつてないほどの負荷がかかりましたが、関係者の懸命な働きにより、当時の困難な日々は次第に遠い記憶になりつつあります。

 

あるフォーチュン500企業が、診断検査の最前線で活躍していました。2020年から2021年にかけて、毎週、数百万人規模の患者や学生がCOVID-19検査を必要としていました。さらに同社は、がん、心血管疾患、神経疾患などの検査も継続して担っていました。検査待ち件数が急増し、結果を出すまでの期間を数週間から数日へと大幅に短縮する必要に迫られました。それにより、人々は検査結果を迅速に得て、治療に向けた準備を進めること、あるいは安心感を得て前向きに歩み出し、日常を取り戻すことが可能になります。

 

こうした危機的状況から、イノベーションが開花しました。このヘルスケア検査企業の経営陣は先進的な考えを持ち、過度な負担がかかる診断検査システムを人工知能(AI)やインテリジェント・オートメーションで改善できる可能性を見いだしたのです。もともと同社はAIを活用していましたが、この危機対応の中でさらに取り組みを加速させました。その結果、事務作業の自動化だけでなく、検体の分析、詳細検査の処理、検査結果の報告手順の簡素化など、AIの活用範囲を広げたいとの考えに至りました。

 

では、こうしたリーダーたちはどのようにして、しかも迅速に、目標を現実にすることができたのでしょうか?その答えは、優れたパートナーとの協働にありました。同社はEYと、そのエコシステムパートナーであり、AIソリューションを展開・拡張するインテリジェント・オートメーション・プラットフォームを提供するUiPathに支援を求めました。EYは、グローバル規模でUiPathを用いた自動化とAI分野で豊富な経験を持ち、Forrester WaveやIDC MarketScapeなどの業界アナリストによるランキングでは、AI・オートメーションサービス分野のグローバルリーダーとしての評価を継続的に獲得しています。

 

「COVID-19禍の中、またその後も、当ヘルスケア検査企業と私たちは協働し、AIと自動化による変革を通じて、全社で5,000万米ドル規模のコスト削減を実現できました」と、EYのArtificial Intelligence and Intelligent Automation LeaderであるRicardo Vilanovaは述べています。また、「パンデミックはほぼ過去のものとなっても、AIと自動化の取り組みの過程で導入されたイノベーションによって、今でも同社が業務にかける時間・コスト・労力を削減できています。それらはすべて、医療従事者を支援し、また大切な患者へのサービス提供を効率化するためでもあるのです」と言及しています。

ピペットからマイクロプレートに落ちる科学サンプルのしずく
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The better the answer

現在、そして未来へ続くAIの活用

EYとアライアンスパートナーのUiPathは、ヘルスケア検査企業が患者へより良いサービスを提供するために、データ共有、分析、検査プロセスを刷新する支援をしています。

EYと当ヘルスケア検査企業が最初の取り組みを開始した2020年当初、COVID-19の検査は人手に大きく依存していました。綿棒による検体採取、分析装置への検体投入、その他一連の手作業による検査業務に追われていました。EYのチームは、プロセス全体を精査した上で、AIでさらに自動化できる工程を特定しました。また、ボットや自動化されたコントロールタワーを導入することで、こうした手作業の一部を排除し、医師が検査結果を受領するまでの時間を短縮し、患者がより早く自身の検査結果を知ることができるようになると判断しました。

 

「パンデミック危機のさなか、EYのプロフェッショナルたちは、検査結果を特定の属性で分析したコホート別データが政策決定や隔離勧告の参考となるため、即時的なデータ共有の必要性を認識していました」と、EYのArtificial intelligence and Data LeaderであるJoshua Spencerは述べています。「EYのチームがデータ共有プラットフォームを構築し、調査研究の質を向上させ、ウイルス・疾患拡散に関する社会意識を高める支援をしました。これにより、医療従事者により多くの情報を周知でき、規制範囲内でデータの匿名化やマネタイズの機会を提供することにもつながりました。当時の関連データはホワイトハウスや米国疾病対策センター(CDC)でも使用され、ゲノム研究開発や政府の規制策定に役立つ情報を提供しました」と説明を加えています。

 

パンデミックが収束に向かう中、当ヘルスケア検査企業の経営陣は、AIが自社にもたらした即時的な効率化を実感し、さらにAI投資を強化したいと考えました。パンデミック下の経験を通じて、患者がより質の高い迅速なケアを求めていること、そしてAIと自動化が品質を損なわずに大規模展開できることが立証されたのです。こうして社会が2022年から2023年にかけてポスト・パンデミック期に移行する中、同社はAI変革の取り組みを患者検査業務の改善だけにとどめず、組織全体の効率化とコスト削減へと拡大する新たな目標を打ち出しました。これらの達成支援に当たり、EYは同社の経営陣とワークショップを実施し、AIと自動化による新たな活用機会を特定した結果、合計2,000万米ドル以上に相当するコスト削減が可能であると判断しました。

 

次の組織変革フェーズでは、1,000拠点以上ある患者支援センターにおけるテクノロジーのアップグレードに着手しました。UiPathのアライアンス支援を受けて、ボットが検査データプラットフォームに統合され、医師の承認のもとで検体の分析が可能になりました。在宅検査キットの処理は、新たなテクノロジーで高速化され、検査結果は患者専用Webサイトに自動配信されます。バックエンドを自動化し、定常的な注文処理とベンダー管理を最適化しました。ベンダーや配送業者用アプリケーションのデジタル化、電子注文プロセスの簡素化、そしてアカウント管理や請求サービスの高度化が実現しました。さらに、保険会社からの請求内容を読み取り・処理するためにAIが活用されました。

拠点以上ある患者支援センターは、AIと自動化によって効率よくサービスを提供しています。

患者にベストな顧客体験を提供するための継続的な取り組みの一環として、同社では現在、AIを活用して組織全体に対する患者の総合満足度を測定しています。患者が応答時間やサービスに対して不満を感じた場合、ボットが不満度を算出し、一定の基準値を超えた患者を自動判定します。そして、特定された対象者に特別なケアやサービスを提供することで将来の体験への期待値を高め、他の検査サービス機関への流出を防ぐよう努めています。

これまでに、EYが支援した同社内におけるAI変革の取り組みでは、15の機能分野にわたる75件の業務改革を通じて、400種類の自動化が導入されています。

医学研究者チームが次世代の疾患治療に取り組んでいる
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The better the world works

AIとともに創造するヘルスケアの未来

世界の医療システムに戦略的な影響をもたらす将来に向けて、リーダー企業は「責任あるAI」の開発を重視しています。

AIと自動化の取り組みは、2024年以降も検査ラボの運用、患者支援サービス、物流、調達、研究開発、コンプライアンス、法務の改善など社内全体へと拡大しています。これらの達成目標は以下の通りです。

  • 検査手法・テクノロジーにおけるイノベーションの推進
  • コールセンター業務(入電対応、振り分け)の自動化
  • 請求プロセスの最適化
  • 検査結果出力の高速化、患者向け説明項目の詳細化
  • ボットを活用した患者の体験向上、検査依頼など要望事項への対応
  • 患者ポータル用マスターデータ管理の改善、個人医療情報の保護
  • ベンダーおよび契約管理の手動プロセスを排除
  • AIおよび電子ファイルによる在庫管理、医薬品の廃棄・期限切れの回避

こうした事業目標を追求する中で、当ヘルスケア検査企業の経営陣には、医療をもっと個別ニーズに合わせてパーソナライズし、すべての人が利用しやすいものにできるはずだという信念があります。

同社の経営陣および業界有識者との対話を通じ、AIの創薬・臨床試験への活用により医療・政府機関への情報提供が迅速化され、ヘルスケア業界全体における重要な意思決定に貢献できる大きな可能性があると考えられています。

「当社の経営陣は、AIを責任ある形で導入することが、従業員、医療提供者、医師、病院、そして患者の皆さまが安心してその恩恵を受けられることにつながる(EY USを通じて)と考えています。当社はデータを保護し、これらのデータが公衆衛生政策にどう反映されているのかを可視化することにコミットしています」と、同社の取締役は述べています。「当社はデータを保護し、これらのデータが公衆衛生政策にどう反映されているのかを可視化することにコミットしています」

当社はデータを保護し、これらのデータが公衆衛生政策にどう反映されているのかを可視化することにコミットしています

同社のAI変革が完了すると、従業員の生産性を40%向上させ、さらに6,000万米ドル相当のコストを削減できることが期待されています。それにより生み出される余剰時間と資金は、同社が迅速かつ手頃な価格の診断検査を全ての人に提供するという使命のもと、約4,000万人の米国の方々に還元することができるのです。

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