オーストラリア、グローバル・ミニマム税と国内ミニマム税を導入する法案を可決

  • オーストラリア議会は、経済協力開発機構(OECD)/G20の2本の柱に基づく解決策のうち、第2の柱を国内法に導入するための法案を可決した。
  • この立法により、2024年1月1日以降に開始する事業年度から所得合算ルール(IIR)と国内ミニマム税(DMT)が適用され、また2025年1月1日以降に開始する事業年度からは軽課税所得ルール(UTPR)も適用される。
  • 対象となる多国籍企業に対し、グローバル税源浸食防止(GloBE)情報申告書、オーストラリアGloBE税務申告書(Australian GloBE Tax Return)、DMT申告書の3つの新しい申告書を、定められた様式でオーストラリア国税局(ATO)に提出することが義務付けられた。既存の税務会計基準には、第2の柱に関する新たな財務報告の開示要求も追加する修正が盛り込まれた。


エグゼクティブサマリー

オーストラリア議会は、OECD/G20の2本の柱による解決策のうち、15%のグローバル・ミニマム税とDMTを含む第2の柱を国内法に導入するための法案を可決しました。これは、OECDの第2の柱に基づく、グローバル・ミニマム税の解決策導入に向けた、オーストラリアの取り組みにおける重要なマイルストーンを反映しています。対象となるグループは、この新法の結果として要求される財務報告およびコンプライアンス上の義務に備える必要があります。

これに先立ち、2024年3月にパブリックコンサルテーション用の公開草案が公表され、2024年7月に法案が議会に提出されました。法案は現在、連邦総督の裁可を待っています。

一次立法は、次の3つの法案で構成されています。

  1. 租税(多国籍 — グローバル・ミニマム税およびDMT)法案2024(査定法案)
  2. 財務省法改正(多国籍 — グローバル・ミニマム税およびDMT)(付随)法案2024(付随法案)
  3. 租税(多国籍 — グローバル・ミニマム税およびDMT)課税法案2024(課税法案)

査定法案には、2024年1月1日以降に開始する事業年度に適用されるIIRを通じたトップアップ税とDMTの課税、2025年1月1日以降に開始する事業年度に適用されるUTPRなど、グローバル・ミニマム税とDMTの主要な側面が含まれています。IIRとDMTは、2024年1月1日以降に開始する事業年度から遡及的に適用されます。2024年1月1日からの遡及適用は、OECDの規定と一致しています。

付随法案には、対象となる多国籍企業グループ(MNEグループ)がオーストラリアで提出を義務付けられる新たな申告書の作成など、トップアップ税の執行を容易にするための付随規定および雑則が含まれています。

オーストラリアの第2の柱ルールの大半は、二次立法に含まれています。規則形式の二次立法は、OECDのモデルルールに沿った主要な運用規定で構成されており、移行期国別報告(CbCR)セーフハーバーも含まれます。これらの規則は、大臣による署名が必要な立法文書で、2024年12月31日までに署名される可能性があり、2025年の次期議会で審議される予定です。これらの規則も、2024年1月1日以降に開始する事業年度から遡及的に適用されます。

オーストラリアの第2の柱ルールは、判定年度の直前の4事業年度のうち少なくとも2事業年度において連結年間収入が7億5,000万ユーロ以上のMNEグループに適用されます。これは、OECDモデルルールに沿ったものとなっています。

証券化ビークルに関する修正

法案が上院を通過する前に、若干の修正が行われ、証券化事業体(Securitization Entity)の定義が含められました。修正では、証券化事業体は、前述の規則で規定された意味を持つとされています。さらに、付随法案にも、他のグループ事業体のトップアップ税に対する連帯責任が証券化事業体に及ばないようにするための修正が加えられました。

これらの修正は、2024年6月に公表されたOECD執行ガイダンス(Administrative Guidance)との整合を図り、オーストラリアのDMTが自己認証プロセスと包摂的枠組みのメンバーによるピアレビュープロセスを通じて適格ステータスを達成できるようにするために必要とされました。上院では、法案に対する他の実質的な修正はありませんでした。

これらの政府修正を受け、法案は上院を通過した後、下院に差し戻されました。下院は2024年11月27日に修正法案を可決しました。

財務報告への影響

2023年6月、オーストラリア会計基準審議会は、AASB 2023-2「オーストラリア会計基準改正 — 国際税制改正 — 第2の柱モデルルール(Amendments to Australian Accounting Standards — International Tax Reform — Pillar Two Model Rules)」(改正基準)を公表しました。改正基準は、第2の柱から生じる繰延税の会計処理に強制的な一時的例外措置を導入し、第2の柱から生じる法人所得税に対する企業のエクスポージャーに関する開示を要求しています。この開示には、第2の柱に関する法律が適用される期間における、第2の柱の法人所得税に関連する当期税金費用(収益)の個別開示が含まれます。

対象となるグループは、第2の柱に基づき要求される財務報告義務に備える必要があります。これには、2024年12月31日現在の通年または期中報告のためにどのような開示を行う必要があるかを判断するために、第2の柱の潜在的影響について詳細な評価を実施することも含まれます。

ATOのコンサルテーションと執行

ATOは、第2の柱の措置導入の執行面について協議し、フィードバックを求めるために特別目的作業部会を設置しました。現在までのところ、作業部会の会合では以下の事項が協議されました。

  • 提出義務、記録保持要件、ペナルティ、租税債務と納税、利子税、査定、異議申立手続、審査請求権などの新たな執行上の義務の概要
  • GloBE情報申告書(GIR)、外国提出通知書(Foreign lodgment notification)、オーストラリアIIR/UTPR税務申告書(AIUTR)、国内ミニマム税申告書(DMTR)など、現在策定中の様式に関するフィードバック
  • トップアップ租税債務がゼロとなる場合に特定の様式への記入が必要となる状況と、新たな提出義務に関しATOのガイダンスが有用となると思われる側面
  • グループ事業体、構成事業体、最終親会社、恒久的施設、共同支配企業など、企業が対象となるかどうかを確認するために用いられる定義と主要用語
  • 年金基金、年金サービス事業体、投資ファンド、不動産投資ビークル、政府事業体、非営利団体など、除外事業体に関連する用語の定義
  • ハイブリッド・ミスマッチルール、外国ハイブリッドルール、外国所得税相殺(FITO)、被支配外国法人、フランキングクレジット、租税条約に関する、第2の柱と既存のオーストラリア国内の税法との相互関係
  • 後日納付した外国適格国内ミニマムトップアップ税(QDMTT)に関する法人税申告書でのFITOの請求時期の問題と、被支配外国会社または恒久的施設に帰属する外国所得に関して納付した外国QDMTTに対する適切なFITOの額の請求における実務上の問題

特別目的作業部会の成果と次のステップには、以下が含まれます。

  • 共同支配事業と共同支配企業に対する第2の柱の潜在的影響に関する幅広いセッションの実施
  • 作業部会メンバーからのフィードバックとこの措置の実施の一環として取られた措置を明確にする重要事項登録簿の作成
  • 二次立法の公表に応じた、今後のセッションの実施

予想される影響

第2の柱に関する立法の通過は、OECDの第2の柱に基づく、グローバル・ミニマム税の解決策導入に向けたオーストラリアの取り組みにおける重要なマイルストーンを反映しています。これは、オーストラリアを本拠とするMNEグループとオーストラリアに拠点を持つ外国グループにとって、新たな財務報告およびコンプライアンス上の義務に対応するべく、第2の柱の影響評価と導入プロジェクトを進めるために必要な確実性を与えるものとなります。

 

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