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ポーランド政府は、炭素国境調整メカニズムの創設に関する規則(以下、「CBAM規則」)2の無効化を求める意向を表明しました。当該政府は、CBAM規則が主に環境に関する財政措置としての性質を持つため、可決には全会一致が必要であると主張しています。
CBAM規則は、2023年4月25日にEU理事会と欧州議会で採択された後、2023年5月16日に欧州連合官報に掲載されました。環境に関する措置であるCBAM規則は、EU条約に基づき、可決には過半数の投票を必要とします。ポーランドはCBAM規則の採択に反対票を投じ、またベルギーとブルガリアは棄権しましたが、CBAM規則は特定多数決方式により可決しました。
2023年8月8日に開始された手続きにおいて、ポーランド政府はEU連合司法裁判所(以下、「CJEU」)の一般裁判所にCBAM規則の無効化を申立てました。これまでの情報によると、ポーランド政府は、CBAM規定は主に財政措置としての性質を持つため、可決にはすべての理事会メンバー(すなわちEU加盟27カ国すべて)の全会一致が必要であると主張しています。この投票方式は、CBAM規則が2023年4月25日にEU理事会および欧州議会の過半数の投票により採択された際に活用された投票方式とは異なります。
無効化に係る申立てが承認された場合(すなわち、十分な根拠に基づいて申立てがされているとCJEUが判断した場合)、CBAM規則は採択の時点まで遡ってその全部または一部が無効とされる可能性があります。ただし、同様の請求事例を念頭に置くと判決が下されるまでには2年以上を要すると考えられ、申立ての対象となった規則が通常その係争中に停止されることはありません。なお、訴訟手続きの期間において、ポーランドはCBAM規則の無効化およびEUのFit for 55パッケージに関する他の規定の無効化を求める申立てを取り下げることも認められます。
この申立ては直ちに影響を与えるものではありませんが、中期的にはCBAMおよびEUグリーンディールに大きな影響を与える可能性があります。CBAM規則の全部または一部が無効化されれば、EU排出量取引制度(EU-ETS)規制の対象となる産業間のEU経済圏の競争力に関するEU委員会の計画を危うくする可能性があります。したがって、企業は一般的な事業戦略の検討と同様に、CJEUにおけるCBAM規則無効化の申立てとその帰結が自社にいかなる潜在的な影響を及ぼすかを考慮する必要があります。
政治上の、または特定の組織・機関におけるステークホルダーは、本アラート発行時点において本件に関する公式的な見解を示していません。CBAM施行規則は他の規則と同様のペースで最終化される見込みであり、CBAM移行期間の開始を遅らせる動きはないようです。
上述の通り、ポーランドの申立ては、CBAM規則の即時停止に繋がるものではありません。したがって、2023年第4四半期を対象とする最初のCBAM報告書の提出期限が2024年1月31日に迫っていることを考慮し、企業はCBAMコンプライアンス義務の準備に引き続き取り組む必要があります。
CBAMについての詳細は、2023年5月22日付EY Global Tax Alert 「Final regulations published for new EU Carbon Border Adjustment Mechanism (CBAM) and EU Emission Trading System revisions; CBAM transition period begins 1 October 2023」、2023年6月2日付EY Japan税務アラート「新たなEU炭素国境調整メカニズム(CBAM)とEU排出量取引制度改正に関する最終規則が公布される:CBAMの移行期間は2023年10月1日から開始」をご参照ください。
巻末注
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