EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2024年9月10日に、HMRCは、移転価格アプローチにおける共通リスクへの対応手引きとして、新しい「コンプライアンスに関するガイドライン」(GfC)を公表しました。
GfC文書の目的は、法令遵守に関してHMRCの期待をより明確にし、透明性を高めることによって、英国の企業が直面する不確実性を軽減することです。今回発表された「移転価格アプローチにおける共通リスクへの対応手引き - GfC7」は、2022年以降に発表されたさまざまな税務分野を網羅するGfCシリーズの一部を構成しています。
GfC7は、企業の移転価格税制の遵守に係る不確実性を軽減するため、以下の主要な点について詳述しています:
特に本ガイドラインのパート2とパート3には、多国籍企業グループの移転価格方針の設定に責任を負う日本の担当部署に関連する側面が検討されています(以下の「詳細な解説」を参照)。
HMRCは、既存の移転価格文書が品質や網羅性の面でしばしば不十分であると指摘し、このガイドラインの公表を通じて、HMRCが考える「ベストプラクティス」を概説しています。本ガイドラインの重要な部分は、英国の税務リスク責任者とその責務に焦点を当てており、移転価格税務担当者および専門家向けのより具体的なアドバイスも提供されています。そのため、納税者は移転価格税制の遵守に関しても、またHMRCとのいかなる議論においても、これらが焦点となることを予期すべきです。
HMRCのガイダンスにおける特筆すべき点は、移転価格のコンプライアンスリスクが優れた実務慣行によって対処可能であると強調した上で、納税者に対する具体的な期待事項と推奨方針の提示を行っていることです。納税者はHMRCによる推奨事項を採用し、基礎となる作業を行い、必要な証拠書類を提出する際に、適切な判断を下すために一定の裁量を行使する必要があります。各納税者が強固に移転価格に関する申告内容を裏付け、高リスク要因を評価しリスクを軽減するための作業量は、それぞれの状況に応じて異なりますが、納税者はこれらの作業に関して既存の水準を上回る対応が求められることを認識する必要があります。
本ガイドラインは、自己の取引に関して「不確実な税務処理」(UTT)の通知義務に該当するかの検討を行う必要がある英国の事業体に対するHMRCの既定方針の一部を形成しています。
このガイドラインの公表により、多国籍企業グループに属する英国事業体の税務ポジションを立証するために必要な文書には、税務上の不確実性をもたらすリスク要因を考慮した、十分な根拠と裏付けに基づいた分析が不可欠であることが明確になりました。
したがって、本ガイドラインはHMRCの見解を理解する上で有効であり、さまざまな技術的分野にわたる税務当局の見解を示しているため、現在の移転価格のポジションはもとより、将来の移転価格方針の設計やコンプライアンスの検討においても重要な参考資料となります。
本ガイドラインは、英国事業体の移転価格コンプライアンスに携わる、実質的には異なるものの関連性のあるステークホルダーを対象に、以下の3部から構成されています。
このパートの目的は、英国における効果的な移転価格コンプライアンスプロセスを確立し、文書化するために、英国の税務リスク責任者およびその関連グループ機能を支援するものです。このパートでは、以下の事項を取り上げています:
本ガイドラインでは特に以下の事項について説明しています:
このパートは、次の業務を担当する社内税務部門担当者および社外の移転価格専門家を支援することを目的としています:
このパートは、英国の税務リスク責任者およびその関連グループ機能が以下の項目を通じて、英国における効果的な移転価格コンプライアンスプロセスを確立し、文書化することへの支援を目的としています:
このパートでは機能分析、比較可能性分析、移転価格の計算と調整における共通の問題やリスク、およびこれらの文書化方法について説明しています。特に、移転価格文書の現地におけるローカライゼーション(英国に本社を置かない企業の場合)、同時性のある証拠、事業リスクの管理、取引の描写、組織全体の人的機能に焦点を当てています。
このパートは、移転価格方針の設定や既存の方針に関するリスクの検証に携わる担当者を対象としています。したがって、多国籍企業グループにおいては、英国外に居住するステークホルダーも本ガイドラインを参照する必要があるかもしれません。
本ガイドラインは、移転価格方針における高リスク指標を取り上げ、リスクを軽減するための「ベストプラクティス」を提案しています。HMRCは、既存の移転価格方針が過度に抽象的に設定されている場合、あるいは分析による裏付けが不十分なケースや、英国の事業実態を適切に反映していない可能性などを指摘しています。具体的な対象分野は以下のとおりです:
このパートに含まれるリスク領域は網羅的なものではなく、また優先順位を示すものでもありません。具体的な例として、金融取引に関する移転価格については、このガイドラインでは詳細には述べられていません。このガイダンスにおいて金融取引やその他の領域への言及が限定的であることは、HMRCがこれらの分野にリスクが存在しないとの見解を示しているものではありません。将来、HMRCはGfC7を補完するためのさらなるガイドラインを策定する可能性があります。
この新しいガイドラインは、HMRCが移転価格のポジションの裏付けにおいて有用と考える記録の非常に包括的なリストによって補足されています。これらの例は、納税者が完全に保持することを想定される証拠情報の「チェックリスト」としては意図されていないものの、HMRCがリスク評価や税務調査で通常求め得る情報開示の水準を示唆しています。
本ガイドラインにおける詳細な論考は、HMRCが移転価格調査や納税者との近年の交渉において提起した技術的な設計や移転価格方針の重要な分野について解説しています。さらに、コンプライアンスプロセスの策定と運用、必要な分析および情報提供の水準についても詳述しています。
本ガイドラインは詳細かつ実践的な内容を含んでおり、多国籍企業内の各種担当者や外部アドバイザーなどさまざまな役割に関連しています。したがって、対象となる各部門の責任者および専門家には、この指針を精読することが推奨されます。
この上で、英国の事業体とその税務コンプライアンスの担当者は、以下の措置を検討することが求められます:
日本に拠点を置くUK Tax Desk チームや在英国の移転価格・グローバルオペレーティングモデル最適化チームは、これらの変更事項およびその他の英国税制の最新動向が貴社の事業運営に与える影響を検証するお手伝いをいたします。
巻末注
EY税理士法人
Ernst & Young Tax Co. (Japan), UK Tax Desk, Tokyo
Richard Johnston パートナー
Rebecca McKavanagh シニアマネージャー
Ernst & Young LLP (United Kingdom), London
移転価格・グローバルオペレーティングモデル最適化チーム
平井 恵理子 パートナー
相澤 州平 シニアマネージャー
伊藤 伸彦 シニアマネージャー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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移転価格(Transfer Pricing〈TP〉)とは、グループ企業との取引を通じた所得の海外移転を防止し、適正な国際課税を行うことで国際的な所得の適正配分を図ることを目的とした税制です。 EYのTPチームは、移転価格文書化、移転価格ポリシーの策定、事前確認(APA)及び税務調査対応等のコンプライアンス対応に加え、近年複雑化する税制や事業を考慮した企業のガバナンス体制の構築を全面的に支援します。
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