【コラム】永住許可制度は次のステージへ
~パブリックコメントから読み解く「永住許可ガイドライン改定案」のポイント~

2026年7月、出入国在留管理庁は、永住許可に関するガイドライン改定案を公表し、パブリックコメントの募集を開始しました。まだ最終決定ではありませんが、2024年の入管法改正や政府が掲げる「外国人との秩序ある共生社会」の方針を踏まえると、基本的な方向性は維持されたまま制度化される可能性が高いと考えられます。


1. 今回の改定案の概要

今回の改定案は、単なる審査基準の見直しではありません。外国人が日本で永住許可を受けるために求められる条件を明確化し、「日本社会への定着性」「ルール遵守」「将来にわたる自立性」をこれまで以上に重視する方向性を示したものといえます。

(1)改定のポイント

 

項目現行の考え方改定案
収入一定の安定収入日本人世帯平均収入以上を求める方向
年金明確な基準なし将来受給見込額も考慮
日本語能力明示なしCEFR B1相当を考慮要素化
日本の制度理解明示なし理解不足は消極評価
子どもの就学明示なし義務教育期間の就学状況を考慮
日本国の利益に合する程度(国益要件)明示なし「積極的かつ具体的に日本国に利益をもたらす必要があること」を明確化

(2)最大の変化は「国益要件」

今回の改定案で最も注目すべき点は、「その者の永住が日本国の利益に合すると認められること」という国益要件の考え方が大きく整理された点です。

改定案では、単に国益に反しないという消極的なものだけでは足りず、積極的かつ具体的に日本国に利益をもたらす必要があると明記されています。これまで永住申請においては、永住申請理由書等の中で、日本社会への貢献なども含めて、日本に利益をもたらしていることを具体的に主張立証しています。そのため、実務的には、まったく新しい考え方というわけではありませんが、裁判例等を踏まえて、日本国の利益に合する程度として明示的に高いハードルが課されたことから、国益に関わる種々の要素について、これまでよりもさらに慎重に対応する必要があります。

(3)「永住=一生日本で暮らす前提」という考え方

改定案では初めて、永住者は、生涯を本邦で過ごすことが想定される最も安定した法的地位だと明確に位置付けています。 これは非常に象徴的なメッセージです。つまり入管庁は、単なる在留資格の1つとしてではなく、「将来的に日本社会の構成員として生活し続ける人」として永住者を位置付けようとしていることが読み取れます。

(4)日本語能力

改定案では、CEFR B1相当の日本語能力を考慮要素とするとされています。B1は決してネイティブレベルではありませんが、日本で生活し、役所手続や地域社会との関わりを持つ上で必要な最低限の水準として考えられます。これを日本語能力試験(JLPT)に当てはめると、N3~N2の中間のイメージになりますので、N3に合格をしていて、N2に向けて勉強をしているようなレベルになります。

CEFR B1レベルのイメージ
 

レベル内容
A1基礎的な挨拶
A2日常会話がある程度可能
B1仕事や生活で自立した意思疎通が可能
B2専門的な議論も可能

(5)子どもの就学も評価対象に

今回の改定案で注目される点の1つが、学齢期の子どもの就学状況です。学齢期の子どもを養育している場合、小学校・中学校への通学状況が考慮要素になります。これは永住許可の判断において、外国人本人だけでなく、家族全体の社会統合(Integration)を重視する考え方が反映されたものと考えられます。

(6)経済的自立への要求も強化

改定案では、将来の年金受給見込みまで確認する考え方が新たに示されました。すなわち、今回の改定案では、永住許可の審査において、現在の収入だけでなく、将来にわたって安定した生活を維持できるかという観点が重視されています。

①申請者の世帯の収入が一定水準を満たしているかが確認されます。
②その上で、その収入が今後も継続的に得られる見込みがあるかが検討されます。
③将来受給できる公的年金の見込額が十分であるかも審査対象となります。
④仮に年金受給額だけでは老後の生活資金として十分ではない場合でも、不足分を補うことができる預貯金や金融資産を保有している場合には、その点も考慮されることになります。

今回の改定案からは、「現在の収入」だけではなく、「将来にわたる経済的自立性」まで含めて総合的に評価しようとする入管庁の考え方がうかがえます。単なる「今の年収」ではなく、高齢期も含めた将来の生活安定性まで確認する方向性が示されているのです。


2. 企業への影響

今回の改定案は、企業にとっても無関係ではありません。
今後は外国人社員から、下記の相談が増加する可能性があります。

(1)永住申請の相談
(2)日本語能力要件の確認
(3)年収基準の確認
(4)子どもの教育に関する相談

特に高度外国人材の獲得競争が続く中、外国人社員のキャリア形成において「何年で永住許可を受けられるか」だけではなく、「永住許可を受けうる状態を維持できるか」という視点は重要です。外国人社員は、他社事例などを検討し、他社がどれだけ外国人社員の永住申請に協力的か、といった点がモチベーションやリテンションに影響する可能性があります。


3. まとめ

今回のガイドライン改定案は、永住許可制度を「長く住んだから認める制度」から「日本社会の一員として定着し、自立し、ルールを守りながら生活することが強く期待できる人に認める制度」へと再整理するものと位置付けることができます。また、同時期に公表されている永住者の在留資格の取消しに関するガイドライン案と合わせてみると、政府は「永住許可の入口」と「永住許可取得後の出口」の双方を見直し、永住許可制度全体の再設計を進めていることがうかがえます。今後パブリックコメントの結果を踏まえた修正が行われる可能性はありますが、日本語能力、制度理解、家族の社会統合、経済的自立といった要素を重視する方向性自体は、大きく変わらないものと考えられます。


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木島 祥登 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです