TradeWatch 2024年 Issue 2 移転価格と関税評価 — 永遠の対立をグローバル規模で捉える試み パートII

TradeWatch 2024年 Issue 2 移転価格と関税評価 — 永遠の対立をグローバル規模で捉える試み パートII



本稿は、関税評価の観点から遡及的な移転価格(TP)調整をめぐる複雑さと曖昧さについての認識を高めることを目的とした3部構成のシリーズのパートIIです。TradeWatch 2024年 Issue 1に掲載されたパートI1では、欧州司法裁判所(CJEU)による画期的な浜松ホトニクス判決2の余波を受けた税関当局の姿勢を概観するとともに、ドイツにおける課税価格の上方調整に関する最近の動向を紹介しました。

このパートIIでは、議論の幅を広げるべく、さまざまな国・地域におけるこのような問題の取り扱いに関する視点を提供することとし、EY Global Tradeのネットワークを活用したハイレベルな比較可能性分析を行いました。その結果、世界的にさまざまな方法論が混在していることが明らかになり、関税評価上のTP調整を綿密に評価することの重要性が浮き彫りになりました。


EYグローバル関税評価調査

概要、パラメータ、重点分野

EYグローバル関税評価調査は、EUの関税地域の境界を越えて、関税評価上の遡及的なTP調整の取り扱いにおいて、欧州連合(EU)加盟国の税関当局のアプローチの違いや、同時に企業にとっての関連性を考慮し、特定の貿易分野の輸入者にとっての課題と機会について基本的な概観を提供することを目的としています。

遡及的なTP調整をめぐる関税評価における長年の議論の問題の核心を発見するために、アジア太平洋、EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)、南北アメリカの40を超える国・地域にまたがるEYのネットワーク内の現地の専門家の知見を求めました。この取り組みは、輸入品の関税評価額に対する遡及的な調整に関する異なる行政上の解釈の影響を理解したい、というクライアントのニーズから始まりました。

EYは、企業にとっての課題を浮き彫りにし、潜在的な機会を特定することを目的として、いくつかの側面で調査しました。EYの分析は、関連者間の輸入取引の関税評価を規定する標準的な法的枠組みや、このような状況における取引価額方式(Transaction Value Method:TVM)の一般的な適用可能性にとどまりません。さらなる洞察を提供するために、関連する業務上の質問についてより掘り下げました。調査項目は次の通りです。

  • 税関当局が関連者による販売と見なす際の識別基準は何か?その結果、どのようにして当局はその関係性が価格に影響したと結論付けるのか?
  • 現地の税関当局は、どのような状況であれば、TVMに基づく関税評価額の算定に同意するのか?また、TVMが適用できない場合、税関当局はどのようにして関税評価額を算定しようと考えるのか?
  • 法的確実性を得るために、事前教示を受けることは可能か?
  • 税関当局は、上方調整(追加関税)および下方調整(還付機会)をどのように取り扱うのか?

次のセクションでは、さまざまな行政上の慣行が企業に与える主な影響の要約、およびTPと関税評価額の関連性についてのさらなる背景の説明を提供し、最後にEYグローバル関税評価調査から浮かび上がったこの点に関するいくつかの主な傾向を紹介します。


出発点:異なるアプローチで起こり得る結果

まず、TP調整から生じる可能性のある結果を探ることで、さまざまな国・地域で観察される多様な方法論についての予備的な調査を行い、このトピックの重要性に関する最初の視点を提供します。

遡及的なTP調整は、関税評価額の算定、ひいては関税納付額に多くの結果をもたらす可能性があります。これらの結果は、4つの異なる包括的なカテゴリーに分類することができます。それらは、図1のシナリオ1~4に示されているように、大別して、十分な文書化による裏付けがある場合とない場合、そしてそれぞれの場合における下方調整と上方調整です。採用される具体的なアプローチによって、事業者はさまざまな財務状況に置かれる可能性があり、適切な各種措置を講じる必要があります。

さらに、還付が認められない、または他のパラメータに基づいて追加関税が課されるという追加のカテゴリーが認識されています(図1のシナリオ5)。この分類は、ドイツの税務当局が税関総局の内部文書(非公開)に基づいて現在適用している論理的根拠と類似しています。2022年に連邦財政裁判所が発表した浜松ホトニクス判決とは、輸入の確定日という概念が考慮されていないため、厳密には一致していないように見える点では注目に値しますが、関税及び貿易に関する一般協定(GATT)に基づく「真正かつ公正な価値(true and fair value)」の原則を採用しているため、このような論理的根拠は概念的には理解できます。

図1

    図1


    事後調整

    関税は通常、輸入時に計算されます。したがって、輸入時に申告した価格に対して、その後の計算が遡及的に影響する可能性があります。この事実にどのように対処するかは、税関当局にとっての課題となります。この課題は、浜松ホトニクス判決の一部として欧州内で取り上げられましたが、その影響はさらに広がり、比較分析を行ったEYグローバル関税評価調査で明らかになったように、世界の他の地域でも混乱を引き起こしています。

    TradeWatch 2024年 Issue 13では、転機となる浜松ホトニクス判決を受けた、ここ数年のドイツ政府のTP調整に対するアプローチの変化について詳しく検討しました。画期的な浜松ホトニクス判決以前、EYが知る限り、税関当局は、グループ内の買い手と売り手の関係性が価格に影響を及ぼしていないことを証明する十分な文書化を条件に、遡及的なTP調整後、還付の適格性を判断したり、追加関税を課したりしていました(この点は、浜松ホトニクス判決では全く言及されていません)。何をもって「十分な文書化」とするかの基準は、税関当局によってさまざまな解釈がありました。

    浜松ホトニクス判決の後、欧州におけるシナリオ1および2(すなわち、文書化に裏付けされた下方調整または上方調整)の進展、特に税関当局が還付および追加関税の評価に判例をどのように取り入れたかを観察することは興味深いことでした。この期間にはまた、運用指針の改訂、関連する事件についての国家および地方レベルの裁判所による判決、そして既存の関税評価の弁明を余儀なくされた事業者への影響も見られました。


    異なるTP算定方法に基づく関税評価額の設定:利益率に基づく方法と利益率に基づかない方法

    関税評価額の基礎であり、当初設定された関税評価額が遡及的に調整された場合の混乱の原因となる、関連者間TPの構成について検討したいと思います。これは、関連者間取引の関税評価額の計算において特に重要です。

    OECD TPガイドライン4は、5つの異なるTP算定方法を概説しています。TP算定方法は、伝統的取引基準法である独立価格比準法(CUP法)、原価加算法(CP法)、再販売価格法(RP法)、ならびに取引利益基準法である取引単位営業利益法(TNMM)と利益分割法(PS法)に分類されます。しかし、関税評価の観点からは、これら5つの方法を利益率に基づくアプローチと基づかないアプローチに分ける方が適切かもしれません。この区分は、この対立する分野における中心的な課題である、利益率を考慮した遡及的な調整から生じます。

    遡及的な調整の実行可能性は、採用するTP算定方法だけでなく、該当する税務管轄地の特定の規制や慣行にも左右されます。しかし、一般的には、利益率に基づくTP算定方法は、遡及的な調整の対象となりやすく、したがって、その固有の特性により、世界中の税関当局によって関税評価額として異議を唱えられる可能性が高いことが確認されています。

    すべての算定方法は、独立企業間価格の設定または維持を目的としています。しかし、個々のビジネスにおいて独立企業間価格を設定するために使用される方法は、そのアプローチにおいてこの目的から逸脱する可能性があります。最適な方法は、取引の性質、信頼できるデータの入手可能性、その企業のTPポリシーとの整合性など、さまざまなパラメータに基づきます。TPおよび関税評価の全体的な目的は、グループ企業間で、比較可能な取引および状況において、独立企業間で設定されたであろう価格を反映する価格に到達することです。

    利益率に基づくTP算定方法は、企業が得る利益に焦点を当て、通常、全体として一定の利益率を達成することを目的としています。

    グループレベルで適切な利益率を達成するために、関連者間で製品をバンドル販売するというこの側面は、製品レベルで独立企業間取引が適切に考慮されていると示す十分な証拠がないため、税関当局がTVMの適用を認めない主な論拠となっています。このような場合、浜松ホトニクス判決の根拠、すなわち、関税評価額の評価は特定の時点、特定の製品に限った評価であるということが関係してきます。

    例えば、TNMMは「利益率に基づくTP算定方法」として分類される可能性があります。TNMMは、関連者間取引における納税者の営業利益率を、比較可能な非関連者間取引における比較対象企業の営業利益率と比較します。

    TNMMでは多くの場合、売上高営業利益率や総費用営業利益率などの利益水準指標を比較対象企業に基づいて目標設定します。期末時点(またはその他の予期される期間)の実績が、目標とした独立企業間レンジと異なる場合、実績を独立企業間レンジ内に収めるために、遡及的な調整が行われる可能性が高くなります。

    利益率に基づかないTP算定方法は、利益率ではなく、取引自体の価格や価額に焦点を当てます。

    例えば、CUP法では、関連者間取引で請求された価格と、比較可能な非関連者間取引で請求された価格を比較します。

    利益率に基づかない方法(CUP法など)は、利益の結果ではなく、実際の取引価格に基づいているため、遡及的な調整を伴う可能性は低くなります。しかし、関連者間取引と非関連者間取引との間に重要な差異が特定された場合には、調整が必要となる場合があります。法人所得税の観点からは、それぞれの期間が終了した後でなければ課税標準と実効税率(ETR)が計算されない場合、それが弊害となる可能性があり、遡及的な調整は当然ここでも考慮されます。


    EYグローバル調査より:注目点と傾向

    EYグローバル関税評価調査では、グローバル規模での遡及的なTP調整に対するさまざまなアプローチを比較しました。その結果、利益率に基づくTP算定方法について、具体的なガイドラインや文書化要件を設けている国・地域もあれば、明確な規定を設けていない国・地域や、これらの方法が関税評価に影響を与えた事例がない国もあることがわかりました。TP調整と関税評価のアプローチは国によって異なります。

    図2:EYグローバル関税評価調査の対象国・地域

      図2:EYグローバル関税評価調査の対象国・地域

      EYグローバル関税評価調査の対象国・地域

      この長年の対立の核心問題を発見するために、アジア太平洋、EMEIA(欧州・中東・インド・アフリカ)、南北アメリカの40を超える国・地域にまたがるEYネットワークの現地の専門家の知見を求めました。

        オーストラリア

        アイルランド

        南アフリカ

        オーストリア

        イスラエル

        韓国

        ベルギー

        イタリア

        スペイン

        ブラジル

        日本

        スウェーデン

        カナダ

        リヒテンシュタイン

        スイス

        中国

        マレーシア

        台湾

        エジプト

        メキシコ

        タイ

        フランス

        オランダ

        トルコ

        ドイツ

        ノルウェー

        ウクライナ

        ギリシャ

        ポーランド

        アラブ首長国連邦

        香港

        ルーマニア

        英国

        ハンガリー

        サウジアラビア

        米国

        インド

        セルビア

        ベトナム

        インドネシア

        シンガポール

        法的枠組みと行政上の慣行

        EYの調査において対象となった国・地域の大半が世界貿易機関(WTO)の関税評価協定5を採用していることから、スイスとリヒテンシュタインを除くすべての国・地域では、TVMが一般的に好ましい方法とされています。EUのような地域は、条例レベルでは共通の法的枠組みを有していますが、個々の国・地域は、補足的な規制を実施し、その地域の解釈を採用することがよくあります。規制の詳細さ、独自の評価方法、執行慣行などに違いが生じています。国際的な整合性を目指しているにもかかわらず、このような差異が、世界的な通関手続きの一貫性と予測可能性に影響を及ぼしています。

        また、実施と執行の慣行が国・地域によって異なることも分かりました。さまざまな規制機関やガイダンスの情報源が、関税評価の適用方法にさらに影響を与えており、WTO関税評価協定との国際的な整合性に向けた努力にもかかわらず、大きなばらつきが生じています。


        関連者間取引に適用される関税評価方法

        関連者間取引に使用される関税評価方法に関して、本調査における各国・地域からの情報から浮かび上がった全体的な傾向は、TVMが主に使用される方法であるということです。しかし、TVMが関連者間サプライの関税評価の出発点である一方で、関連者間取引に関わる場合には、柔軟性が必要であり、通関要件を遵守するための徹底した文書化が必要であることも、調査結果から明らかです。

        TVMが適用されない、または税関当局によって拒否される事例についても、いくつかの共通するテーマと慣行が浮かび上がります。特に、多くの国・地域において、独立企業間原則が一貫して重視されています。買い手と売り手の関係性が価格に影響を及ぼしていない場合、一般的にTPをTVMの基準として使用することができます。さらに、香港などのさまざまな国・地域では、追加の条件を満たす必要があり、例えば、その後の販売から得られる収益を考慮する必要があります。

        輸入者は、TPが独立企業間価格であり、したがって関係性が価格に影響しなかったことを立証するために、十分かつ関連性のある文書化を示すよう求められることがしばしばあります。これには移転価格スタディ、契約書、比較可能な取引のデータなどが含まれ、税関当局は通常、輸入者に提出を求めます。全体として、調査の回答からは、具体的な文書化要件は国・地域によって大きく異なる可能性があるものの、その目的は、申告価格が独立企業原則に則っており、関連者間の関係性が取引価格に影響を及ぼしていないことを確認することであることが分かります。国・地域によっては、輸入者はTPをTVMの基準として使用することを裏付けるための包括的で詳細な文書化が必要とされるかもしれません。

        税関当局は、関連者間取引を検証し、価格が非関連者間取引と整合していることを確認する可能性があり、その結果、TPに基づく計算に異議を唱える可能性があります。

        調査の対象となったほとんどの国・地域では、TVMは通常TPを基準にしていますが、いくつかの国・地域では、当事者間の関係性が価格に影響を与えなかったことを証明するために必要な標準的な文書化を超える、この分野におけるさらなる制約が示されています。具体的には、欧州では、ドイツ、スウェーデン、英国のような特定の国・地域が、利益率に基づくTP算定方法を採用する場合、価格が関連者間の関係性によって影響を受けたとして異議を唱えられる可能性が高いことを明確に示しています。英国やスウェーデンなど一部の国では、利益率に基づくTP算定方法を前提とする関連者間取引にTVMは適用されないというスタンスをある程度取っています。

        TVMが適用されないと判断された場合、輸入者は代替的な評価方法に基づいて関税評価額を設定することを余儀なくされます。その場合、申告者は、その計算を立証する十分な証拠を提出しなければならず、税関検査により影響を受けやすい立場に置かれる可能性があります。


        運用指針と関税評価の事前教示

        一部の国・地域では、特に関連者間取引やTPに関して、輸入者が関税評価の複雑さを理解するために利用できる事前教示や運用指針を提供しています。しかし、利用可能な支援は国・地域によって大きく異なり、具体的な拘束力のある事前教示から抽象的な運用指針に至るまでさまざまです。一部の国・地域では、企業は関税評価の事前教示を受けるよう助言されることがあり、また他の国・地域では、現地の法律執行上の解釈を理解するためには現地の税関専門家の経験が必要とされます。

        この点に関して、EUが最近、拘束的関税評価情報(BVI)の決定に関連する新しい規則を公表したことにも注目したいと思います。新しい規則は、欧州委員会委任規則2024/1072および欧州委員会施行規則2024/1071に盛り込まれており、2024年5月5日に発効し、2027年12月1日から適用されます。EUの国際貿易専門家は、BVIプロセスが、報告期間終了時の調整・修正の計上など、その後の問題を最小限に抑えることに役立ち、納付すべき関税面で安全な貿易環境を促進することを期待しています。


        関税評価額に対する遡及的な調整

        本調査の主たる目的は、選定された国・地域における遡及的なTP調整(下方調整と上方調整の両方)の取り扱いについて洞察を得ることでした。EYは、遡及的なTP調整について以下の点を調査しました。

        -事前確認制度(APA)に従って行われ、関連する税務当局によって認可され、OECDガイドラインに沿っているか
        -通常、関税評価額の決定に反映されているか

        全体として、税関当局は、遡及的なTP調整および関税評価額の調整の調査を強化していると認められます。一般的な意味において、遡及的なTP調整は多くの場合、関税評価額の調整において考慮されます。これは、輸入品の取引価格は、TVMに従って実際に支払われた、もしくは支払われるべき価格、またはより一般的には商品の真の経済価値を反映すべきであるという原則によるものであり、TP調整によって影響を受けます。同時に、調査のレベルは国・地域によって大きく異なります。この背景には、浜松ホトニクス判決のような、TP調整が関税評価に与える影響について注目を集めた判例があります。その結果、事業者はより厳格なコンプライアンス・チェックを受けるようになり、TP調整を正当化するための徹底した文書化の整備が求められています。

        EYが受け取った多くの国・地域からの情報は、遡及的なTP調整への数多くのアプローチと、それが関税評価に与える影響を示しています。注目すべき主な点は次の通りです。

        • 情報開示の手段:さまざまな国・地域(米国やドイツなど)の税関当局は、関税評価が適正に行われるように、通知文書によるガイダンスや自主的な開示の選択肢を含め、企業が遡及的なTP調整を開示し、修正するための仕組みを提供しています。さらに、製品と適用税率には関連性があることから、ほぼ全ての地域において、そのような調整を報告し会計処理するための手続を明確にする、企業と税関職員との間の体系的なアプローチが見受けられます。その例として、オーストリア、ドイツ、オランダが挙げられます。
        • 輸入品との明確な関連付け:共通の課題は、遡及的なTP調整と影響を受ける特定の輸入品との間に明確な関連付けをすることです。この関連付けは、一部の税関当局が関税評価上の調整を受け入れる上で極めて重要であり、中国、ドイツ、イタリア、タイの税関当局が明確に示しています。
        • 上方調整と下方調整に対する異なるアプローチ:ドイツ、韓国、インド、タイなどの多くの行政機関は、遡及的な調整の取り扱いに差異があり、上方調整と下方調整に対して異なるアプローチを適用しています。このため、上方調整には追加関税が課され、下方調整には関税の還付が認められないという不満足かつ疑問の多い状況が生じます。
        • 上乗せ金利の支払い:一部の国・地域、特にインドや、さらに南アフリカ、ウクライナなど他の国でもある程度見られることですが、遡及的なTP調整によってサプライヤーへの追加支払いが発生する場合、税関当局は調整後の関税評価額に対する金利の支払いを要求することがあります。これは、輸入者の経済的負担をさらに増加させます。
        • 時間的制約:ほとんどの国・地域では、税関申告を修正するための期限を定めています。オランダなどの一部の国・地域では、このような場合の時間的制約は、当局と輸入者の間で個別に確認されます。これらの期限を遵守しない場合、罰則が科せられ、調整プロセスが複雑になる可能性があります。
        • 税関申告書を修正する仕組みの欠如:アブダビなどの一部の国・地域では、現在、一度提出された税関申告書を修正する仕組みがありません。これは、遡及的なTP調整を行う必要がある企業にとって大きな課題となります。
        • 一貫した慣行や運用指針の欠如:ほとんどの国・地域では、遡及的なTP調整はケースバイケースで扱われており、ドイツや英国に見られるように、一貫性のない結果となっています。このような調整を処理する標準化された方法がないという取り扱いは、企業にとって不確実性をもたらす可能性があります。いくつかの国・地域では、遡及的なTP調整とその関税評価への影響について、法律と運用指針でほとんど言及されていないことが示されています。このように説明が不十分であるため、企業はどのように対応すればよいのか、明確な方向性を見いだせないままです。

        関税評価上の遡及的なTP調整の取り扱いには大きなばらつきがあり、多国籍企業にとって複雑な環境となっています。今回浮き彫りとなった課題は、コンプライアンスを確保し、税関当局との係争リスクを最小限に抑えるためには、現地の専門知識が必要であることを強調しています。


        企業が直面する実務上の課題

        企業が関税評価方法を適用する際に直面する実務上の課題は多岐にわたりますが、関連者間取引におけるTVMの適用可能性や、遡及的なTP調整が発生した場合の取り扱いについて、EY Global Tradeの専門家は次のような重要ポイントを強調しています。

        • TVMの一部としてTPに基づく関税評価額を決定する場合、企業にとって重要な課題は、取引当事者の関係性が価格に影響を与えていないという条件と移転価格スタディを整合させ、十分な証拠を提出することにあります。税関当局は、製品ごとに移転価格スタディの論理的根拠を精査することがあり、それが必ずしも定められたTVMと一致するとは限りません。それぞれの国・地域における関税評価ディフェンスファイルの要件に大きなばらつきがあるだけでなく、さまざまな入力情報の詳細度にも大きな違いがあります。
        • EYの調査によると、世界各国の税関当局は、遡及的なTP調整とその関税評価額への影響についてますます精査するようになっており、その慣行は国・地域によって大きく異なることが明らかになりました。特定の国・地域では、一貫した慣行や運用指針がないため複雑さが増しており、コンプライアンスを確保し税関当局との係争を回避するためには、現地の専門知識が必要となります。
        • したがって、真の実務上の課題は、立証責任は輸入者にあり、輸入者は各国の具体的な状況を把握していなければならないという事実にあります。事業者は、事業を展開する各国・地域におけるTP調整に関連する関税評価の要件を積極的に理解し、遵守する必要があります。これには、法的な動向について常に情報を得ること、税関当局と連携して要件を明確にすること、潜在的な調査や係争に備えることなどが含まれます。また、企業は、自社のTPポリシーが関税に与える影響を考慮し、それに応じたリスク管理と、コンプライアンスを確保するための計画策定を行うことが求められます。

        これらの調査結果は、税関業務のダイナミックで進化する分野を反映しており、判例、国際的なガイドライン、各国の政策が交錯することで、関税評価における遡及的なTP調整の取り扱いが具体化されています。

        さらに、どんなに優れた予算編成プロセスでも予見することのできない課題があります。それは、市場環境の展開です。そして、そのような状況である限り、予算データ(すなわち、予測価格)と輸入の確定時点での商品の実際の価値との間には、常にギャップが存在することになります。このギャップを軽減し、継続的に減らしていくことが、TPを関税評価額として適用することによって生じる関税評価リスクを軽減するための今後の決定的な要素となります6


        結論:グローバルな統一性と国別ガイドラインの欠如

        驚くことではありませんが、国際的なガイドラインに定められた関税評価の包括的な主要原則にもかかわらず、関税評価上の遡及的なTP調整の取り扱いについては、依然として世界中の国・地域で大きなばらつきがあります。実際、関連者間取引における関税評価へのアプローチには、関連者間取引におけるTVMの適用可能性、必要な文書化、関税評価額に対する遡及的TP調整の考慮など、いくつかのレベルで大きなばらつきがあります。一部の国・地域には、明確に定められたガイドラインやプロセスがありますが、他の国・地域では、この問題に関して具体的な規制がない場合があります。このような統一性の欠如は、複数の国・地域で事業を展開する多国籍企業にとって、要件や解釈が異なる複雑な状況を乗り切らなければならないため、課題となる可能性があります。

        TradeWatch 2024年 Issue 3に掲載予定のこの3部作の最終回では、特定の国についてのより詳しい考察と、現地の専門家による知見をご紹介します。

          巻末注

          1. “Transfer pricing and customs valuation — a conflict for eternity? An attempt to view this conflict at a global scale,” TradeWatch Issue 1 2024, page 14をご参照ください。
          2. CJEU 15 December 2016, C-529/16 (Hamamatsu Photonics), ECLI:EU:C:2017:984.
          3. “Transfer pricing and customs valuation — a conflict for eternity? An attempt to view this conflict at a global scale,” TradeWatch Issue 1 2024, page 14をご参照ください。
          4. OECDウェブサイト「OECD Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations」 こちらをご覧ください。
          5. WTOウェブサイト「WTO Valuation Agreement」こちらをご覧ください。
          6. 複数の国・地域が行う価格の比較を参照しています。製品の価格に乖離が生じれば、税関当局による疑念を引き起こす可能性があります。このようなアプローチは、CJEUのFawkes判決によってECでも促進されていますが、日次(または少なくとも週次や月次)の条件に基づいて価格を変更し続けるのであれば、商品の価値は輸入の確定時点で決定するという、世界中の全ての関税評価規則が掲げる目標を達成することにはなります。