TradeWatch 2024年 Issue 2  EU CBAM:ASEAN企業への影響¹

TradeWatch 2024年 Issue 2  EU CBAM:ASEAN企業への影響¹



欧州連合(EU)の炭素国境調整メカニズム(CBAM)の導入は、世界の貿易フローおよび投資に重要な影響を与えます。東南アジア諸国連合(ASEAN)は中国と米国に次いで3番目に大きいEUの貿易パートナーであり2、特にCBAMによる影響を受けます。したがって、ASEANに拠点を置く企業は、財務的影響の理解、特定および評価、そして、CBAMの導入によって生じる広範な課題への対策を講じる必要があります。


CBAMとは何か、なぜ重要なのか

2023年5月17日、欧州議会は、Fit for 55政策パッケージ3の主要な方針を承認しました。

  • EU排出量取引制度(EU ETS)改革
  • EU CBAM

EU CBAM規則は、鉄鋼、セメント、肥料、アルミニウム、電気、水素といった炭素集約型の製品を、同等のカーボンプライシング政策が存在しない国から輸入する際に賦課金を適用する政策として導入されました。CBAMは、炭素に関する規制が緩い国に生産を移転したり、より炭素集約型の輸入品に置き換えたりする際に発生するカーボンリーケージのリスクに対処するように設計されています。

ASEANに拠点を置く企業はEUとの貿易量が多いため、2023年10月1日より適用された新たな要件や報告義務を理解する必要があります。

CBAMの実施には以下の2つの段階が設けられています。

1. 移行期間 — 2023年10月1日から2025年12月31日まで。柔軟性が高く、EU ETSに基づいた一定の排出枠が引き続き認められます。

2. 本格的な適用開始 — 2026年1月1日より。CBAM製品をEUに輸入できるのは認定CBAM輸入者のみとなり、CBAM証書の購入が義務付けられます。CBAMの本格的な適用開始により、EU ETSに基づく排出枠が段階的に廃止され、2026年1月1日以降はCBAMコストが大幅に増加します。

同時に、EUは、EU ETSに基づき、すでに対象とされている下流製品や製品カテゴリーを追加し(有機化学品およびポリマーなど)、CBAMの対象製品の範囲拡大を発表することが予想されます。移行期間中に、不完全または不正確なCBAM申告書を提出するなどCBAMの報告義務を怠った場合、CBAM規制当局が示した是正措置に対し必要な手続きを行わないときは、罰金が科される可能性があります。

CBAMはEUへの製品輸入や輸入者に焦点を当てているものの、ASEAN経済はEUと重要な貿易を行っているため、必然的にASEAN企業も影響を受けることが予想されます。輸出の性質によってはCBAMの対象範囲が広範となる国・地域もあり、CBAMの影響はASEANの地域によって異なる可能性が高くなっています。コストおよびコンプライアンス要件は別として、CBAMは、ASEAN諸国や企業にとって気候変動政策への取り組みを加速させる要素となるかもしれません。


ASEAN諸国・地域への影響

ASEANは、EUにとって欧州以外では3番目に大きな貿易パートナーです。EUは2022年に、CBAM対象製品および非CBAM対象製品を含む1,800億ユーロ相当の製品をASEAN諸国から輸入しました4

CBAMは、欧州で事業を行っているかどうかにかかわらず、EU向けに製品を製造し、輸出するASEANの製造業者および輸出者にも適用されます。そのため、包括的な追加報告およびサプライヤーや販売先との関与が必要となります。EUに輸入されるCBAM対象製品および第三者の販売先によってEUに持ち込まれるCBAM対象製品を販売するASEAN企業は、EUの輸入者が報告要件を満たせるよう、新たにCBAMコンプライアンスをサポートしなければなりません。販売先のCBAMコンプライアンスの履行をサポートできない、またはサポートしようとしないサプライヤーは、CBAMに対応できるサプライヤーに置き換えられるリスクがあります。

CBAMはEU域外で製造された製品がEU域内に輸出される際に発生する排出量に基づき課金するため、ASEAN企業は、排出量の価格上昇によって競争力に影響を受ける恐れがあり、その結果、サプライチェーンが変化する可能性があります。競争力を維持したい企業は、脱炭素化を早急に実現し、CBAM排出量情報に関する要件増加に対応するため、必要なデータをすぐに利用できるようにしておく必要があります。

欧州森林破壊防止規則など、他の持続可能性に関するイニシアチブと合わせて、CBAMは、企業の調達から製造、流通に至るサプライチェーンの決定方法を根本的に変化させることで、貿易パターンを大きく変更させる可能性があります。サプライチェーンの全ての関係者が、ディスラプションとその結果として生じる課題、機会に対処できるように適応しなければなりません。


企業が取るべき対策および将来の見通し

ASEAN企業は、CBAM対象製品を特定し、内外の関係者とプロセスを調整することで、CBAM要件による潜在的な影響を理解する必要があります。企業は早急に排出量データの収集を開始し、中期的には、データの収集を全体的な戦略に組み込むことで、市場での競争力を維持する必要があります。

特にETSにおけるEU炭素価格5は2018年から2022年に掛けて9倍に上昇しているため、EUに製品を販売する、またはEUで事業を行うASEAN企業は、EU ETSの炭素取引制度について深く理解しなければなりません。そのため、製品の陸揚げ価格に影響を及ぼす今後の課題をモデル化する必要があります。そして脱炭素化や製品の炭素排出量削減の方法を探る企業にとっては、ビジネスの回復力を計画することが重要になります。

サプライチェーンの変更によるコスト増加が予想されますが、ASEAN企業にとって悪い影響だけではありません。低炭素化の未来へ向けて、ASEAN諸国の政府は、脱炭素化やサーキュラーエコノミー、エネルギー効率に関連する活動を推進するために国・地域レベルのインセンティブを提供しており、企業は、利用できる外部サポートを活用できるように備える必要があります。

 

巻末注

  1. この記事は Bloomberg Taxで先に掲載されたものです。こちらをご覧ください。
  2. 欧州委員会ウェブサイト「東南アジア諸国連合(ASEAN)」こちらをご覧ください。
  3. 欧州理事会ウェブサイト「Fit for 55」こちらをご覧ください。
  4. 欧州委員会ウェブサイト「東南アジア諸国連合(ASEAN)」こちらをご覧ください。
  5. 国際炭素行動パートナーシップウェブサイト「Allowance Price Explorer」こちらをご覧ください。

 

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