EU理事会、「Fit for 55」に基づく新たな再生可能エネルギー規則と持続可能な航空燃料の導入(SAF)促進のための規則を採択

  • EU理事会(EU Council)は、再生可能エネルギーと持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進のための新たな規則を採択した。
  • これらの規則は、欧州委員会(European Commission)の「Fit for 55」政策パッケージの重要な要素である。
  • 企業は、最新の施策による潜在的な影響を理解し、それに応じて計画を立てる必要がある。

エグゼクティブサマリー

再生可能エネルギーと持続可能な航空燃料(以下、「SAF」)の導入促進のための新規則は、欧州委員会の「Fit for 55」気候政策パッケージ(以下、「Fit for 55」)の中で重要な要素にあたります。

2021年7月、欧州委員会は既存規則に対する変更や新たな提案を含むFit for 55を導入しました。Fit for 55とは、欧州グリーン・ディール(European Green Deal)に明記された野心的な気候変動対策をEUの各政策に還元することを趣旨とし、温室効果ガスの排出量を1990年比で55%削減する必要性に言及しています。2021年の発表以降、パッケージ内のほぼ全ての要素について進展がありました。

2023年10月、EU理事会は、新たな目標と報告義務を導入する、SAF(RefuelEU)に関する規則を採択しました。これで、Fit for 55政策パッケージはおおむね出揃いました。企業においては、これまでの進捗を再確認し、今回の新しい規則が自社のオペレーションや、サプライチェーン、およびサスティナビリティ・トランスフォーメーション計画に与える影響を確認する良い機会であると考えられます。

詳細解説

再生可能エネルギー指令

再生可能エネルギー指令の改訂(以下、「RED III」)では、EU全体のエネルギー消費量に占める再生可能エネルギーの割合を2030年までに42.5%に引き上げ、努力目標としてさらに2.5%上乗せし、同割合を45%にすることを規定しています。EU加盟国はこの共通目標の達成に貢献することが求められています。再生可能エネルギーの利用の促進はEUのグリーン・ディール産業計画(Green Deal Industrial Plan)を反映したものであり、同計画は再生可能エネルギー事業への資金援助を促進することに言及しています(2023年2月7日付 EY Global Tax Alert「European Commission publishes proposal for a "Green Deal Industrial Plan for the Net-Zero Age」をご参照ください)。

重要ポイント:

  • 産業部門において再生可能エネルギーの使用を年間1.6%ずつ増やすという目標が掲げられている。また、2030年までに、産業部門にて使用される水素の42%を非生物由来の再生可能燃料(RFNBO:Renewable Fuels of Non-Biological Origin)によるものにし、2035年までに同割合を60%にすることが求められる。RED IIIは、EU内の再生可能水素分野の開発を促進させる主たる手段として機能することが意図されている。
  • 運輸部門において、EU加盟国は、2030年までに再生可能エネルギーの使用により温室効果ガス排出量を14.5%削減するか、運輸部門のエネルギー最終消費量のうち、再生可能エネルギーが占める割合を少なくとも29%にする目標のうちから選択できる。どちらの目的も法的拘束力を有する。
  • 建物に関しては、2030年時点で、建物における再生可能エネルギーの割合を少なくとも49%にするという努力目標が定められている。
  • 加盟国は、再生可能エネルギー事業が許認可手続きの簡素化と迅速化といった恩恵を受けることができる「再生可能エネルギー事業加速化区域」を設定する。
  • また、再生可能エネルギーの利用促進は「優先すべき公共の利益」として扱われる。
  • これにより、再生エネルギー設備の新設に対して異議を唱える根拠が法的に制限されうる。
  • 持続可能でないバイオエネルギーの生産リスク軽減のため、エネルギーにバイオマスを使用するためのサステナビリティ基準が厳格化される。
RefuelEU:SAFの導入促進

RefuelEU航空機イニシアティブの主たる目標は、持続可能な航空燃料(SAF:Sustainable Aviation Fuels)の需要と供給の両方を拡大させることにあり、2030年以降の気候目標達成に向けた、EUによる航空機産業改革の中核要素に当たります。

重要ポイント:

  • 同規則においては、燃料供給業者に対して、EU域内の空港で供給する既存のジェット燃料にSAFを混合する割合を徐々に高め、2030年以降は合成燃料も混合するよう明記されている。燃料供給業者は、2025年にSAFの混合比率を2%にした後、2030年には6%、2050年には70%にする必要がある。合成燃料の混合義務は2030年の1.2%から2050年には35%に引き上げられる予定である。
  • 適格なSAFおよび合成航空燃料には、RED IIIの持続可能性・排出量削減基準を満たす認定バイオ燃料、RFNBO(再生可能水素を含む)、再生炭素航空燃料(これらについては最大70%、食品および飼料由来のバイオ燃料を除くという条件が定められている)、ならびに低炭素航空燃料(低炭素水素を含む)も含まれる。
  • 燃料タンカリングを原因とする、余分な積載重量による温室効果ガスの追加排出を避けるために、同規則は、EUの空港で1年間に積む航空燃料の量を、1年間に必要な航空燃料の少なくとも90%にするという、航空会社に対する義務を導入している。
  • 同規則は、EUの航空会社および航空業界のプラットフォームの競争力に対する影響を観察できるように、燃料供給業者および航空会社にデータ収集・報告義務を課している。
  • 同規則に基づき、SAFを使用する航空会社の環境の取り組みに関するユニオン・ラベリング制度が創設される予定である。同制度は、消費者が情報に基づく選択をするのに資すると期待される。
Fit for 55政策パッケージのまとめ

REDとRefuelEUの策定により、欧州委員会が2021年7月に発表したFit for 55気候政策パッケージはおおむね出揃い、適用が間近となりました:

  • EU炭素国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment Mechanism):一定の(温室効果ガス)排出集約型製品のEUへの輸入に課徴金を賦課する仕組み。移行期間が2023年10月1日に開始となっており、最初の報告義務が2024年1月に期限を迎える(こちらのEYウェブキャストCBAM特集(英語のみ)をご覧ください)。
  • EU排出量取引制度(EU Emission Trading System):2026年からの無償排出枠の段階的廃止、航空・海運への適用拡大(2024年)、建物および道路輸送に関する新たなEU域内排出量取引制度(ETS)II(2027年)が定められている。
  • エネルギー効率指令(Energy Efficiency Directive):2030年までに最終エネルギー消費量を2020年比で11.7%削減するという法的拘束力のある目標。EU加盟国は、意思決定にエネルギー効率への配慮を組み込み貢献することが求められる。
  • 社会気候基金(Social Climate Fund):建物のエネルギー効率向上、建物の冷暖房の脱炭素化、ゼロ/低排出モビリティ・輸送へのアクセス改善に関する各種策および投資の支援を目的に、EU加盟国に資金を供給する。
  • 土地利用・林業・農業に関する規則(Regulation on Land Use, Forestry and Agriculture):自然浄化による炭素除去量を二酸化炭素換算で3億1,000万トンにするという2030年全体目標を定めている。
  • 乗用車・バンに関する二酸化炭素排出標準:2030年から2034年の期間における新車による二酸化炭素の排出量を対2021年比で乗用車については55%、バンについては50%削減し、2035年からは乗用車とバンのいずれについても二酸化炭素排出を100%削減するという目標を定めている。
  • EU森林戦略(Forest Strategy):2030年までに少なくとも30億本の植樹をすることでEU域内の森林の質、量、レジリエンスの改善を目指している。
  • 代替燃料インフラ指令(Alternative Fuels Infrastructure Directive):ゼロエミッションモビリティへの需要に対応できるよう、充電設備・収容力を拡充することを目指している。

欧州委員会は、当初の政策パッケージを増設することで土壌の健康や森林伐採、廃棄物管理におけるイニシアティブを追加し(2022年1月14日付EY Global Tax Alert「European Commission proposes new set of measures to address deforestation, waste management and soil health」をご参照ください)、また、ガス・農業・運輸部門における事業転換を一気に加速させるためのイニシアチブを実行してきました(2022年1月14日付EY Global Tax Alert「European Commission builds on "Fit for 55" energy and climate package with new measures」をご参照ください)。

エネルギー課税指令の改正は、依然として協議の段階にあります。提案の中で欧州委員会は、エネルギー製品への課税をEUのエネルギー政策や気候政策に調和させることを目指しています。具体的には、燃料や電力への課税を、燃料・電力自体の量ではなく、それらがどれだけ汚染を生み出すかに基づいて行うこと、20年近く据え置かれてきた最低税率を改定すること、そして昨今化石燃料の使用を促している各国政府による免税・減税の廃止を目指しています(詳しくは、欧州委員会の「Revision of the Energy Taxation Directive (ETD): Questions and Answers」をご参照ください)。

企業への影響

RED IIIとRefuelEUの採択は、対象となる産業はもとより、一般企業にとっても、自社のオペレーションや持続可能なプロセスへの移行を検討するきっかけになると考えられます。RED IIIを受けて、EU加盟国は新たな目標の達成に尽力すると考えられ、EUにて事業を展開している企業は影響を受けることが予想されます。これらの企業においては、再生可能エネルギーの使用を検討し切り替えることが、価値ある最初の対応策になるでしょう。また、再生可能エネルギーの生産者においては、RED IIIの改正により、国内の規制や金融環境が改善することが見込まれます。

RefuelEU航空イニシアティブについて、燃料の混合義務は航空用燃料セクターおよび燃料サプライチェーン全体を対象とする広範な戦略の一部として考えるべきです。SAFの生産と供給を後押しするためには、民間に対する経済的な支援が不可欠になります。

Fit for 55パッケージは、全ての産業に多大な影響を及ぼす気候変動に対処するための包括的な計画である欧州グリーン・ディールの一要素です。その影響は産業によって異なります。EU循環型経済行動計画(Circular Economy Action Plan)に盛り込まれている繊維および電池分野における新しい規則も注目すべき動向であり、バリューチェーンは著しい影響を受けることが見込まれます(2023年7月21日付EY Global Tax Alert「EU Commission and Council take steps as part of the circular economy action plan — new rules on textiles and batteries」をご参照ください)。また、EU森林伐採規則(EU Deforestation Regulation)も注目すべき事例であり、慎重な(サプライヤーの)適正評価、報告、そして場合によっては、サプライチェーンおよび調達戦略の大幅な変更が必要になります。

一方で、主要なグリーン分野への投資を促し、サステナブル・トランスフォーメーションを可能にするため、国、EU、民間レベルにて予算増額の動きが強まっています。企業は、現在のオペレーションとサステナビリティ・トランスフォーメーション計画への政策変更の潜在的な影響を理解し、考慮に入れるよう努める必要があります。

お問い合わせ先

岡田 力 パートナー

上田 理恵子 パートナー

中村 健 アソシエートパートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです

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