EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人 ソフトウェアセクター
公認会計士 赤井 翔太/海野 潔人/小林 祐/永井 陽介/早矢仕 千里
企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「収益認識適用指針」という。)が、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されました。本稿では、収益認識の5ステップについて解説します。
なお、文中の意見は筆者の私見であり、法人としての公式見解ではないことをあらかじめお断りします。
収益認識会計基準は、他の会計基準等の適用を受けるものとして定められたものを除き、顧客から生じる収益に関する会計処理及び開示に適用されます。
収益認識会計基準において、「基本となる原則は、約束した財又はサービスの顧客への移転を当該財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込む対価の額で描写するように、収益を認識することである。」(収益認識会計基準第16項)とされています。
上記の基本原則に従った収益計上をするためには、収益認識会計基準において、5つのステップに基づく旨が示されています。
当該5つのステップを検討することにより、収益計上に必要な「単位」「金額」「計上時期」が決定されることとなります。
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ステップ1では、顧客との契約を識別します。収益認識会計基準第19項では、顧客との契約の要件が明確化されています。
ソフトウェア業界のうち受注制作の場合には、内示書等による作業着手を行う事がありますが、当該内示書等が契約の要件を満たしているかは、収益認識会計基準第19項に従って、慎重な検討が必要となります。そのため、顧客との標準的な契約プロセスについて社内規程・マニュアル等で適切に文書化することが考えられます。
また、収益認識会計基準における、顧客との契約の識別のステップには、「契約の結合」及び「契約変更」が含まれています。この点、法形式上は契約が分かれていても、契約を結合しなければならないケースや、法形式上は既存契約の変更であっても、独立した契約として処理しなければならないケースが生じる点に留意が必要です。
ステップ2では、履行義務すなわち契約において顧客への移転を約束した財又はサービスを提供する義務を識別します。契約と履行義務の関係については以下の4つのパターンが考えられます。
① 単一契約に対して単一履行義務
② 単一契約に対して複数履行義務
③ 複数契約に対して単一履行義務
④ 複数契約に対して複数履行義務
上記②のように単一契約に複数の履行義務が含まれる場合、契約に含まれる履行義務のうち、個別に会計処理すべき履行義務を識別する必要があります。例えば、製品の販売と保守サービス等の複数の製品やサービスを一括して提供するような契約の場合、単一の契約であっても複数の履行義務をそれぞれ認識する可能性があります。
一方で、ソフトウェアの受注制作を工程別に契約している場合であっても、上記③のように、複数の契約に対して単一の履行義務と判断されることがあります。
ステップ3では、収益として認識される金額の基礎となる「取引価格」を算定します。ここで「取引価格」とは、収益認識会計基準上、財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の金額であり、第三者のために回収する金額を除く、と定義されています(収益認識会計基準第8項、第47項)。
なお、変動対価又は現金以外の対価の存在を考慮し、金利相当分の影響及び顧客に支払われる対価について調整を行うことがあります。
顧客と約束した対価のうち変動する可能性のある部分を変動対価といい、契約において、顧客と約束した対価に変動対価が含まれる場合、変動対価を最頻出法または期待値法のいずれか適切な方法を用いて見積もる必要があります。
変動対価には、値引き、リベート、返金、インセンティブ、業績に基づく割増金、ペナルティー等が考えられます。ソフトウェア業界においては、一定のデータ量やトランザクションを超えると請求単価が増減するサービスや、一定の時間を超えると請求単価が割り増しされるようなサービスが、変動対価に該当する可能性があります。
ステップ4では、契約において複数の履行義務を含む場合に検討が必要となります。(3)で算定した取引価格を、(2)で識別した履行義務に配分します。
取引価格は、原則として財又はサービスの「独立販売価格」の比率に基づき、契約において識別したそれぞれの履行義務に配分します。
「独立販売価格」とは、収益認識会計基準上、財またはサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格をいう、と定義されています(収益認識会計基準第9項)。
独立販売価格を直接観察できない場合には、独立販売価格を見積る必要がある点に留意が必要です。財又はサービスの独立販売価格を直接観察できない場合には、市場の状況、企業固有の要因、顧客に関する情報等、合理的に入手できるすべての情報を考慮し、観察可能な入力数値を最大限利用して、独立販売価格を見積る必要があります。なお、類似の状況においては、見積方法を首尾一貫して適用する点に留意が必要です。
ステップ5では、履行義務が一定の期間にわたり充足されるのか、一時点で充足されるのかの判定を行い、収益の計上時期を決定します。収益認識会計基準では、判定のルールが明確に示されており、契約における取引開始時に当該判定を行う必要があります。
一定の期間にわたり充足される履行義務について、履行義務の充足にかかる進捗度を合理的に見積ることができる場合は、履行義務の充足に係る進捗度を見積り、当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識します。一定の期間にわたり充足される履行義務の要件を満たさず、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではない場合には、一時点で充足される履行義務として、資産に対する支配を顧客に移転することにより当該履行義務が充足される時に、収益を認識することとなります。
ソフトウェアの区分別の収益認識の基本的な考え方は、以下のとおりとなります。
市場販売目的のソフトウェアは、ライセンスの供与として検討することが考えられます。ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財又はサービスを移転する約束と別個のものでない場合には、ライセンスを供与する約束と当該他の財又はサービスを移転する約束の両方を一括して単一の履行義務として処理し、収益認識会計基準第35項から第40項の定めに従って、一定の期間にわたり充足される履行義務であるか、又は一時点で充足される履行義務であるかを判定することとなります(収益認識適用指針第61項)。
一方で、ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財又はサービスを移転する約束と別個のものであり、当該約束が独立した履行義務である場合には、ライセンスを顧客に供与する際の企業の約束の性質により、アクセス権と使用権とに区分され、アクセス権は一定の期間にわたり収益が認識され、使用権は一時点で充足される履行義務として収益が認識されます。
受注制作のソフトウェアに関する契約が一定の期間にわたり充足される履行義務に該当する場合には、履行義務の進捗度を見積り、当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識します。
収益認識会計基準においては、第38項の要件のいずれかに該当する場合には、一定の期間にわたり充足される履行義務として扱われます。(収益認識会計基準第38項の要件の詳細については「第7回:受注制作のソフトウェアの収益認識(2)進捗度に応じた収益認識」を参照)
一定の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識するのは、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積る事ができる場合となります。
履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積る事ができない場合で、履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる時まで、一定の期間にわたり充足される履行義務について原価回収基準(履行義務を充足する際に発生する費用のうち、回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識する方法)により処理することとなります。
その他、製作期間がごく短い受注制作のソフトウェアについては、代替的な取り扱いが用意されており、一時点で収益を認識することができます。
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