トランプ大統領、世界各国からの輸入品を対象とする相互関税の導入を発表―大部分につき90日間停止

トランプ大統領は、2025年4月9日、同年4月2日に発表した米国への輸入品に対して相互関税を課す大統領令(Regulating Imports with a Reciprocal Tariff to Rectify Trade Practices that Contribute to Large and Persistent Annual United States Goods Trade Deficits)1とその詳細を記したファクトシート(Fact Sheet: President Donald J. Trump Declares National Emergency to Increase our Competitive Edge, Protect our Sovereignty, and Strengthen our National and Economic Security) 2の大部分を、90日間停止することを発表しました3

相互関税政策は、米国の貿易相手国による関税・非関税障壁の存在と互恵性の欠如により米国の大幅な貿易赤字が生み出され、米国製造業の衰退やサプライチェーンの脆弱化が促進され、その結果として米国の安全保障が脅威に晒されていることを理由とする措置であり、IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づいた対応となります。

トランプ大統領は、中国の措置に対抗すべく、4月8日と4月9日に同政策に修正を加えました。

修正内容を踏まえた具体的な関税措置の内容は以下の通りです。

  • 米国に輸入される全ての国の貨物に対して10%の関税を課す(4月5日より適用開始)。
  • 【修正】米国が貿易赤字を抱えている国として指定した国に対して個別に設定された料率4に基づく関税、中国を除き90日間停止する(4月10日より適用開始)。
  • 【修正】中国製品に対する関税を34%から125%に引き上げる。
  • 【修正】中国本土および香港から到着する800米ドル未満の郵便物に対するデミニミス関税を以下の通りとする。
    1. 2025年4月8日以降、従価税を90%から120%に引き上げる。
    2. 2025年5月2日から6月1日午前12時01分(東部夏時間)前まで、1アイテム当たりに課す関税を75米ドルから100米ドルに引き上げる。
    3. 2025年6月1日午前12時01分(東部夏時間)以降、1アイテム当たりに課す関税を150米ドルから200米ドルに引き上げる。
  • 以下の製品については相互関税の対象外とする。
    • 通商拡大法第232条の関税の対象となる鉄鋼・アルミニウム製品および自動車・自動車部品
    • Annex IIに列挙される貨物(銅、医薬品、半導体、木材製品、特定の重要鉱物、エネルギー・エネルギー製品)5
    • 将来、通商拡大法第232条関税の対象となる物品
    • 地金
    • 米国では入手できないエネルギーおよびその他の特定鉱物
    • IEEPA 50 U.S.C. 1702(b)で規定される貨物(信書、人道支援物資等)
  • カナダとメキシコからの輸入貨物に関しては、2025年3月2日に発表された大統領令の内容に従い、USMCAの原産地規則を満たす貨物は課税対象外とし、原産地規則を満たさない貨物についてのみ25%(うち、エネルギー等は10%)を課税する。また、既存の大統領令が撤回・停止された場合でも、USMCAの原産地規則を満たさない貨物には12%が課せられる。
  • 少額物品に対する免税制度(De minimis)は適用されず、少額物品の輸入であっても今回の相互関税に基づく税率での課税となる。しかしながら、この措置は当面は猶予され、後日に商務長官より大統領へ少額物品への課税開始の通知が行われた時点から有効となる。
  • 大統領は、貿易相手国が今回の措置に対する報復措置を実施した場合の関税の引き上げ、また、貿易相手国が非互恵的な貿易慣行を是正する措置を講じた場合に関税の引き下げを行うことを可能としている。

<相互関税の国別税率>

国名

税率

国名

税率

国名

税率

アルジェリア

30%

イラク

39%

ナイジェリア

14%

アンゴラ

32%

イスラエル

17%

北マケドニア

33%

バングラデシュ

37%

日本

24%

ノルウェー

15%

ボスニア・ヘルツェゴビナ

35%

ヨルダン

20%

パキスタン

29%

ボツワナ

37%

カザフスタン

27%

フィリピン

17%

ブルネイ

24%

ラオス

48%

セルビア

37%

カンボジア

49%

レソト

50%

南アフリカ

30%

カメルーン

11%

リビア

31%

韓国

25%

チャド

13%

リヒテンシュタイン

37%

スリランカ

44%

中国

125%

マダガスカル

47%

スイス

31%

コートジボワール

21%

マラウイ

17%

シリア

41%

コンゴ民主共和国

11%

マレーシア

24%

台湾

32%

赤道ギニア

13%

モーリシャス

40%

タイ

36%

EU

20%

モルドバ

31%

チュニジア

28%

フォークランド諸島

41%

モザンビーク

16%

バヌアツ

22%

フィジー

32%

ミャンマー(ビルマ)

44%

ベネズエラ

15%

ガイアナ

38%

ナミビア

21%

ベトナム

46%

インド

26%

ナウル

30%

ザンビア

17%

インドネシア

32%

ニカラグア

18%

ジンバブエ

18%

*上記に記載のない国については、一律10%が課税される。

2025年4月2日に発出された大統領令によって、世界各国から米国に輸入される幅広い物品が高い税率の相互関税の課税対象となっています。また、すでに課税が開始されている通商拡大法232条による追加関税(鉄鋼・アルミ、自動車など)、通商法301条による中国製品に対する追加関税に加えて、今回の措置が導入されることによって、輸出国・セクターごとに追加関税の影響が大きく異なることが予想されます。また、今回の相互関税については、医薬品・半導体など一定の品目が対象外となりましたが、これらは今後追加関税の対象となることが示唆されており、引き続き動向を注視する必要があります。

また、4月9日の修正を踏まえ、中国は2025年4月10日に米国製品に対して84%の追加関税を課すと発表し、さらに2025年4月11日には125%へ引き上げました。

欧州連合(EU)は、2025年4月8日に広範囲の米国製品に対する25%の関税を発表し、2025年4月15日から適用を予定していました6が、4月9日にトランプ大統領がEUに対する国別関税を停止したことを受け、EUも90日間停止することを発表しました7

今回の米国政府による一連の動きを受け、企業は次のような対策に着手することが重要となります。

  • データ分析による米国関税リスクの見える化およびシナリオモデリングの実施
  • 関税効果を考慮した移転価格フレームワークの導入による、関税リスクの低減
  • 調達・加工工程・生産拠点の見直しによる関税コストの緩和
  • 関税の戦略的管理を目的としたグローバル管理体制の構築

巻末注

  1. Executive Order: “Regulating Imports with a Reciprocal Tariff to Rectify Trade Practices that Contribute to Large and Persistent Annual United States Goods Trade Deficits – The White House,” dated 2 April 2025, The White House.
  2. Fact Sheet: President Donald J. Trump Declares National Emergency to Increase our Competitive Edge, Protect our Sovereignty, and Strengthen our National and Economic Security – The White House, dated 2 April 2025, The White House.
  3. Executive Order: “Modifying Reciprocal Tariff Rates to Reflect Trading Partner Retaliation and Alignment – The White House,” dated 9 April 2025, The White House.
  4. 2025年4月2日当初の対象国および税率は大統領令内のAnnex Iで言及されている。Annex-I.pdf
  5. 具体的な貨物およびHSコードは、Annex IIに規定されている。Annex-II.pdf
  6. "Commission proposal to impose trade countermeasures against US obtains necessary support from EU Member States," dated 8 April 2025, the European Commission.
  7. Statement by President von der Leyen,” dated 9 April 2025, the European Commission.


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