ソフトウェア業 第6回:受注制作のソフトウェアの収益認識(1)契約との関係

EY新日本有限責任監査法人 ソフトウェアセクター
公認会計士 赤井 翔太/海野 潔人/早矢仕 千里

 

1. はじめに

企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(以下「収益認識会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(以下「収益認識適用指針」という。)が、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されました。

受注制作のソフトウェアの収益認識においては、第5回で解説した収益認識会計基準における5ステップのうち、ステップ1の顧客との契約の識別について主に以下の論点が存在します。

ステップ

事象

論点

1:顧客との契約の識別

契約の結合(→3.)

同時又はほぼ同時に契約を締結する場合の会計処理

契約変更(→4.)

契約の変更をどのように会計処理に反映すべきか

機能追加・仕様変更(→5.)

機能追加・仕様変更をどのように会計処理に反映すべきか

第6回では、これらの事象について概要を整理するとともに、会計処理に反映する際の留意点について解説します。なお、文中の意見は筆者の私見であり、法人としての公式見解ではないことをあらかじめお断りします。


2. 契約形態の特徴と留意点

(1) それぞれの契約の特徴と会計処理

受注制作のソフトウェアにおいては、その取引ごとに様々な契約形態が採られています。受注制作のソフトウェアの契約形態とその特徴をまとめると、以下の表のようになります。

契約形態

概要

受託者の義務

対価の支払対象

請負契約

受託者が委託者に対し、仕事の完成を約する契約

仕事の完成

仕事の完成

準委任契約

(成果完成型)

受託者が委託者に対し、成果の達成を約する契約

成果の達成

作業の完了

準委任契約

(履行割合型)

委託者が一定の行為を受託者に委任する契約

作業の提供

作業の実施

システム・エンジニアリング・サービス(SES)契約

受注企業が自社の従業員等を発注企業に常駐させるなどして、システム制作他のサービスを提供する、準委任契約の一形態

作業の提供

作業の実施

派遣契約

受託者が委託者に人員を派遣し、委託者の指示のもと労働に従事させる契約

作業の提供

作業の実施

以上の契約形態のうち、「請負契約」「準委任契約(成果完成型)」は受託者が仕事の完成義務または成果の達成義務を負う成果請負の契約である一方、「準委任契約(履行割合型)」「システム・エンジニアリング・サービス(SES)契約」「派遣契約」では受託者に完成義務はなく単に役務や労務を提供すれば契約上の義務を果たすことができる、労務サービス型の工数請負の契約である点が特徴です。

これらの契約形態別の特徴を踏まえると、契約の内容が成果請負である場合には、合理的に見積もられた進捗度に応じて収益認識を行い、契約の内容が工数請負である場合には、「月割」又は「作業時間×単価」等の役務提供に応じて収益を認識することが考えられます。

なお、契約における取引開始日から完全に履行義務を充足すると見込まれる時点までの期間がごく短い場合には、一定の期間にわたり収益を認識せず、完全に履行義務を充足した時点で収益認識を行う代替的取扱いが定められています(収益認識適用指針95項、96項)。
 

(2) 留意点

ソフトウェア業における受注制作のソフトウェアの実務においては、契約の形態上は改正前民法に基づく準委任契約やシステム・エンジニアリング・サービス(SES)契約、派遣契約といった工数請負の形式をとりながらも、実質的にはソフトウェアとしての機能を有する一定の成果物の給付を目的とした成果請負となっているケースが存在します。反対に、請負契約といった成果請負の形式をとりながらも、一定の成果物の給付を目的としておらず、実質的には工数請負となっているケースも存在します。以上を踏まえ、適用すべき会計処理の検討にあたっては、契約の形態だけではなく契約の実質を踏まえた判断が必要です。


3. 契約の結合

(1) 契約の結合とは

ソフトウェア業においては、例えばライセンスの販売と保守サービスや汎用ソフトウェア本体の利用権とカスタマイズサービスを同時に契約するケース、または受注制作における複数工程を同時に契約するケースなどが存在します。このように、同一の顧客と同時に又はほぼ同時に締結した複数の契約について、収益認識会計基準においては以下のいずれかに該当する場合には、当該複数の契約を結合し、単一の契約とみなして処理することが求められています(収益認識会計基準27項)。

  • 複数の契約が同一の商業的目的を有すること
  • 支払われる対価の額が、他の契約の価格又は履行により影響を受けること
  • 複数の契約において約束した財又はサービスが、収益認識会計基準に従うと単一の履行義務となること

例えば、契約書ごとの契約日付が異なっている場合であっても、案件の提案段階から見積や社内承認等を一括して実施している場合には、同一の商業目的として判断される可能性が考えられます。また、後工程で契約が解除された場合に前工程での契約や支払に影響が生じるような契約や、プロジェクト全体の完了後に一括して支払いがされる契約については慎重な検討が必要となる可能性が考えられます。
 

(2) 同時又はほぼ同時とは

前述の通り、「同時に又はほぼ同時」に締結した複数の契約のうち一定の契約については契約の結合が求められていますが、収益認識会計基準においては「ほぼ同時」に関する判断基準は定められていません。例えば、期間が1か月の短期の運用サービスと、期間が5年の長期の運用サービスでは「ほぼ同時」と判断する閾値が異なることが想定されます。そのため、「ほぼ同時」に該当するか否かを判断する際には、契約期間、取引の経緯やビジネス慣行、利益管理や意思決定の単位など、契約固有の状況を踏まえた総合的な判断が必要となります。したがって、商流や取引形態ごとに契約の結合の要否を判断できるよう、プロジェクトコードの発番管理や社内文書の具備、契約の認識単位に係る内部統制を検討することが必要と考えられます。
 

(3) 代替的な取扱い

なお、契約書は企業と顧客が諸条件を合意したものであり、その履行に法的責任を伴うものであるため、客観的な合理性が認められます。企業における過度の負担を回避する観点から、以下のいずれも満たす場合には、契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分を認めるとする代替的な取扱いが定められています(収益認識適用指針101項、174項)が、これらの要件を満たすか否かは慎重な検討が必要である点に留意が必要です。

  • 個々の契約が取引の実態を反映する実質的な取引の単位であること
  • 個々の契約における財又はサービスの金額が合理的に定められ、独立販売価格と著しく異ならないこと

4. 契約変更

(1) 契約変更とは

受注制作のソフトウェアにおいては、制作開始の段階で仕様の詳細まで詰められない場合があり、作業着手後に作業の追加や削減、仕様、デザイン、制作期間や対価の定めの変更が生じるケースも少なくありません。収益認識会計基準28項では、契約変更とは、「契約の当事者が承認した契約の範囲又は価格(あるいはその両方)の変更」であると定められています。
 

(2) 契約変更の会計処理に関する留意点

契約変更が生じた際の会計処理について、収益認識会計基準30項、31項では以下のように定められています。

判定条件

契約変更の会計処理

次のいずれの条件も満たす場合

・別個の財又はサービスの追加により、契約の範囲が拡大されること

・変更される契約の価格が、追加的に約束した財又はサービスに対する独立販売価格に、特定の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額分だけ増額されること

独立した契約として処理する

上記の条件を満たさない場合

①未だ移転していない財又はサービスが、契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものである場合

既存の契約を解約して、新しい契約を締結したものと仮定して処理する

(将来に向かって処理を実施する)

②未だ移転していない財又はサービスが、契約変更日において部分的に充足されている単一の履行義務の一部を構成する場合

既存の契約の一部であると仮定して処理する

(進捗度及び取引価格を見直し、当該変更による累積的な影響に基づき、契約変更日に収益の額を修正する)

③未だ移転していない財又はサービスが①と②の両方を含む場合

未充足の履行義務に与える影響を、それぞれ①又は②の方法に基づき処理する

(3) 代替的な取扱い

契約変更による財又はサービスの追加が既存の契約内容に照らして重要性が乏しい場合には、前述の(2)のいずれの処理についても認められる代替的な取扱いが定められています(収益認識適用指針92項)。


5. 機能追加・仕様変更

受注制作のソフトウェアの納入や、市場販売目的のソフトウェアをカスタマイズのうえ顧客に納入する場合には、納入後の一定期間にわたり瑕疵担保期間を設けることが一般的です。この期間内に、アフターコストや機能追加・仕様変更が発生した場合、会計処理にあたり例えば以下の点に留意することが重要です。

事案

費用の考え方

想定される会計処理

アフターコストが通常発生する範囲内である場合

通常発生する販売活動の範囲内であると考えられる可能性

・所定の会計方針に基づき収益認識を行う

・過去のアフターサービスコストの実績等に基づき発生予想額を合理的に見積もったうえで、製品保証引当金を計上する

アフターコストが特に多額である場合

瑕疵を補修するための多額のアフターコストの発生が見込まれる場合には、ユーザーの要求する仕様や水準の製品を納入できていない状態の可能性が考えられ、実質的にはソフトウェア制作の追加原価となる可能性

・進捗度に応じた収益認識を適用している場合、追加原価発生を踏まえ、履行義務の充足に係る進捗度を適切に見直し、顧客の最終検収まで継続して適用

・検収書に基づく収益認識を適用している場合、瑕疵補修作業が完了した後、最終検収を受けた後に収益認識

無償で重要な機能追加や仕様変更が発生する場合

ソフトウェアの検収が不適切であったと考えられ、実質的には顧客による検収は完了しているとは言えず、当初のソフトウェアの制作原価の一部と考えられる可能性

同上



企業会計ナビ

会計・監査や経営にまつわる最新情報、解説記事などを発信しています。


EY Japan Assurance Hub

時代とともに進化する財務・経理に携わり、財務情報のみならず、サステナビリティ情報も統合し、企業の持続的成長のかじ取りに貢献するバリュークリエーターの皆さまにお届けする情報ページ 

You are visiting EY jp (ja)
jp ja