EU、税に関するブラックおよびグレーリストを改定

  • 2024年10月8日、欧州連合(EU)の財務相らは、税務面で非協力的な国・地域のEUリストの改定版を承認した。
  • アンティグア・バーブーダは、経済協力開発機構(OECD)グローバルフォーラムによる補完的レビューの結果待ちのため、EUブラックリストからEUグレーリストに移された。
  • アルメニアおよびマレーシアはEUグレーリストから除外された。
  • EUリストの次回の改定は2025年2月に実施される見込み。


エグゼクティブサマリー

2024年10月8日に開催された欧州連合理事会(EU理事会)の経済・財務相理事会(ECOFIN)会合において、EU財務相らは付属書Iに記載された税務面で非協力的な国・地域のEUリスト(いわゆるブラックリスト。以下、「EUブラックリスト」という)に関するEU理事会の結論を承認しました。これにより、アンティグア・バーブーダがEUブラックリストから除外されることが決定しました。

また、付属書IIに記載されたステートオブプレイ(現状)概要(いわゆるEUグレーリスト。以下、「EUグレーリスト」という)には、EUブラックリストから除外されたアンティグア・バーブーダが追加されています。EUグレーリストとは、優れた租税ガバナンス原則の導入の確約についてEUとの協力を表明し、監視の対象になっている国・地域の一覧です。アンティグア・バーブーダは、経済協力開発機構(OECD)の税の透明性および税務目的の情報交換に関するグローバルフォーラム(以下、「グローバルフォーラム」という)による同国の補完的レビューの結果が出るまでの間、EUグレーリストに掲載される予定です。一方、アルメニアおよびマレーシアはEUグレーリストから除外されました。さらにベトナムに対しては、国別報告書(CbCR)に関する確約を実行するためのさらなる時間的猶予が与えられました。

EU理事会は今後もEUリストの年2回の検討および更新を継続することになっており、次回の更新は2025年2月に予定されています。
 

詳細解説

背景

2016年、EUは税務面で非協力的な国・地域のリストの作成に着手しました。2017年12月5日、EUブラックリストリストおよびEUグレーリスト(以下、「EUリスト」という)の初版がEU理事会から公表されました。付属書Iに記載されたEUブラックリストには、所定の期限までにEUの基準を満たすことを怠った国・地域が掲載されています。付属書IIに記載されたEUグレーリストには、租税政策の改革について十分な確約を表明しているものの、当該確約の実行まで綿密な監視の対象となる国・地域が掲載されています。すべての確約を実行した国・地域はEUグレーリストから除外されます。

当初のEUブラックリストには、欧州委員会によって定められた該当する基準を満たすことを怠ったとみなされる17の国・地域が掲載されていました1。このEUブラックリストの内容は、法人課税に関する行動規範グループ(Code of Conduct Group for Business Taxation:COCG)の提言に基づいて、初回の公表以来複数回にわたり改定されてきました。こうした改定が行われるのは、例えばCOCGが新たな国・地域または制度を識別した場合や、すでにEUリストに掲載されている国・地域の評価を見直した場合などです。COCGによって課されたすべての条件を当該国・地域が満たすようになったことが専門家の評価により確認された場合には、EUブラックリストまたはEUグレーリストからの当該国・地域の除外が正当とみなされます。

また欧州委員会は2018年3月、リストに掲載された税務面で非協力的な国・地域への最初の対抗策として、特に財務および投資活動に関するEUの法律に、租税回避防止の新たな要件を盛り込むコミュニケーション(指針)を採択しました2。これらの要件は、EUの外部開発および投資資金が、対抗策に抵触することなくして、EUブラックリストに掲載された国・地域内の事業体を通過または経由できないように図ることを狙いとしています。

さらに2019年、EU理事会は、非協力的な国・地域からの防衛策に関する追加的なガイダンスを公表しました。同時にEU理事会は、みなし利子控除制度を有する国・地域の評価、および基準2.2(実質的な経済活動を伴わずに利益を取り込むオフショア構造を促進する税制の存在)に基づくパートナーシップの取扱いに関するガイダンスも公表しました3。前者の防衛策に関するガイダンスによると、EU加盟国は2021年1月1日時点で、EUブラックリストの国・地域に対して以下の4つの具体的な法的措置のうち少なくとも1つを適用するよう要求されています。

  1. リストに掲載された国・地域において発生したコストの損金不算入
  2. 外国子会社合算(CFC)税制
  3. 源泉徴収税における措置
  4. 株主配当における資本参加免税の制限

多くの加盟国は、これらの防衛策に関する法律をすでに採択または起草しています。

COCGは2023年10月に公表した多年次の作業パッケージ(2023年~2028年)において、EUブラックリスト掲載プロセスを利用してBEPS2.0第2の柱ルールの適切な機能を促進する方法を検討する可能性に言及しています。またCOCGは、新たな受益所有権基準(基準1.4)、および同グループによるEUリストの審査プロセスの地理的範囲(現在はEU域外の約95の国・地域が含まれる)の拡大について、議論を継続する予定です。

改定版EUリスト

2024年10月8日、EU財務相らはルクセンブルクでECOFIN会合を開催し、EUリストの改定に関する結論を採択しました。

前述のとおり、EU理事会はアンティグア・バーブーダを除外した改定版のEUブラックリストを採択しました。EU理事会の報道発表によると、同国がEUブラックリストから除外された理由は以下のとおりです。

  • 過去の記事のとおり、アンティグア・バーブーダは要請に基づく情報交換に関してグローバルフォーラムから否定的な評価を受けた後、2023年10月17日のECOFIN会合において採択された更新により、EUブラックリストに追加された。
  • アンティグア・バーブーダにおける適用ルールの改正を受け、グローバルフォーラムは同国の補完的レビューを行うことに合意し、近い将来に実施を予定している。
  • 当該レビューの結果待ちのため、アンティグア・バーブーダをEUグレーリストに移すことが決定された。

改定後の現行のEUブラックリストに掲載されている11の国・地域は、米国領サモア、アンギラ、フィジー、グアム、パラオ、パナマ、ロシア、サモア、トリニダード・トバゴ、米領ヴァージン諸島、バヌアツです。

加えてEU理事会は、協力的な国・地域が表明している確約に関するEUグレーリストを承認しました。EUグレーリストの改定の内容は以下のとおりです。

  • アルメニアおよびマレーシアは、有害な税制を改正するとの確約を実行したことを受けて除外された。
  • ベトナムは、国別報告書(CbCR)のミニマムスタンダードを導入すること、およびすべてのEU加盟国との間でCbCRの自動交換を開始することを確約した。この再確約に基づき、ベトナムは2024年12月31日までにCbCRに関する権限ある当局の多国間協定に調印し、かつ2025年1月31日までにすべてのEU加盟国との間におけるCbCR交換関係の開始のために必要な手順を踏むという時間的猶予を与えられた。優れた租税ガバナンス原則の導入の確約についてのベトナムの表明は、2025年2月に予定されている次回の更新時に改めて評価される。
  • 結果として、改定後の現行のEUグレーリストに掲載されている9の国・地域は、アンティグア・バーブーダ、ベリーズ、英領ヴァージン諸島、コスタリカ、キュラソー、エスワティニ、セーシェル、トルコ、ベトナムです。

今後のステップ

EU理事会は、国・地域による確約の実行期限の変更や、EUリストの決定に当たりEUが使用するリスト掲載基準の変更を勘案しつつ、今後もEUリストを定期的に検討および更新する予定です。2019年までのEUリストは、第三国において実施された改革を反映させるため、スケジュールを固定せずに常時更新されていました。しかし2020年からは、(i)リスト掲載プロセスのさらなる安定性、(ii)業務の確実性、(iii)リストに掲載された国・地域からの防衛策を加盟国が効果的に適用できる可能性をそれぞれ確保するため、EUリストの更新を年2回までとすることで加盟国が合意しました。したがって、EUリストの次回の改定は2025年2月の実施が見込まれます。
 

影響

EUはリスト掲載プロセスを通じて、第三国に対し、透明性の向上や税制における有害な要素の排除を求める圧力をかけ続けています。非協力的であるとしてリストに掲載されている国・地域で活動する企業は、EUブラックリストに掲載された国・地域が受ける、主として以下のような影響を把握しておくことが推奨されます。

  • 理事会指令(EU)2018/822(MDR指令またはDAC6)による改定後の指令2011/16/EUに盛り込まれた義務的開示制度(mandatory disclosure rules:MDR)により生じる報告義務。係る報告義務は、支払いの受取人が税務面で非協力的な国・地域のEUリストに掲載された国・地域の税務上の居住者である場合において、損金算入可能なクロスボーダーの支払いを伴うクロスボーダーの取決めを開示することをその一部において要求している。
  • EU加盟国は税源浸食防止のため、課税上の措置および課税以外の措置を含む、1つまたは複数の防衛策の適用を検討する可能性がある。これにはとりわけ、コストの損金不算入措置、外国子会社合算(CFC)税制の強化措置、源泉徴収税における措置などが含まれる可能性がある。

また、これらのリストは国別報告書(CbCR)開示制度にも影響を及ぼすことになります。すなわち、CbCR開示制度では情報を国別に開示する必要があるため、すべてのEU加盟国4に加えて、EUブラックリスト(報告書の作成が必要となる対象会計年度の3月1日現在)およびEUグレーリスト(2年度連続で報告書の作成が必要となる対象会計年度の3月1日現在)に掲載されたすべての国・地域について、情報を切り分ける必要が生じます5。さらに企業は、EUブラックリストまたはEUグレーリストに掲載された国・地域に関連する営業上の機密情報について、CbCR開示制度に盛り込まれた保護条項を利用した開示の延期(最長5年間)を行うことができなくなります。

EUの法人課税に関する行動規範グループ(COCG)による作業はダイナミックなプロセスであることから、企業は非協力的な国・地域を対象とした他のEU加盟国による防衛策の導入を含め、さまざまな動向を注意深く監視していく必要があります。
 

付録:2024年10月8日現在の国・地域の区分

EUブラックリスト

EUグレーリスト

米国領サモア(2017年12月5日に追加)

アンティグア・バーブーダ(2024年10月8日にEUブラックリストから移動)

アンギラ(2022年10月4日に追加)

ベリーズ(2024年2月20日に追加)

フィジー(2019年3月12日に追加)

英領ヴァージン諸島(2023年10月17日に追加)

グアム(2017年12月5日に追加)

コスタリカ(2023年10月17日に追加)

パラオ(2020年2月18日に追加)

キュラソー(2023年2月14日に追加)

パナマ(2020年2月18日に追加)

エスワティニ(2022年10月4日に追加)

ロシア(2023年2月14日に追加)

セーシェル(2024年2月20日に追加)

サモア(2017年12月5日に追加)

トルコ(2017年12月5日に追加)

トリニダード・トバゴ(2017年12月5日に追加)

ベトナム(2022年2月24日に追加)

米領ヴァージン諸島(2018年3月13日に追加)

バヌアツ(2019年3月12日に追加)

巻末注

  1. 2017年12月6日付EY Global Tax Alert「Council of the European Union publishes list of uncooperative jurisdictions for tax purposes」をご参照ください。
    https://globaltaxnews.ey.com/news/2017-5007-council-of-the-european-union-publishes-list-of-uncooperative-jurisdictions-for-tax-purposes

  2. 2018年3月22日付EY Global Tax Alert「European Commission adopts first counter-measures on listed non-cooperative tax jurisdictions」をご参照ください。
    https://globaltaxnews.ey.com/news/2019-5653-european-commission-adopts-first-counter-measures-on-listed-non-cooperative-tax-jurisdictions

  3. 2019年12月12日付EY Global Tax Alert「EU Code of Conduct Group issues update report, including new guidance」をご参照ください。
    https://globaltaxnews.ey.com/news/2019-6576-eu-code-of-conduct-group-issues-update-report-including-new-guidance

  4. これは今後さらにEU加盟国27カ国とアイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェーで構成される欧州経済領域(EEA)に拡大されると見込まれます。

  5. 2021年9月28日付EY Global Tax Alert「EU Member States adopt public CbCR Directive」、2021年10月6日付EY Japan税務アラート「EU加盟国が国別報告書の開示指令を採択」をご参照ください。

お問い合わせ先

EY税理士法人

味田 貴志 パートナー
大堀 秀樹 ディレクター

※所属・役職は記事公開当時のものです



関連インサイト

EUにおける国別報告書(EU Public Country-by-Country Reporting:EU PCbCR)の開示に関する最新状況一覧

国別報告書(PCbCR)の開示に関する欧州連合(EU)指令は、一定の基準を満たす場合、本社の所在地に関係なく、EU域内で事業を営む全ての多国籍企業に適用されます。該当する企業は、法人所得税の納付額およびその他の税務・非税務関連情報の開示を求められます。

なぜ国別報告書(CbCR)の開示に注目すべきなのか

国別の税務情報の開示によって、企業グループに新たなリスクがもたらされようとしています。

仮想日本企業グループのCbCR開示に際しての影響度分析 ~日本企業がCbCRを開示すると、ステークホルダーからどのように評価され得るのか~

仮想日本企業グループの影響度分析において検出された事例を参考に、貴社グループのCbCRにあてはめて同様の事象がないかを確認し、ステークホルダーからの質問に説明責任を持って応じるために、事前の準備が重要となります。