EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
欧州委員会は2024年10月28日、行政協力指令(理事会指令2011/16/EU、通称DAC)の第9次改正を目的とする法案(および付属文書)を公表しました。
今回の改正の主な目的は、GloBE情報申告(GIR)をEUの法律に反映させ、ミニマム課税指令の第44条(3)のもと想定されている追加課税情報申告を介した一括申告を可能にするという点にあります。
これを達成するために今回の提案は:
また同書式の狙いは、納税者に同じ形式で同じ情報を提出させることで、納税者による申告義務の履行および税務当局による申告内容の評価・共有を容易にすることにあります。
今後は、EU理事会にて改正案について協議がなされます。同指令の採択には、全27加盟国の全会一致が必要です。採択されると各加盟国は、最初の申告期限を2026年6月30日として、DAC9に基づくルールを2025年12月31日までに国内法制化する必要があります。
EU加盟国は2022年12月15日、欧州連合内のMNEグループおよび大規模な国内企業グループに対するグローバル・ミニマム課税に関する指令(ミニマム課税指令)を全会一致で採択しました。EU加盟国は、2023年12月31日以降に開始する会計年度をルール適用初年度として、2023年12月31日までにミニマム課税指令を国内法制化しなければならないとされていました(軽課税所得ルール〈UTPR〉を除く。同ルールについては、2024年12月31日以降に開始する会計年度がルール適用初年度とされている)。1
ミニマム課税指令の第44条に、追加課税情報申告書として対象事業体の申告義務が定められています。追加課税情報申告書は、標準テンプレートを用いて、指定のデータを含めたうえで提出しなければなりません。第44条のもとでは、申告に際して2つの選択肢が用意されています:
OECDは2023年7月17日、税務当局がリスク評価を実施し、GloBEルールに基づく構成事業体の追加課税額の正確性を評価するために必要と考えられる情報が含まれた、GIR標準テンプレートを公表しました。2
また、OECDは2024年7月10日から8月19日にかけて、extensible mark-up languageでのスキーマ(GIRXMLスキーマ)、各国でのGIRの提出を容易にするための同スキーマユーザーガイド、税務当局間にてGIR情報を共有するための技術規格についてパブリックコンサルテーション3を行ないました。
DAC9は、第44条にて想定されている追加課税情報申告にてGIRに対応することでGIRをEUの枠組みに反映し、標準テンプレートと関連規定がOECDのガイドラインに準拠し、かつ、EU加盟国の間で統一性をもって実施されることを図っています。
今回の提案はまた、加盟国間での追加課税情報申告の共有を促進し、かつMNEが国ごとの申告から一括申告へ切り替えることを可能にする枠組みも定めています。同枠組みには、関係する全加盟国が、OECDの枠組みに沿ってMNEにおける役割に応じて必要な情報を必ず受け取れるようにする「情報共有」アプローチが組み込まれています。EU非加盟国(EU域外の国・地域)と情報交換をするには、加盟国はそれらの国・地域と然るべき国際協定を締結しなければなりません。DAC9によると、提案されているEUのルールは、EU域外の国・地域との情報交換を規定するルールと整合しており、円滑な運用の確保と事務負担の軽減が図られています。
1. 第8条ae:追加課税情報申告の共有のための枠組み
DAC9は、DACの枠組みに第8条aeを組み込み、ミニマム課税指令第44条のもと義務付けられている追加課税情報申告の共有を目的とする枠組みを定めています。なお第44条は第3項にて、MNEグループの最終親会社等(UPE)または指定された申告事業体が一括申告をできる旨を定めています。
第8条aeによると、各加盟国は、自己の法域に所在するMNEグループのUPEまたは指定された申告事業体に、新たに追加された付属文書VII(下記参照)のセクションIIIに定められている標準テンプレートを用いて追加課税情報申告書を提出するよう要求しなければなりません。
加盟国は、ミニマム課税指令第44条(7)および第51条に従って、報告事業体が報告対象会計年度の末日後15カ月以内に追加課税情報申告書を提出できるようにする必要があります(ただし、最初の報告対象会計年度については、報告対象会計年度の末日後18カ月以内に提出すれば足りる)。
加盟国において追加課税情報申告書を受け取る権限がある当局は、OECDの想定する情報共有アプローチに従って他の加盟国と当該情報を自動的に交換しなければなりません。実施加盟国(Implementing Member State)は、同アプローチのもと自国に関係するデータを受け取ります。
情報共有アプローチに基づく他の加盟国との情報交換は、その報告対象会計年度の提出期限後3カ月以内になされる必要があります。ただし、適用初年度に関しては、情報交換の期限は申告期限後6カ月です。
同指令の序文に、EU域外の国・地域との情報交換に関して、加盟国は然るべき国際協定を締結する必要があると明記されています。
2. 第9条a:追加課税情報申告書の修正とコンプライアンス
第9条aは、追加課税情報申告の修正、コンプライアンス、および執行に関する加盟国間の連携手続を定めています。加盟国において権限がある当局が、他の加盟国からの追加課税情報申告において誤謬を特定した場合においては、当該の他の加盟国において権限ある当局へ通知しなければなりません。その上で他の加盟国において権限がある当局は、申告事業体から正しい追加課税情報申告書を取得すべく然るべき措置を講じ、加盟国の権限がある関係当局と共有しなければなりません。さらに、申告書が期限までに共有されなかった場合においては、その旨通知を受けた当局は遅延の理由を特定し、1カ月以内に通知する当局へ報告しなければなりません。また該当する場合は、情報交換予定日も併せて報告する必要があります。
他の加盟国の権限がある当局への情報伝達は、2026年1月1日までに実施規則を通じて欧州委員会が策定する予定の標準電子書式を用いて行います。
3. その他の変更
追加課税情報申告の実施以外にも、DACの枠組みに係る他の変更も今回の提案には盛り込まれています。例えば、報告事業体が情報交換の対象である納税者の納税者識別番号(TIN)の有効性を電子的に確認できるよう加盟国に要求すべく、第22条に変更が加えられています。また、第8条aeに関係する国内規定の違反に対する効果的かつ相応で、抑止力がある罰則を定めるよう加盟国に義務付けるために、第25条aに補足が加えられています。
次に掲げる内容を網羅する付属文書VIIをDACへ追加することが提案されています:(i)当該付属文書およびDACの関係する条項にて使用される用語の定義、(ii)MNEの提出事業体に適用される提出ルールの説明、(iii)追加課税情報申告書の内容(OECDが策定したGIRに完全に整合するとされています)。
セクションIIIに、MNEが情報を提出する必要がある情報として次の項目が含まれています:
欧州委員会は、国際レベルにて今後何らかの改訂について合意が形成されたときは、それを反映するために委託法令(delegated act)により追加課税情報申告を修正することができます。
欧州委員会の本提案は今後、租税問題に関する特別立法手続を踏むことになり、欧州議会との協議ならびに欧州理事会での全27EU加盟国による全会一致が必要になります。初回の追加課税情報申告書を2026年6月30日までに提出する必要がある点を鑑みると、加盟国が国内法制化を進めるに足る時間的余裕が与えられるよう、比較的早い時期に採択されると予想されます。
理事会によるDAC9の正式な採択を経て、EU加盟国は、ミニマム課税指令の適用を先送りすることを選択した国を含め、2025年12月31日までにこれらルールの国内法制化をしなければなりません。
また欧州委員会は、自動的情報交換を目的とする、言語上の取り決めを含む標準電子書式を定めた実施規則を採択することが予想されます。今回の指令案はまた、国際レベルにて今後何らかの改訂について合意が形成されたときは、それを反映するために欧州委員会により委託法令を通じて追加課税情報申告が修正され得る旨も提案しています。
追加課税情報申告により、企業がミニマム課税指令を遵守するために収集し申告する必要がある膨大な量のデータが浮き彫りになりました。
DAC9はEU域内での情報交換を促進するにとどまる点に注意する必要があります。EU域外の国との情報交換がいつ、どのような手続きになるか、現在のところ明らかになっていません。
企業においては、今回の指令案の採択に至るまでの立法手続を注視する必要があるでしょう。EU理事会での協議にて変更が加えられる可能性もあります。企業は、追加課税情報申告に求められる全てのデータを特定し作成するのに必要となるであろう会計およびITシステムへの変更も検討すべきです。また、GIRや追加課税情報申告制度を導入する関連国・地域がとるアプローチ、および現在公表されつつある各国の国内申告手続も注視する必要があります。
巻末注
EY税理士法人
須藤 一郎 パートナー
関谷 浩一 パートナー
大堀 秀樹 ディレクター
工藤 保浩 ディレクター
※所属・役職は記事公開当時のものです
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