オーストラリア、国別報告の開示(PCbCR)法案を議会に提出

連結収入金額が約1,000億円以上の国別報告を国税庁に提出している企業は900グループを超えて、世界においては2番目に多い国に位置付けられています。その内、多くの企業が欧州連合(EU)加盟国もしくはオーストラリアに拠点を持ち、EUもしくはオーストラリアのPCbCRの義務を負うことになります。日本企業の内、グローバルに展開している企業については、EUおよびオーストラリアに拠点を持つことから、EUとオーストラリアのPCbCRを求める国・地域と項目を網羅的に開示できる様に準備を進めるべき段階に来ています。

日本企業の多くは事務負担の増加を問題視し、PCbCRにどこまでの意味があるのか疑問を呈しています。一方で、欧米のグローバル企業は、PCbCRがどのようにステークホルダーに受け止められるのかを分析し、説明責任を持った開示とステークホルダーとの対話を用意し、自らの企業価値を高めることに努めています。

財務開示とサステナビリティ開示を受動的にとらえて、ステークホルダーとの真の対話を積極的に行って来なかった日本企業にとっては、PCbCRにおいても、さらなる周回遅れになる恐れもあり、企業の非財務価値を高めるための瀬戸際に来ているのではないかと思われます。


2024年6月5日、国別報告の開示(PCbCR:Public Country-by-Country Reporting)措置が、包括法案(財務省法改正<責任ある後払い決済およびその他の措置>法案2024)の一部として議会に提出されました(オーストラリア連邦議会のウェブサイトはこちら)。

この法案は、前回の2024年2月および2023年4月の公開草案(ED)、ならびに2022-23年10月連邦予算案に続くものです。

この法案は、監査済みの連結財務諸表の使用、必要な情報のリスト、指定国・地域に対する個別報告、2024年7月1日以降に開始する財務報告期間からの開始など、2月の公開草案からほぼ変更されていません。

オーストラリアのPCbCR制度では、特定の大規模多国籍企業(国別報告義務のある親会社)に対し、オーストラリアおよび指定国・地域については国別、それ以外の国・地域については国別または集計ベースで、特定の税務情報の公開が義務付けられることになります。これらの情報は、オーストラリア政府のウェブサイトで公表されることになっています。

EYや他の関係者が意見を提出しましたが、同法案の措置は2024年2月のEDからほぼ変更されていません。

主な変更点は以下の通りです:

  • 法案の注釈(EM)では、海外に拠点を持たないオーストラリアのCbCRの開示義務を課される親会社(CbCR親会社)は所定の情報を提供する義務があることを明確にしています。
  • 税へのアプローチなど、事業体が公表しなければならない要件について、OECDガイダンスと矛盾がある場合においても、GRI(Global Reporting Initiative)基準を主な指針として使用することが義務付けられています。
  • EMには、オーストラリア国内法または外国法に違反する可能性がある場合、営業上慎重な扱いを要する情報が漏洩される場合、または国家の安全保障に影響を与える可能性がある場合に、特定の情報の公表について、オーストラリア国税局(ATO)が事業体への免除措置を検討する可能性があることが新たに追加されました。
  • 法案とEMは、これらの免除が毎年適用されることを明確にしています。
  • EMには、選択された税務情報のいずれかに重大な誤りがあった際に、重要性のアプローチで対応する追加ガイダンスが含まれています。

CbCR親会社が公表する税務情報のうち、監査済みの連結財務諸表を基に作成しなければならないもの(以下参照)および2024年7月1日以降に開始する会計年度の開始日に変更はありません。

CbCR親会社

オーストラリア+指定国・地域
-国・地域ごと

その他の国・地域-合算データ

事業体の名称

国・地域の名称

 

グループに属する他の事業体の名称

主たる事業

主たる事業

税へのアプローチ

従業員数

従業員数


第三者への売上高

第三者への売上高


当該国・地域以外の関連当事者からの売上高

当該国・地域以外の関連当事者からの売上高


税引前利益(損失)

税引前利益(損失)


有形資産の帳簿価額(現金以外)

有形資産の帳簿価額(現金以外)


法人所得税納税額(実際の納付額)

法人所得税納税額(実際の納付額)


税額(当期発生ベース)

税額(当期発生ベース)


発生税額と、税引前利益にその国の税率を乗じて得られる額との差異理由

 


算出および表示に使用された通貨

算出および表示に使用された通貨

指定国・地域のリストの決定案についての更新情報はありません。EMは、法律が可決されるまでリストは明らかにならないことと示唆しており、リスト(香港、シンガポール、スイスを含む41の指定国・地域)が変更される可能性は低いようです。

対象となる企業グループは、重大な誤りの修正を28日以内に実施しない場合など、順守しない場合は多額の罰金が科されかねないため、これらの新たな報告義務を順守するための仕組みを確実に整える必要があります。

多国籍企業グループは、特に現在加盟国によって制定が進んでいるEUのPCbCR制度を含めた開示要件に対応するために、グローバルなデータ収集および国別報告(CbCR)の指標を管理する仕組みを開発する必要があります。
 

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   Patrick Giles-Jones JBS Oceania Tax Leader パートナー
   井上 恵章 アソシエートパートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです