英国新政権が秋季予算案を発表、未来を見据え大幅増税へ


  • 英国新政権が秋季予算案を発表し、大幅増税を打ち出した。特に国民保険料の雇用主負担率が引き上げられた。
  • 議会で同予算案を発表したリーブス財務相は、政府が経済の安定性回復のために投資し、その結果を出すことが、経済成長を推進する唯一の道だと述べた。
  • 予算決議が成立し、同予算案に盛り込まれた多数の措置を実施する2024~25年財政法案が11月7日に発表された。

10月30日、英国のレイチェル・リーブス財務相は秋季予算案を発表しました。同予算案において英国政府は経済の安定性の確保という政府目標を強調すると同時に、現議会の任期全体にわたる政府の成長プログラムを提示しています。

目玉となる諸措置は(いくつかのサプライズを除いて)おおむね予想どおりの内容でしたが、追加的な詳細を含む多数の補足文書が示されています。本税務アラートでは、同予算案で発表された重要な事項を要約してお伝えします。

事業者

事業者については、国民保険料の雇用主負担率が2025年4月6日から1.2%ポイント引き上げられて15.0%になるとともに、事業主適用賦課基準額(secondary threshold)が年間5,000ポンドに引き下げられます。雇用主控除(Employment Allowance)は年間1万500ポンドに引き上げられ、10万ポンドの基準額は廃止されます。

予想されたとおり、財務相は法人税に関するロードマップの公表を発表し、現議会の任期を通じて法人税率を25%に抑えることや、設備および機械に係る全額損金算入、100万ポンドの年間投資控除(annual investment allowance)、ならびに現行率の研究開発優遇措置を維持することを改めて確認しました。この法人税に関するロードマップでは、大規模な投資に先立ち、利用可能な税の確実性を高める新たなプロセスの策定も提案されています。またこれとは別に、複数の人が当該金融取決めをめぐり、共同で行為しているというだけの理由で移転価格法の適用範囲に含められている金融取決めに関する移転価格および事前確認制度の法律について、いくつかのテクニカルな改正が実施されます。

加えて政府は、開発前コスト(predevelopment cost)の税務上の取扱いを検討するため、および土地浄化優遇措置(land remediation relief)の有効性を確認するためのコンサルテーションを実施する予定です。また、英国の国際課税法における3つの要素(すなわち、移転価格、恒久的施設、迂回利益税〈diverted profits tax〉)を現代化および簡素化するための法律草案に関するテクニカルコンサルテーションも公表されます。さらに政府は、移転価格税制の適用範囲に含まれる事業者が特定のクロスボーダーの関連者間取引に関する情報を英国歳入関税庁(HMRC)に報告することを求める新たな提出義務に関するコンサルテーションを行うとともに、費用分担契約(cost contribution arrangement)の移転価格上の取扱いを再検討する予定です。

多国籍企業については、第2の柱の英国法において、ステークホルダーのコンサルテーションを踏まえ、英国法とグローバル税源浸食防止(GloBE)ルールのコメンタリーおよび運用指針の間における一貫性を維持するためのさまざまな改正が行われます。これには、ジョイントベンチャーに関するルール、2024年6月に公表された運用指針を実施するための改正、および2024年7月に公表された仲裁ルール草案(移行時の国別報告書〈CbCR〉セーフハーバーに導入予定)の軽微な改正が含まれます。また政府はここでも、第2の柱ルールに含まれる軽課税支払ルール(undertaxed profits rule:UTPR)が2024~25年財政法案に盛り込まれることを改めて確認するとともに、無形資産に係るオフショア受領(Offshore Receipts in Respect of Intangible Property:ORIP)規定が2024年12月31日以降に発生する所得について廃止される旨を表明しています。

エネルギー(石油・ガス)利得税(energy profits levy:EPL)は、税率を38%に引き上げたうえで2030年3月まで延長されます。また29%の投資控除が廃止される一方で、100%の初年度アローワンス(First Year Allowance)は維持され、脱炭素アローワンス(decarbonization allowance)率は66%に変更されます。これらの改正は2024年11月1日に効力を生じます。加えて政府は、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(carbon capture usage and storage:CCUS)活動における利用のために資産の譲渡を受ける廃止措置基金(decommissioning fund)に対して石油およびガス企業が行う特定の支払いを対象とした優遇措置を設ける予定です。この優遇措置では、当該資産が譲渡されずに廃止された場合に適用される税務上の取扱いが維持されます。また、石油およびガス企業がこれに関連して受領するCCUSの収入はEPLを免除されます。

さらに政府は、映画およびハイエンドTV企業を対象として、英国の視覚効果(visual effect:VFX)コストに対する39%の加重されたオーディオビジュアル支出控除(Audio-Visual Expenditure Credit:AVEC)を認める法律を導入する予定です。また、英国のVFXコストはAVECにおける適格支出の80%の上限を免除されます。これらの改正は、2025年1月1日以降に発生した支出を対象として、2025年4月1日に効力を生じます(2025年4月1日まで企業は控除を申請することができません)。また、VFXコストに対するこうした加重された優遇措置に加えて、AVECおよびビデオゲーム支出控除(Video Games Expenditure Credit:VGEC)に影響を及ぼす一連の小規模な手続き上の変更も行われる予定です。当該変更は特に英国の認証条件、未払金額、および規制策定手続きに関する規定に影響を及ぼすと思われますが、これらの規定はAVEC/VGEC法と従来の税制優遇措置を整合させるように設計されており、企業への影響は軽微と予想されます。

加えて政府は、英国を本拠とする新しい種類の投資ファンドであるリザーブド・インベスター・ファンド(Reserved Investor Fund:契約スキーム)の導入を推進しています。関連する規定により、共同所有認可契約スキーム(Co-ownership Authorized Contractual Scheme)に関する課税ルールについても軽微な改正が行われます。2次立法は2024~25年度末までに提案される予定です。また政府は特定の代替的金融課税ルールの改正も行っており、これにはキャピタルゲイン税、法人税、所得税、および居住用不動産に対する年次課税(annual tax on enveloped dwellings:ATED)が含まれますが、キャピタルアローワンスは含まれません。2024年10月30日から適用されるこの改正は、英国において代替的な金融取引を利用した場合と伝統的な金融取引を利用した場合の間で税務上の影響を一致させることを狙いとしています。

ビジネスレート(事業用資産税)については、小売、ホスピタリティおよびレジャー事業を対象として今後2つの恒久的な低税率が設けられ、短期的には2025~26年に1事業者当たり11万ポンドを上限とする40%の優遇措置が設けられます。

最後に、政府は従業員所有権信託(Employee Ownership Trust)および従業員給付信託(Employee Benefit Trust)に対する課税について一連の改革を導入する予定です。これらの改正は2024年10月30日に効力を生じます。

個人

個人については、サプライズのニュースとして、所得税の賦課基準額(独自の基準額を設けているスコットランドを除く)の据置きが2028年4月以降は継続されず、したがって2028年4月以降は基礎控除(personal allowance:英国全土で適用される)がインデックス化により引き上げられることとなりました。一方キャピタルゲイン税率は、2024年10月30日以降に行われる処分について、低税率が10%から18%へ、高税率が20%から24%へとそれぞれ引き上げられます。また、事業用資産処分優遇措置(Business Asset Disposal Relief)および投資家優遇措置(Investors' Relief)におけるキャピタルゲイン税率は、2025年4月6日以降に行われる処分については14%へ、2026年4月6日以降に行われる処分については14%から18%へと引き上げられます。加えて、投資家優遇措置の生涯上限額は、2024年10月30日以降に行われる適格処分について、1,000万ポンドから100万ポンドに引き下げられます。

また相続税(inheritance tax:IHT)も改正され、ゼロ税率の基準額が2030年まで据え置かれる一方で、相続対象の年金が2027年4月6日からIHTの課税範囲に含められます。さらに、農業用資産優遇措置(agricultural property relief:APR)および事業用資産優遇措置(business property relief:BPR)が2026年4月6日から改正され、これらの優遇措置に適格な金額のうち100万ポンドまでについてはIHTが課されない一方で、100万ポンドを超える金額は20%のIHT(50%の優遇措置に相当)の対象となります。ロンドン証券取引所AIMおよび類似の市場で保有する株式については、あらゆる状況で同様に50%の優遇措置が与えられます。これとは別に、APRは2025年4月6日から環境土地管理にも拡大適用されます。

加えて、欧州経済領域(EEA)およびジブラルタルで設定された適格認定海外年金制度(Qualifying Recognized Overseas Pension Scheme:QROPS)に対する移転について、当該加入者が英国またはEEA加盟国の居住者である場合、海外移転賦課金(Overseas Transfer Charge:OTC)からの除外を廃止することが提案されています。これにより、QROPSへの移転の英国における取扱いは、世界のその他の地域で設定された年金制度への移転の取扱いと整合するようになります。この措置は2024年10月30日に効力を生じます。

また政府は、2010年法人税法第455条における参加者への融資に対する課税の運用に関する新たな租税回避防止の法律、および有限責任パートナーシップの清算に適用されるキャピタルゲイン課税ルールを2024年10月30日から改正する法律の導入を発表しました。

最後に、オフショア利子に関する情報が英国の課税年度ベースではなく暦年ベースで提供されることによる不一致から生じる課題について検討したコンサルテーションドキュメントが公表されています。政府は、送金ベースが廃止されることでより多くの人々がこの問題の影響を受けるようになると指摘しています。

「非永住者(non-domicile)」ルールの改正

非英国永住者である納税者の取扱いの改正が2025年4月から実施される予定です。新たな居住地(residence)ベース制度を選択した個人は、入国前の連続する10年間のいずれの年にも英国の税務上の居住者でなかったことを条件として、税務上の居住における最初の4年間、外国所得・利益(foreign income and gains:FIG)に対して英国の税を課されません。この4年間のFIG制度に適格でない非永住者およびみなし永住者である個人は、委託者自益信託ストラクチャーにおいて生じる外国所得および利益に対する課税からの保護を利用できなくなります。

IHTについて、政府は2025年4月6日から新たな居住地ベース制度を導入する予定です。当該個人が直近の20年間で10年以上英国居住者であった場合、非英国資産はIHTの対象となります。

またキャピタルゲイン税について、現在および過去の送金ベースの利用者は、特定の条件を満たす場合、2017年4月5日までに個人で保有していた外国資産のベースを処分時の価額に調整することができます。

国外勤務日数控除(Overseas Workday Relief)は維持されたうえで改革が行われ、4年間に延長されるとともに、所得をオフショアに維持する必要性が排除されます。年間の控除金額の上限は、30万ポンドと当該従業員の純給与所得の30%のうちいずれか少ない方となります。

加えて政府は、一時的本国送金制度(Temporary Repatriation Facility)を3年間に延長し、適用範囲をオフショアストラクチャーに拡大し、ミックスファンドルールを簡素化します。また政府は、個人税のオフショア租税回避防止ルールにおける改善の余地のある分野を識別するため、根拠に基づく情報提供の照会(call for evidence)を公表しています。

キャリードインタレストの取扱いの改正

ファンド運用業界については、キャリードインタレストに適用されるキャピタルゲイン税率が2025年4月から32%に引き上げられるとともに、所得税の枠組み内でルールのターゲットをより適切に絞り込むべく、2026年4月からのさらなる改正が検討される予定です。この改正後の制度に盛り込むことのできる内容(特に最低共同投資要件、およびキャリードインタレストの付与から受領までの最短期間)に関するコンサルテーションが2025年1月31日まで実施されます。

印紙税

不動産については、2024年10月31日以降、追加的な住居(セカンドハウス)の購入時に課される土地印紙税(stamp duty land tax:SDLT)の税率が2%ポイント引き上げられて5%になります。50万ポンド超の住居を取得した会社および非自然人に課されるSDLTの一律税率は15%から17%に引き上げられます。

また政府は、非上場株式における新たな断続的非上場有価証券および資本取引所システム(private intermittent securities and capital exchange system:PISCES)を提案しています。このシステム内で断続的に売買される非上場株式には、印紙税(stamp duty)または印紙保留税(stamp duty reserve tax)が課されません。これは英国における将来的な新規株式公開のパイプラインを充実させることを目的としています。このシステムを導入する権限が2024~25年財政法案に盛り込まれる予定です。

間接税およびその他の税

政府は英国版炭素国境調整メカニズム(Carbon Border Adjustment Mechanism:CBAM)が2027年1月1日に導入されることを確認しました。英国版CBAMでは、英国に輸入されるカーボンリーケージのリスクのあるアルミニウム、セメント、肥料、水素および鉄鋼セクターの物品に対して炭素価格が課されます。すでに提案されていたとおり、ガラスおよびセラミックセクターの製品は2027年からの英国版CBAMの適用範囲に含まれません。また、5万ポンドの登録基準額が設定される予定です。

HMRCおよび英国財務省は、CBAM業界ワーキンググループの設置を通じて、英国版CBAMで特に大きな影響を受けるセクターおよび業界を代表する重要なステークホルダーとの関与を継続する方針です。HMRCは英国版CBAMの法律草案を議会への提出に先立って公表する意向です。

もう1つの重要な動向は、英国における電子インボイス(eインボイス)の導入について検討するためのコンサルテーションが2025年の早い時期に公表される旨が確認されたことです。未来に適合したデジタル付加価値税(VAT)制度を政府が確立しようとするのであれば、英国におけるeインボイスの導入は、VATのギャップを埋める鍵となり得る極めて重要な一歩です。

その他の間接税の動向として、財務相は私立学校の学費に対するVATが2025年1月1日から導入されることを確認するとともに、私立学校のビジネスレートの減免を2025年4月から廃止するための法律が提案されると発表しました。

また政府は、遠隔賭博(すなわち、インターネット、電話、テレビおよびラジオを通じて提供される賭博)に対して3つの税制を適用する代わりに一本化された単一の税を課す提案に関するコンサルテーションを来年行う予定です。これの目標は、制度を簡素化し、将来性を確保し、抜け穴を塞ぐことです。

加えて財務相は、航空旅客税(air passenger duty)、プラスチック製包装税(plastic packaging tax)、および清涼飲料水業界税(soft drinks industry levy)の引上げを発表しました。2026年10月からは新たなベイピング(蒸気吸入)税(vaping duty)が導入され、かつたばこ税(tobacco duty)の1回限りの税率引上げが行われます(これらの措置はその他のたばこ税率引上げに上乗せする形で実施されます)。さらに財務相はドラフト税(draught duty)に関するアルコール税(alcohol duties)の引下げを発表するとともに、燃料税(fuel duty)の引上げが2025年中に行われないことを確認しました。

税務行政およびその他の動向

HMRCのコンプライアンス活動をめぐり、財務相はHMRCのシステムの現代化および新規職員の採用を約束しました。政府は2029~30年までに5,000人の追加的なコンプライアンス職員の採用完了を目指しており、最初の200人が2024年11月に入庁します。加えて、2025年2月までに600人の追加的な債務管理職員が採用される予定です。

予算案において発表されたHMRCのシステムおよびデータへの投資に盛り込まれている事項は、租税債務の照会の処理を高速化すべくHMRCの債務管理ITシステムを現代化すること、自己査定税務申告書に児童手当データを自動入力させること、個人貯蓄口座(Individual Savings Account)プロバイダーの報告要件を更新すること、HMRCアプリを通じた任意の自己査定予定納税を現代化すること、現行のIHT行政システムをオンラインのデジタルプラットフォームに置き換えること、およびHMRCが債務回収活動のターゲットをより適切に絞り込めるよう、さらなる信用照会機関データを取得することです。

未納付の租税債務に対する利率は引き上げられます。HMRCは販売される租税回避スキームのプロモーターをターゲットとして狙うと思われます。

また、労働サプライチェーンにおいて労働者を就業させるためにアンブレラ企業が利用される場合において、源泉徴収(pay-as-you-earn:PAYE)対象労働者について説明する責任を負う者が法律に基づき変更されます。PAYEの運用に責任を負うのは、労働者を最終顧客に供給する人材派遣会社です。派遣会社が存在しない場合は、最終顧客が当該責任を負います。この措置は2026年4月に効力を生じます。

HMRCの更正権限の改革をめぐり、政府はHMRCの既存の権限およびプロセスの変更について検討するとともに、誤りを納税者が自ら修正するよう求める新たな権限の付与の可能性について検討するためのコンサルテーションを公表しました。また政府は、非コンプライアンスを促進する税務アドバイザーに対して、より迅速かつ強力な行動を取ることができるよう、HMRCの権限および制裁措置を強化するための選択肢に関するコンサルテーションを、2025年の早い時期に公表する予定です。

HMRCは、経済協力開発機構(OECD)の共通報告基準(Common Reporting Standard:CRS〈HMRCは現在この仕組みによって100カ国超の約900万件の銀行口座から情報を受け取っている〉)に基づく国際的な情報共有のサポートを更新しました。またHMRCはCRSデータ報告を怠った場合のペナルティ制度を強化する意向です。加えてHMRCは、暗号資産を対象としたCRSに類似の制度である暗号資産報告フレームワーク(Crypto Asset Reporting Framework:CARF)への参加に向けて尽力しており、2027年までにCARFおよびCRSに基づいて情報を交換することを視野に入れています。英国におけるCARF、およびCRSの変更は、2026年1月1日から実施されます。

最後に、予想されたとおり、政府はイーストミッドランズ・インベストメントゾーン(East Midlands Investment Zone)が承認されたと発表しました。同インベストメントゾーンでは政府の資金調達枠を使用してグリーン産業および高度な製造業の成長が推進されます。また政府は、既存のフリーポート(すなわち、政府が割り当てた経済特区)内で近日中に5つの新たな関税サイト(customs site)が指定される予定であることを確認しました。
 

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