Tax controversy update vol. 8 ― DCF各論①

今回は前回に引き続きDCFについて、下記図のパターン①とパターン②について、ご説明します。

パターン①は、納税者が評価方法としてDCFを使用して資産を評価したにもかかわらず、当局がDCFを使用できない場面であるとして、それ以外の評価方法を使用する場合です。


図1Tax controversy update vol. 8 ― DCF各論①

贈与税額をめぐる株式価値の算定のため、発行会社が所有する船舶の価値が争われた、東地裁令和2年10月1日の事案がこの類型にあたります。この事案では、納税者がDCFで船舶を評価しましたが、当局は「建造船価償却法」という方法で評価しました。評価通達136が、船舶の価額について、原則として、売買実例価額や精通者意見価格等を参酌して評価することとしており、当局は、精通者意見価格等を参酌した価額として、建造船価償却法を使用しました。

また、東地判平成29年3月3日は相続税の事案で、借地権が設定された土地の評価額が問題となったものです。納税者はDCFを用いて評価しましたが、当局は「借地権価額控除方式」を用いました。評価方法についてその宅地の価額から借地権の価額を控除した金額によって評価する方式を定める評価通達25の取り扱いが根拠です。

パターン②は、納税者が評価方法としてDCFを使用して資産を評価した場合に、当該DCFとは異なるDCFによる評価額を主張する場合です。

大阪裁令和3年3月25日は、国外関連者に譲渡した外国子会社株式の譲渡価格が問題となった事案ですが、当局は納税者が採用したDCFの方法論を一部否定する形で、自己のDCFによる価格を算出しています。

パターン①で挙げた2事案について、当局は通達の取り扱いを参照していますが、その通達にDCF以外の方法による評価方法が明確に定められていたことが、当局による納税者評価の否定につながっているように思います。ただし、東地裁令和2年10月1日の事例については、裁判所の方は、精通者意見価格としてDCFを使用できるとして納税者の主張を認めました。よって、納税者としては、当局がDCFによる評価を否定してきた場合には、当局が根拠にしている法令・通達が一切DCFの使用を排除する規定ぶりになっているかという分析が必要なように思われます。

また、パターン②について、非上場株式の譲渡時の時価が問題となっています。この点については、評価損の計上のための取扱いである法人税基本通達9-1-13、9-1-14を用いることが多いと思います。大阪裁令和3年3月25日は、結局、DCFの土俵に乗ったほうが否認しやすい事案であったということが窺えますが、「譲渡時における時価」の算定方法を明確に規定した法令・通達が存在しなかったことも、当局のDCFの使用を後押ししたように思います。

以上より、当局が、パターン①、②いずれのスタンスをとるかは、対象資産の評価方法について、どこまで法令・通達に具体的な定めがあるかどうかにかかわってきます。


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