EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
今回ご紹介する最新法令等は、①保険会社向けの総合的な監督指針等の一部改正、②有価証券報告書の定時株主総会前の開示に関する相談窓口の開設、③大量保有報告制度における「重要提案行為等」、「共同保有者」の概念整理です。
昨今の保険金不正請求事案及び保険料調整行為事案を踏まえ、顧客本位の業務運営と健全な競争環境の実現を図るほか、相次いで発覚している情報漏えい事案への対応を図る必要があることから、「保険会社向けの総合的な監督指針」について、所要の改正が行われました。改正後の監督指針は、2025年8月28日より適用が開始されております。
具体的な改正内容の概要は、以下のとおりです。
①保険会社による、保険代理店の管理監督・教育体制等の基準・手法の明確化に関する規定の新設
②二以上の所属保険会社等を有する保険募集人が、保険会社等に対して過度の便宜供与を求めること、及び保険会社等から過度の便宜供与を受け入れることを防止するための措置についての規定の新設
③保険会社による、保険代理店等に対する過度の便宜供与の防止に関する規定の新設
④保険会社による、保険代理店に対する不適切な出向の防止に関する規定の新設
⑤代理店手数料の算出方法の適切性に関する規定の新設
⑥顧客等に関する情報管理態勢(Need to Know原則等)に関する規定の新設
⑦政策保有株式の縮減に関する規定の新設
⑧保険仲立人が受け取る手数料等の請求方法及び手数料等以外に受領するサービスの対価に関する規定の新設
有価証券報告書には、役員報酬や政策保有株式等のガバナンス情報等、投資家がその意思を決定するに当たって有用な情報が豊富に含まれており、上場会社においては、投資家が株主総会の前に有価証券報告書を確認できるよう、できる限り配慮することが望ましいと考えられることから、金融庁では、従前より有価証券報告書の定時株主総会前の開示(以下「総会前開示」と言います)を推奨しており、2025年3月28日には、全上場会社に対し株主総会前の有価証券報告書等の開示について要請文を出していました。
本相談窓口においては、総会前開示の実施を検討している、又はすでに実施しておりさらに取り組みを進めようとしている、上場会社からの相談を承ることが予定されています。
なお、EY新日本有限責任監査法人では、2025年1月15日に総会前開示の現状と今後の展望について記載したレポートを作成・公開していますので、こちらもぜひご参照ください。
金融庁は、2025年8月26日、「大量保有報告制度における『重要提案行為等』・『共同保有者』に関する法令・Q&A等の整理~機関投資家と投資先企業の建設的な対話に向けて~」を公表し、その中で「重要提案行為等」と「共同保有者」の制度概要、解釈に関して記載をしています。
特例報告制度の下では、事前に届け出た「月2回の基準日」において、大量保有報告書及び変更報告書の提出義務の有無を判断し、当該基準日から5営業日以内にこれらの報告書を提出すれば足りることとされています。しかし、提出者が「重要提案行為等」(投資先企業の株主総会において、又はその「役員」に対し、発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼす行為として政令に列挙する「一定の事項」を提案する行為)を行う場合には、特例報告制度を利用することはできません。特例報告制度を利用する金融商品取引業者等にとって、日々提出義務の有無を確認する行為は煩雑であることから、「重要提案行為等」の該当性については、重要な関心事項となります。
また、大量保有報告制度においては、「共同保有者」がいる場合には、自らの株券等の保有分に加えて、当該「共同保有者」に関する事項(保有株式等を含みます)についても報告対象となるため、どのような場合に「共同保有者」に該当するのかについても、重要な関心事項となります。
以上から、金融庁が上記2概念について整理・公表したものが本件になります。
以下の3つの要件を全て充足する場合には、「重要提案行為等」に該当する、とされています。
①提案要件:発行者(又はその子会社)に対する「提案」行為であること
②提案内容要件:提案内容が、金融商品取引法施行令14条の8の2第1項各号(2024年5月15日成立)に列挙されている事項に該当すること
③目的要件:発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼすことを目的とすること
このうち、目的要件の該当性については、上記提案内容要件のうち、
においては、目的要件を充足する可能性が高いとされています。
それ以外の事項については、目的要件に該当する可能性は低くなるものの、株主提案権の行使等、当該提案の採否を発行者の経営陣の自律的な決定に委ねない方法・態様により提案を行う場合には、目的要件に該当する可能性があるとされています。
以下の3つの要件を充足する場合には、当該者は「共同保有者」には該当しない、とされています。
①利用適格要件:(特例報告制度の利用主体と同じく)第一種金融商品取引業者、投資運用業者、銀行、信託会社、保険会社、農林中央金庫及び株式会社商工組合中央金庫、外国法令に準拠して外国において第一種金融商品取引業、投資運用業、銀行業、信託業又は保険事業を営む者であること。
②目的要件:共同して重要提案行為等をすることを合意の目的としないこと。重要提案行為等をすることが明示的に合意の対象に含まれる場合のみならず、共同して重要提案行為等をすることが合意の前提となっている場合や、共同して重要提案行為等をするために当該合意をしたという背景がある場合は、本要件を充足しないことになります。
③個別の権利行使合意要件:個別の権利行使ごとの合意であること。より具体的には、(i)株主総会ごとにする合意であって、(ii)議案をほかの議案と明確に区別できるよう特定し、かつ、(iii)当該議案に対する賛否を定めて当該議案について共同して議決権行使をすることを合意するものを言います。
EY弁護士法人
津曲 貴裕 パートナー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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