ソフトウェア業 第7回:受注制作のソフトウェアの収益認識(2)進捗度に応じた収益認識

EY新日本有限責任監査法人 ソフトウェアセクター
公認会計士 赤井 翔太/海野 潔人/早矢仕 千里

1. はじめに

企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「収益認識適用指針」という。)が、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されました。これに伴い企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」(以下「工事契約会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」(以下、「工事契約適用指針」という。)が廃止となりました。

廃止前の工事契約会計基準及び工事契約適用指針では、「工事進行基準」又は「工事完成基準」により収益を認識していましたが、そのうちの「工事進行基準」の考え方が、収益認識会計基準における履行義務を一定の期間にわたり充足される方法に取り込まれていると考えられます。

本稿で取り扱う進捗度に応じた収益認識とは、収益認識会計基準のいわゆる5ステップのうち、ステップ5「履行義務の充足による収益の認識」のフェーズに該当します。

なお、文中の意見は筆者の私見であり、法人としての公式見解ではないことをあらかじめお断りします。


2. 収益認識のパターン

収益認識会計基準では、企業は約束した財又はサービス(以下、「資産」と記載することもある)を顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するにつれて、収益を認識することとなります。資産が移転するのは、顧客が当該資産に対する支配を獲得した時又は獲得するにつれてとされており、契約における取引開始日に識別された履行義務のそれぞれが一定の期間にわたり充足されるものか又は一時点で充足されるものかを判定します(収益認識会計基準第35項、第36項)。

受注制作のソフトウェアに当てはめると、識別された履行義務のそれぞれが、一定の期間にわたり充足されるパターンは進捗度に応じた収益認識、一時点で充足されるパターンは検収に基づく収益認識に区分することができます。

以降の節は、そのうち受注制作のソフトウェアの収益認識の特徴の一つでもある進捗度に応じた収益認識にフォーカスして解説をしていきます。


3. 進捗度に応じた収益認識の適用要件

収益認識会計基準では、識別された履行義務が一定の期間にわたって充足されると判定する要件として3つを挙げており、当該要件をソフトウェア制作にあてはめると以下の表のようになります(収益認識会計基準第38項)。

要件

ソフトウェア制作の検討例

次の(1)から(3)の要件のいずれかを満たす場合、資産に対する支配を顧客に一定の期間にわたり移転することにより、一定の期間にわたり履行義務を充足し収益を認識する

(1) 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること

・サービスから生じる資産を顧客が受け取るのと同時に消費し、企業の履行により生じた資産が瞬時にしか存在しないケースを想定しており、例えば、履行割合型の準委任契約などが該当する可能性がある

(2) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当該資産を支配すること

・検討にあたり収益認識会計基準第37項「資産に対する支配とは当該資産の使用を指図し、当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力」を考慮すると、例えば顧客所有の建物内でソフトウェア開発を行い、顧客が仕掛中のソフトウェアを支配する場合などが該当する可能性がある

(3) 次の要件のいずれも満たすこと

① 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用(※)することができない資産が生じること

② 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受する強制力のある権利を有していること

 

※別の用途に転用できるかどうかの判定は契約の取引開始日に行い、取引開始後は履行義務を著しく変更する契約変更が起きない限りは見直さない。

・顧客仕様とするソフトウェア制作は当該ソフトウェア開発で生じた資産を別の用途に転用することは容易ではないことから、左記①の要件は満たすケースが多いと考えられる

・①に加え②の対価収受要件についても満たす必要があり、例えば、契約途中であっても一定のフェーズまでの対価を受け取る権利が発生するような場合が考えられる


4. 進捗度の見積方法

履行義務の充足に係る進捗度の適切な見積り方法として、収益認識適用指針においてはアウトプット法とインプット法の2つが示されており、各方法の内容、使用される指標例は以下の表のようになります(収益認識適用指針第15項、第17項、第20項)。

方法

内容

使用される指標例

アウトプット法

現在までに移転した財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積るものであり、現在までに移転した財又はサービスと契約において約束した残りの財又はサービスとの比率に基づき、収益を認識するもの

・現在までに履行を完了した部分の調査
・達成した成果の評価
・達成したマイルストーン
・経過期間
・生産単位数
・引渡単位数 など

インプット法

履行義務の充足に使用されたインプットが契約における取引開始日から履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプット合計に占める割合に基づき、収益を認識するもの

・消費した資源
・発生した労働時間
・発生したコスト
・経過期間
・機械使用時間 など

進捗度の見積方法を決定するにあたっては、財又はサービスの性質を考慮する必要があります。

ソフトウェア業では、一般的にシステム開発に係る履行義務についてはインプット法を採用している場合が多く、なかにはアウトソーシング・運用保守サービスに係る履行義務についてはアウトプット法を採用している企業も見られます。

なお、インプット法、アウトプット法にはそれぞれ欠点が収益認識適用指針において示唆されている点にも留意が必要です。インプット法の欠点として、インプットと財又はサービスに対する支配の顧客への移転との間に直接的な関係がない場合があることが挙げられています。例えば、履行義務を充足するために生じた想定外の金額の材料費、労務費又は他の資源の仕損のコストは、契約の価格に反映されていない著しく非効率な企業の履行に起因して発生したコストであるため、当該コストに対応する収益は認識しないこととなります(収益認識適用指針第125項)。一方で、アウトプット法の欠点として、履行義務の充足に係る進捗度を見積るために使用されるアウトプットが直接的に観察できない場合があり、過大なコストを掛けないとアウトプット法の適用に必要な情報が利用できない場合があることが挙げられています(収益認識適用指針第123項)。


5. 合理的な進捗度の見積り

上述の通り、収益認識会計基準では一定の期間にわたり充足される履行義務の進捗度を見積り、当該進捗度に基づき収益を認識することが求められます。もっとも一般的なケースであるコストに基づくインプット法を前提におくと、次の3つの各要素が合理的に見積もることができる場合に進捗度に応じた収益認識が可能になると考えられます。

(1) 収益総額
(2) 原価総額
(3) 発生原価

各要素の見積もりにあたって想定される論点の例示として下記が考えられます。

各要素のうち(1)の収益総額について、ソフトウェア業の取引慣行でもある契約締結前の先行着手が行われる場合に、仕様が未確定となり成果物又は制作作業の完成見込みが不確実な状態となることがあります。また、ユーザーと対価を合意したことを客観的に証明できる契約書がない場合は、信頼性をもった収益総額の見積りと言えないことがあります。なお実務上、契約締結前に契約書の代替として内示書を入手するケースがありますが、進捗度を合理的に見積もることが出来るか否かを判断する際には、内示書が適切な発注権限者から発行されているか、内示書に「対価の額」「対価の支払条件」など収益総額の見積りの信頼性を担保する内容が含まれているか等、慎重な検討が求められます。

(2)の原価総額も受注制作ソフトウェアは仕様確定が困難になりやすく、仕様が確定していない場合には原価総額を合理的に見積ることが難しくなります。見積りの精度を高める方法としては、要件定義、制作、運用テスト等、ソフトウェア制作工程をフェーズごとに細分化すること、フェーズごとに区切った単位で契約書を分割することが考えられます。

その他、社内体制の整備として下記も有効と考えられます。

  • WBS(ワーク・ブレイクダウン・ストラクチャー、作業分解図)を用いた作業の細分化・標準化
  • 総原価見積りのモニタリング・承認ルールの整備
  • 見積原価と実際原価の差異分析

(3)の発生原価について、受注制作のソフトウェアは制作を外注先に委託しているケースも少なくなく、外注先の情報を利用してコストに基づくインプット法を適用する場合においては外注先から入手できる情報の制約や提供される原価発生情報の信頼性について論点になることがあります。その際には、例えば外注先から定期的に作業報告書を入手する契約となっているか、外注先の工事進捗度に応じた収益情報の妥当性の検証可能性はあるかといった観点等の慎重な検討が必要になると考えられます。

また、受注制作のソフトウェアはプロジェクト別原価計算によることが多く、発生原価はプロジェクトコード単位で集計・管理されることからプロジェクトコードの発番時期及び適切な管理が非常に重要となります。

そのほか、決算日における個々のプロジェクトコードの進捗状況、損益状況等を考慮し発生原価を別のプロジェクトコードに付け替える可能性もあります。不適切な付け替えを防止するため発生原価の振替に関する判断、原価の集計方針及び発注に関する内部統制の整備・運用が必要になります。

 

なお、合理的な進捗度を見積もることができない場合とは、進捗度を適切に見積るための信頼性のある情報が不足している場合とされていますが、その場合には発生費用の回収が見込まれるか否かにより会計処理が変わってくることとなります。

履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができないが、当該履行義務を充足する際に発生する費用の回収が見込まれる場合は、履行義務を充足する際に発生する費用のうち、回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識する方法である「原価回収基準」により処理する必要があります。その後、履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができるようになったら進捗度に基づいて収益を認識します(収益認識会計基準第45項)。

一方、進捗度を合理的に見積ることができずかつ発生する費用の回収が見込まれない場合には、原価回収基準での収益は認められません。

また、契約初期段階の代替的な取扱いとして、収益を認識せず、進捗度を合理的に見積ることができる時から収益を認識することも認められています(収益認識適用指針第99項、第172項)。




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