米国財務省とIRSが、CFCの「合算課税済み留保所得」規則草案をついに発表

2024年12月2日、米国財務省と内国歳入庁(IRS)は、外国子会社(Controlled Foreign Corporation:CFC)の「米国側で合算課税済みの留保所得」(Previously Taxed Earnings and Profits:PTEP)に関連する包括的な規則草案(REG-105479-18)を発表しました。この待望の規則草案は1965年以来初めてのPTEP規則の大幅な更新となります。規則草案は、2017年のTax Cuts and Jobs Act(TCJA)によって導入されたPTEPを取り巻く新たな複雑性ばかりでなく、PTEPやCFC株式税務簿価の考え方に従来から存在した不明点の解消双方に対応しています。規則草案は限られた取引に関してCFC以外の外国法人(例:100%配当所得控除適用が認められる米国法人に10%所有される外国法人)にも適用されるルールも規定していますが、ここでは簡易的にCFCという用語で統一します。

特筆すべき規則草案の成果の1つに、CFC株式を所有するパートナーシップの取り扱いが明確化された点が挙げられます。パートナーシップが所有するCFCに関してパートナーの米国株主側で合算課税が生じた際、当合算課税額に関してパートナーシップが所有するCFC株式税務簿価の増額がパートナーシップに認められるか否かは長年にわたり不明確な検討となっていました。CFC株式税務簿価の増額が認められない場合にはパートナーシップによるCFC株式売却時に二重課税が生じるリスクがある等の不確実性が指摘されていました。規則草案ではパートナーの米国株主による合算課税に伴い、パートナーシップが所有するCFC株式の税務簿価が増額する点を確認しており、パートナーシップおよびパートナーに初めて予見可能な課税関係を提供しています。したがって当規則の対象となるパートナーシップおよびパートナーは後述の規則草案の早期適用を検討することができます。

このようなメリットも見受けられる一方で、規則草案に基づきPTEPアカウントおよびCFC株式税務簿価を管理・維持する負荷は高く、規則草案にネガティブな反応を示している納税者も少なくありません。さらに、規則草案は、(1)CFCが交付する全株式、(2)複数の主体を介した所有権、および(3)連結納税グループのメンバー法人株主間でPTEPを共有する取り扱いを規定している反面、合算課税による株式税務簿価調整は特定の株式単位で行う必要があり調整の共有は認めていません。この取り扱い不一致により思わぬ所得認識が発生する可能性があります。さらに、Upper-Tier CFCのLower-Tier CFC株式税務簿価調整またはパートナーシップが所有するCFC株式に対する派生税務簿価調整ルールは、非課税再編やその他の予期せぬ状況において、所得認識を引き起こす可能性があります。負荷の高さと相まってこのような納税者に不利な取り扱いとなるリスクが存在することから最終化前に規則草案を早期適用する納税者は限定的だと思われます。

2025年の政権交代、共和党議会による税制改正議論の可能性を考えると、規則草案がいつ最終化されるか、また、最終化の際に大幅なルール変更が行われるかどうかは不明です。


背景

PTEP制度はもともと、合算課税制度を通じて、すでに米国で課税されているCFC留保所得に対する二重課税を防止するために設計されました。米国株主が従来のCFC合算課税制度(サブパートF)またはGlobal Intangible Low-Taxed Income(GILTI)に基づいてCFCの所得を合算する場合、その後に行われるこれらの課税済み所得、すなわちPTEPの分配は、受け手の米国株主側の所得から除外されるのが原則です。米国株主はCFC株式の税務簿価を合算時に増額、分配時には減額させ、二重課税および不適切な税制上の便益を防いでいます。

PTEPは従来から存在し、もともと複雑でしたが、TCJAの可決によりPTEPの取り扱いは劇的に複雑化したと言えます。すなわち2017年末制度移行時の外国留保所得一括課税により多額のPTEPが発生、新設のGILTIを通じてサブパートFとは比較にならない広範なPTEPが毎期発生、外国税額控除の適用時や合算時と分配時の為替差損益の取り扱い時に異なる取り扱いが適用される新たに細分化されたPTEPカテゴリーの創出、PTEPではない留保所得に一定要件下で100%配当所得控除新設、等の新制度はPTEPの範囲と複雑さを拡大しました。これらの進展により1965年規則の早期現代化が重要課題となっていました。

これらの複雑な検討進展のいくつかは、Notice 88-71、2019-01、2019-02で特定の項目に関して対処が行われてきましたが、あくまで断片的なものでした。規則草案は、PTEPアカウントの計算・トラッキング、CFC株式税務簿価調整法、為替差損、等を直接・間接CFC所有ストラクチャーを含む多岐にわたる課題に対して総合的なルールの策定を試みています。


PTEPアカウントと関連属性

PTEPアカウントの正確なトラッキングは、(1)為替差損益の計算、(2)為替差損益の適切な外国税額控除バスケットへの帰属判断、および(3)PTEP分配時に適用される間接外国税額控除の算定法など、複数の目的にとって重要です。規則草案は、PTEPのトラッキングについて米国株主レベルとCFCレベルの2段階システムを確立しています。米国株主は、10種類のPTEPグループについて、課税年度ごとおよび外国税額控除バスケット別にPTEPをトラッキングし、年間PTEPアカウントを維持することが求められます。並行して、CFCは、各米国株主のPTEPアカウントに対応する法人レベルのPTEPアカウントを維持することになります。双方とも、各カテゴリーのドルベース・プール(為替差損益計算用)および外国税金プール(外国税額控除用)をトラッキングします。これらのプールは課税年度単位の管理が原則ですが、納税者の選択で、外国税額控除バスケット内で課税年度をまたいでプールを合算管理することができます。

規則草案には、調整タイミングや優先順位に関するルールも含まれています。特に、PTEPアカウントの調整は、課税年度の開始時、課税年度の終了時、および特定の取引が発生した時の3つの異なる時点で行うことになります。合算課税に伴うCFC株式増額調整は、通常、PTEPアカウント調整と同時に行われます。サブパートF所得またはGILTIの合算そのものは課税年度末に発生しますが、合算に起因するPTEPアカウントの増加および対応するCFC株式簿価増額調整は課税年度開始時に発生したと取り扱われます。その結果、当年度のPTEP分配は、一般的には当PTEPによる株式税務簿価を超過することはなく、当年度PTEP分配によりみなし株式譲渡益が発生するリスクは払拭されています。

さらに2019年Noticeで規定されていた通り、規則草案は、一般的にPTEPの分配を後入れ先出し方式で取り扱いますが、2017年の留保所得一括課税に基づくPTEPは、優先して最初に分配されたものと取り扱われます。


PTEPの米国株主配分に関する新ルール

規則草案は、Upper-Tier CFCがLower-Tier CFCから受け取るPTEP分配をUpper-Tier CFCのサブパートF所得計算時にどのように取り扱うかという点を根本的に見直しています。規則草案はUpper-Tier CFCが受け取るPTEP分配等の一定の取引に関して、実際に該当PTEPを合算した米国株主とそうではない米国株主を参照して、Upper-Tier CFCのサブパートF所得を特定の株主に割り当てるものです。この個別株主別アプローチは、Revenue Ruling82-16で表明されていた事業体レベルの「グロスアップ」メカニズム、すなわちUpper-Tier CFCレベルでは過去に合算課税の対象となった米国株主を特定して参照することなくPTEPを生み出した所得は全額サブパートFから除外するアプローチ、に代わるものであり、PTEPの便益が適切な株主にのみ適用されることを確実にしようとするものです。


合算課税に基づくCFC株式税務簿価調整

規則草案は、PTEPの二重課税と不適切な税制上の便益を防止するために、CFC株式税務簿価調整に関する包括的なルールを規定しています。CFC株式税務簿価調整の基本的な目的は、サブパートFまたはGILTIに基づいて合算課税される金額をCFC株式税務簿価増加させ、未分配のPTEPが株式価値に反映されている状態で二重課税を防ぐことです。同時にPTEP分配時には非経済的な損失の認識を防止するためにCFC株式税務簿価を減額します。

CFC株式税務簿価の増減を規定している条文は、米国株主がUpper-Tier CFCを通じてLower-Tier CFC株式を所有している場合、上述の増減メカニズムと同様の「調整」を、Lower-Tier CFC株式の税務簿価、およびUpper-Tier CFCの株式税務簿価に対して行うと規定していますが、同条文は当調整はあくまでLower-Tier CFC株式譲渡益に関するサブパートF所得算定目的に限定適用すると規定しています。規則草案は、サブパートF所得算定目的に加えGILTI目的でも当簿価調整を適用する点を明確化し、GILTI導入以降くすぶっていた根本的な不確実性に対処しています。さらに、当簿価調整でサブパートFおよびGILTI対象とならない譲渡益そのものもPTEPとして扱われ、簿価調整の基となるPTEPの性格を反映することになります。加えて、簿価調整を適用して算定されるLower-Tier CFC株式譲渡益は、対象となる株主の合算課税額を決定する目的でのみ適用され、サブパートFおよびGILTI算定時のCFCの総所得やE&Pには影響を与えないと規定されています。

また、規則草案は、3つの異なる税務簿価区分を設定します:(1)米国株主が直接保有するCFC株式およびCFCを所有するパートナーシップ持分簿価。当簿価は個々の株式ごとに厳格に適用され、共有が許されない。(2)パートナーシップが所有するCFC株式の派生税務簿価。パートナーの米国株主に特定の金額でマイナスになる可能性がある。および(3)Upper-Tier CFCが所有するLower-Tier CFCの株式税務簿価。当簿価も米国株主が維持する。(1)の個々の株式ごとに簿価を管理するアプローチは、PTEP自体は共有されるルールと組み合わせて適用する場合、予想外の所得認識をもたらす可能性があります。さらに、派生税務簿価とUpper-Tier CFCが持つLower-Tier CFC株式税務簿価は、双方とも、次の2つのシナリオにおいて所得認識を引き起こす可能性があります:(1) PTEPの分配により、派生簿価またはLower-Tier CFC株式簿価がマイナスとなり、マイナス額がそれぞれ対象米国株主パートナーシップ持分またはUpper-Tier CFC株式の税務簿価を上回る場合、および(2)派生簿価またはLower-Tier CFC株式簿価がマイナスの状態で、組織再編またはCFC株式譲渡などの特定のトリガーイベントに遭遇する場合。IRCセクション961(c)の基礎Lower-Tier CFC株式簿価から生じた損失は原則、他の所得と相殺は認められません。


連結グループ

連結グループについては、規則草案はPTEPとCFC株式税務簿価に対してハイブリッドアプローチを採用しています。連結納税グループは、PTEPアカウントの目的では、単一の対象株主として取り扱われ、グループ内メンバー法人が所有する各外国法人ついて単一の年間PTEPアカウント、ドルベース・プール、およびPTEPタックス・プールを維持します。この単一事業体の扱いは、CFCを所有するメンバーを操作等することでPTEPの属性を操作することを防ぎます。一方、CFC株式税務簿価に関しては、メンバー間の税務簿価シフティングを防止するため、規則草案では、各メンバーが直接保有する株式やパートナーシップ持分の個別の税務簿価に基づき課税関係を決定します。したがって、PTEPの分配は、グループ内に十分な税務簿価を持つ他のメンバー法人が存在したとしても、分配を受けた特定のメンバー法人が持つCFC株式税務簿価が不十分であった場合、PTEP分配が簿価を超えて譲渡益が認識される可能性があります。


適用日と移行ルール

規則草案には複数の発効日があります。Notice 2019-01ですでに規定されているPTEP分配非課税にかかわる特定の中核的な規定は、2018年12月14日以降に終了する年度にさかのぼって適用されます。他のほとんどの規定は、規則最終化後に開始する事業年度から適用されますが、納税者が一貫したルールを適用し、時効期限を迎えていない事業年度がある場合には、早期適用を選択することができます。規則草案には、規則導入時の期首アカウント残高と税務簿価金額の確定、以前に公表されているパートナーシップが所有するCFCの取り扱い変更等、に関する詳細な移行ルールが含まれています。

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EY税理士法人

秦 正彦 シニア・テクニカル・アドバイザー
金谷 雅子 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです