2023年3月31日
BEPS2.0最新情報と実務対応(前編)
情報センサー2023年4月号 Tax update

BEPS2.0最新情報と実務対応(前編)

執筆者
EY 税理士法人

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

Ernst & Young Tax Co.

関谷 浩一

EY Japan メディア・エンターテインメントセクター・タックスリーダー 兼 タックス・ポリシーリーダー EY税理士法人 パートナー

2人の娘の父。趣味はドライブ、スキー、クルージング。好きなお酒はワイン。

2023年3月31日
関連トピック 税務

令和5年度税制改正大綱において、グローバルミニマム課税の所得合算ルール(IIR)に係る法制化が規定されました。前編となる本稿では、日本におけるIIRの法制化、GloBEセーフハーバールールの留意点について解説します。

本稿の執筆者

EY税理士法人 ビジネスタックスサービス部 税理士 関谷 浩一

30年以上にわたる国内および国際税務の経験を有する。1993年~97年、EYニューヨーク事務所にて多数の多国籍企業に日本税務のアドバイザリーを提供。税務アドバイザリースキルはクロスボーダーM&A、税務DDおよび税務ストラクチャリング、TOBおよびスクイーズアウトなど多岐にわたる。


EY税理士法人 国際税務・トランザクションサービス部 移転価格アドバイザリー 税理士・公認会計士 久保山 直

日系多国籍企業に対して、グループ間国際取引(移転価格)の価格設定方針策定のコンサルティング、移転価格事前確認(APA)の申請、税務調査対応、無形資産評価等の国際税務アドバイザリー業務に従事。通信会社、商社、投資会社、化学等、多岐にわたる業界へのコンサルティングを経験している。

要点
  • IIR導入の法的枠組みが明らかになりました。
  • GloBEセーフハーバールール案が公表されました。

Ⅰ はじめに

令和5年度税制改正大綱において、グローバルミニマム課税(BEPS2.0「第2の柱」)の所得合算ルール(IIR:Income Inclusion Rule)にかかる法制化が規定され、いよいよBEPS2.0にかかる実務が始まります。軽課税所得ルール(UTPR:Undertaxed Profits Rule)と国内ミニマム課税(QDMTT:Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)を含め、経済開発協力機構(OECD)において今年実施細目が議論される見込みであるものについては、国際的な議論を踏まえ、令和6年度税制改正以降の法制化が検討されます。市場国への新たな課税権の配分(BEPS2.0「第一の柱」)については、今後策定される多数国間条約の規定を基に法制化が検討されます。また、OECDは、12月20日にBEPS2.0に関するいくつかの文書を公表しています。本稿の前編では、特に重要なIIRの国内法制化、GloBEルールのセーフハーバーについて解説します。次号の後編では、GloBEルール対応ロードマップとGloBE情報申告のためのシステム導入について解説します。

Ⅱ 日本におけるIIR法制化

日本におけるIIR導入の法的枠組みが明らかになりました。今後国会における法律の審議を経て、3月末までに新法が成立することが見込まれます。日本におけるIIRトップアップタックスは、「各事業年度の国際最低課税額に対する法人税(仮称)」と「特定基準法人税に対する地方法人税(仮称)」に分割して申告納付されることになりました。法人税の枠組みの中で法制化されますので、申告、納税、調査、ペナルティー等に関する規定は法人税に準ずることになると思われます。申告期限は事業年度終了から1年3カ月後(初年度は1年6カ月後)です。令和6年4月1日以降に開始する事業年度に適用されます。12月決算法人については、子会社所在地国が令和6年1月1日以降開始事業年度にGloBEルールを適用した場合の影響について引き続き留意が必要です。

大綱には制度の詳細は記載されていませんが、OECDから国際合意文書として公表されているモデルルールと同様の制度となることが想定されていますので、制度の詳細については、同モデルルール及びコメンタリー、EY等アドバイザーの解説で確認することができます。

GloBE情報申告については、別途、「特定多国籍企業グループ等報告事項等」を国別報告書の提出と同様の枠組みで、e-Taxにより提出するものとされました。日本で提出した情報は、世界各国の子会社所在地国の税務当局に提供されることが想定されています。提出期限は前記の納税申告と同時で、事業年度終了から1年3カ月後(初年度は1年6カ月後)です。

昨年12月20日にOECDから情報申告の世界共通フォーマット案も公表されています。想定どおりの内容ではありますが、収集すべき情報の内容と量をイメージしやすくなりました。

Ⅲ GloBEセーフハーバールール

前述の情報申告フォーマット案と同じタイミングで、OECDからGloBEセーフハーバールール案も公表されました。セーフハーバールールは、一定の要件を満たした場合に手続の簡素化を認めることで、納税者の事務負担の軽減を図るものです。

公表されたガイダンスは主として、適用可能な年度を当初の2~3年程度に限定した「移行期CBCRセーフハーバー」と「恒久的セーフハーバー」について説明しており、要件に該当した場合は当該法域について発生するトップアップ税をゼロとすることとされました。

このうち「移行期CBCRセーフハーバー」の移行期(対象期間)は、「2026年12月31日以前に開始する会計年度を対象とするが、2028年6月30日以降に終了する会計年度は対象としない」とされており、3月決算の日本企業であれば2025年3月期~2027年3月期の3事業年度が対象になると考えられます。また、このセーフハーバーはその名の通り、GloBEルールの対象となる企業のほとんどが毎期作成していると考えられる国別報告書(CBCR)の数値を基礎とするように定められており、セーフハーバーの計算に伴う追加事務負担への配慮がなされています。

「移行期CBCRセーフハーバー」の求める要件には①デミニミステスト②実効税率テスト③通常利益テストの3つがあり、いずれかを満たせばセーフハーバーの求める要件を満たすことになります。まず①デミニミステストは法域の総収入が1千万ユーロ未満かつ法域の税引前利益が1百万ユーロ未満か又は損失であることを条件としており、当該法域のビジネスが小規模である場合に事務負担軽減を図る趣旨の要件となります。次に②実効税率テストは、税引前利益(損失)及び簡易対象税金費用に基づく法域の実効税率(簡易ETR)が暫定税率以上であることを条件としており、GloBEルールの当初目的から外れる税率が高い法域について事務負担軽減を図る趣旨の要件となります。

最後に③通常利益テストは、税引前利益(損失)がGloBEルールに基づく実体ベースの所得控除額以下であることを条件としており、ある程度実体を伴ったビジネスをその法域で行っている(極端な租税回避を企図していないと想定される)場合に事務負担軽減を図る趣旨の要件となります。

なお、「恒久的セーフハーバー」について、その計算枠組みは「移行期CBCRセーフハーバー」と同じ3つの要件で構成されていますが、GloBEルールにおける所得計算等と比較してどの程度簡易な計算になるかは明らかにされておらず、今後の追加ガイダンスで定められるものとされています。

最後にGloBEセーフハーバールールの留意点について、まず、セーフハーバーはGloBEルール対応の初期段階で検討すべき項目であり、また、「移行期CBCRセーフハーバー」は「適格なCBCR」の存在を前提としていることから、今後はCBCRを早期かつ適切に作成することが必要になります。

次に、「移行期CBCRセーフハーバー」はその名称からCBCRの数値だけで完結すると誤解しそうになりますが、その他にも必要となる追加情報がありますので留意が必要です。

最後に、セーフハーバーは納税者の事務負担の軽減を企図したものではあるものの、毎期対象事業年度が終わったあとに検証されるものであることから、セーフハーバーの要件を満たさない法域が出てきた場合、突然その時になってGloBEルールに基づく計算が必要ということになり混乱をきたす可能性があります。セーフハーバーの計算対応を含めた、GloBEルール計算のための事前準備が重要です。

※ OECD文書等ではGloBEルールと称される。

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サマリー

令和5年度税制改正大綱において、グローバルミニマム課税の所得合算ルール(IIR)に係る法制化が規定されました。前編となる本稿では、日本におけるIIRの法制化、GloBEセーフハーバールールの留意点について解説します。

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