2023年5月31日
研究開発税制 令和5年度税制改正の解説(前編)
情報センサー2023年6月号 Tax update

研究開発税制 令和5年度税制改正の解説(前編)

執筆者
EY 税理士法人

複合的サービスを提供するプロフェッショナル・サービス・ファーム

Ernst & Young Tax Co.

矢嶋 学

EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング パートナー

研究開発税制のプロフェッショナル。モノづくりからコトづくりまでイノベーションを税制で支援。

2023年5月31日
関連トピック 税務

令和5年度の研究開発税制に関する税制改正はサービス開発の見直しの他、高度研究人材の活用を促す措置の創設、控除率や控除上限の見直しなど多岐にわたります。本号と次号の2回にわたり研究開発税制の改正を解説します。

本稿の執筆者

EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティング部 税理士・公認会計士 矢嶋 学

法人向けコンプライアンス業務の他、大規模法人を対象とした税務リスク・アドバイザリー業務に従事。EY税理士法人内の研究開発税制チームリーダー。従前は国税職員として相続税、法人税の調査経験を有する。

要点
  • ビッグデータを活用したサービス開発を行っている場合、研究開発税制の適用が考えられます。
  • 企業に蓄積されているビッグデータを使用する場合も研究開発税制の適用範囲に含まれました。
  • 性能向上を目的としないデザインの設計・試作は研究開発税制の範囲から除かれます。

Ⅰ はじめに

令和5年度の税制改正においては、「成長と分配の好循環」を実現させるため、研究開発税制分野で多岐にわたる改正が行われています。具体的には、①控除上限の見直し②控除率の見直し③スタートアップの定義の見直し④高度研究人材の活用を促す措置の創設⑤サービス開発の範囲の見直し⑥デザインの設計、試作の取り扱いの見直し⑦分割等があった場合の調整計算の取り扱いの見直しとなります。そこで今号と次号の2回に分けて、これらの改正内容を解説します。

前編の今号では、試験研究費の範囲の見直しにスポットを当て、サービス開発の範囲の見直しとデザインの設計・試作の取り扱いを取り上げます。

Ⅱ サービス開発の改正

1. 改正前の取り扱い

サービス開発とは、平成29年度に研究開発税制に追加されたものであり、それまで製造業の「モノ作り」が中心となっていたところ、あらゆる業種の研究開発投資を後押しするために創設されました(<図1>参照)。

図1 サービス開発にかかる試験研究費

ビッグデータ等を活用した第4次産業革命型の「サービスの開発」を対象としたもので、具体的には、①対価を得ることを目的としたサービス開発であること②新たな役務の開発であること③一定のプロセスを経たサービス開発であることが適用要件とされています。③の一定のプロセスとは、次の4つの工程をいいます。


【租税特別措置法施行令第27条の4第3項1号(改正前)】

(i)大量の情報を収集する機能を有し、その機能の全部若しくは主要な部分が自動化されている機器若しくは技術を用いる方法によって行われた情報の収集又はその方法によって収集された情報の取得

(ii)上記(i)の収集に係る情報又は上記(i)の取得に係る情報について、一定の法則を発見するために行われる分析として財務省令で定めるもの

(iii)上記(ii)の分析により発見された法則を利用した当該役務の設計

(iv)上記(iii)の設計に係る上記(iii)に規定する法則が予測と結果とが一致することの蓋がい然性が高いものであることその他妥当であると認められるものであること及び当該法則を利用した当該役務が当該目的に照らして適当であると認められるものであることの確認


2. 改正が行われた背景

前述のとおり、サービス開発はあらゆる業種の研究開発投資を後押しする目的で導入された経緯があります。平成29年当時は「第4次産業革命」がキーワードの1つであり、ビッグデータやAIの活用が注目されていました。また、ドローンを用いたビジネスも登場し、今後多様なサービスに発展することが期待されたところです。このような社会環境の中で、さまざまなデータが大量に収集され、その大量のデータをデータアナリストが分析することで発見される法則を用いて、今までにないサービスを開発する行為は研究開発と捉えることができるため、これを税法上の試験研究に追加しました。

昨今は、あらゆるものがインターネットにつながる、いわゆるIoTの進展により、販売した製品の利用状況をインターネット経由で把握し、追加的なサービスを提供する例も増えています。その結果、製造業とサービス業の境界は薄れつつあり、サービス開発は製造業も含むあらゆる企業に適用可能な状況になっています。

しかし、サービス開発にかかる試験研究費の税額控除はそれほど増加しなかったのが実情です。

その理由には幾つかの要因が考えられますが、その1つに前述の4つの工程の(ⅰ)にある情報収集があると考えられていました。つまり、前述の(ⅰ)では、新たなサービスの開発を目的としたビッグデータの収集または取得が必要であり、過去に収集したビッグデータはサービス開発目的で収集または取得したものではないことから研究開発税制の対象外になっていたというものです。


3. 令和5年度の改正点

令和5年度の税制改正で分析に使用するビッグデータの範囲が拡大し、サービス開発の目的で収集または取得したもののみならず、企業に蓄積されている過去のビッグデータも含まれることになりました。

デジタル化が進む今日の経済社会では、製品の使用状況から得られるデータ等、一定の法則を発見することが見込まれる量のデータがすでに企業内に存在する場合があります。このような既存データを活用した新たなサービス開発が対象に加わることで研究開発税制の適用企業が増え、研究開発投資の好循環につながることが期待されます。


【租税特別措置法施行令第27の4第6項第1号】

一 次に掲げる情報について、一定の法則を発見するために行われる分析として財務省令で定めるもの

イ 大量の情報を収集する機能を有し、その機能の全部又は主要な部分が自動化されている機器又は技術を用いる方法によって収集された情報

ロ イに掲げるもののほか、当該法人が有する情報で、当該法則の発見が十分見込まれる量のもの

Ⅲ デザインの設計・試作の取り扱い

1. 改正前の取り扱い

既存の製品についてデザイン変更を行い、モデルチェンジ版として製品化することがあります。デザイン変更には製品そのものの性能向上を伴うものと、伴わないものがありますが、令和5年度の税制改正前は性能向上を目的としないデザインの考案であっても、その設計や試作のために生じた費用については研究開発税制の対象とすることができると考えられていました。


2. 令和5年度の改正点

研究開発税制は企業の研究開発に対するリスクテイクやスピルオーバー効果に対する税制面の後押しとして位置付けられています。そのため、その制度趣旨からすると、性能向上を目的としない開発業務については、そのプロジェクトの一部を切り出して税額控除の対象とすることに疑問がありました。

そこで、研究開発税制の対象の判定は開発業務一連の単位で行うこととされました。

この結果、研究プロジェクト単位で判定したときに、その研究目的に性能向上が認められないときは、そのプロジェクトに含まれる費用の全てが研究開発税制の対象外とされます。


3. 実務への影響

一般的に、デザイン変更が行われる際には何らかの性能向上を伴うことが多いと思われます。今後、性能向上を伴うデザイン変更であるのかどうかを確認することがポイントとなります。法人税の申告を行うための確認フローにおいて、プロジェクト単位の研究テーマを確認するプロセスが組み込まれていないときは、プロセスの見直しが必要となります。

Ⅳ おわりに

本稿では、サービス開発の改正とデザインの設計・試作を取り上げました。サービス開発に要する費用については会計上の表示科目を「研究開発費」としていない場合が多いため、税額控除の検討を行っていないケースがあります。令和5年度税制改正を契機として、改めて自社内の開発活動を見直してみることをお薦めします。

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サマリー

令和5年度の研究開発税制に関する税制改正はサービス開発の見直しの他、高度研究人材の活用を促す措置の創設、控除率や控除上限の見直しなど多岐にわたります。本号と次号の2回にわたり研究開発税制の改正を解説します。

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